4話 帰る場所

 ……ボクは人さらいに拐われて……そしてボクはシズおねえちゃんから逃げだした。

 一度倒れて、起き上がったシズおねえちゃんは…まるで…お話で聞いた恐ろしい怪物のように人を殺してしまった。

 あれは本当にシズおねえちゃんだったの?

 もしかして…シズおねえちゃんは死んでしまって怪物になってしまったの?

 そんな考えさえ浮かんでしまうくらいに恐ろしかった。

 必死で走っているうちに息が上がって、動けなくなってへたり込んでしまい、嫌な考えだけが頭を巡っていく。

 そんなハズない!と嫌な考えを頭から追い出す。

 シズおねえちゃんはボクを助けに来てくれたんじゃないか!

 必死にボクを抱えて走って…それで……

「あっ」と声が漏れて思い出す。

 シズおねえちゃんの瞳…綺麗な…蒼色だった…お父様と同じ色の蒼い瞳。

 毎日ボクに笑いかけてくれた、あの細めた瞳は間違いなく灰色だったはずなのに……。

 どうして?どうして?もしかして…魔法?

 隠してたの?どうして?どうして?

 戻らなきゃ…シズおねえちゃんの所に…それでボクのことをちゃんと話さなきゃ…蒼い瞳の子供を探してたって……公爵家の養子だって。

 立ち上がってシズおねえちゃんの所に戻ろうとして…今、自分が何処にいるのかわからないことに気づいてしまう。必死で走っているうちに道がわからなくなっていた。

 泣きそうになったけど何とか足を動かす。

 シズおねえちゃんはひどく痛めつけられていた…助けを呼ばないと…誰でもいいから人を見つけないと…。

 しばらく歩いたところで遠くに人が見えた。あれは公爵家で見た…騎士の…鎧?


「た…助けて!!」


 必死の叫びはなんとか届いたみたいで二人組の騎士がこちらに駆け足でやってきてくれる。街の巡回をしていた騎士に運よく会えたんだろう。


「君!どうした!」

「あっあの…人さらいが…シズおねえちゃんが…」

「人さらい…君は逃げてきたのかい?誰か一緒にいたのかい?」

「…おい、その子…ジョセフィンド様じゃないか…?団長が行方不明だと言っていた。屋敷で見たことが…」

「なんだと?…君、名前は!?ジョセフィンド様なのか?」


 ボクは久しぶりに聞かれた本名に頷いてしまう。


「…人さらいに拐われていたのか…公爵家のものを狙うとは…!」

「ジョセフィンド様、どちらにいたか分かりますか?」

「暗い空き家みたいなのに…あ、あのケガしてる女の子がいるんです!助けてあげて!」

「街の北東か…?よし…屋敷にジョセフィンド様と行って団長に伝えろ。私は詰所に応援を頼んでくる」

「分かった、ジョセフィンド様、失礼します」


 ボクは騎士の人に抱きかかえられて公爵家のお屋敷に帰ることになった。


 ▽ ▽ ▽


 お屋敷に到着した…。

 門を通って屋敷の玄関の前までやってくる。

 帰ってきてしまった…。ボクは帰ってきても良かったのだろうか?


 騎士が叩く前に扉が開く。中からローレンスさんが音をたてずにスッと出てきた。


「騎士殿、こんな夜半に騒々しいですな」

「失礼、ローレンス殿。だが緊急の要件なのだ…フェルナンド団長に至急目通りしたい」

「フェルナンド様はお休みになられました。私が用向きを伺いましょう」

「だが……」

「あぁ、ジョセフィンドお坊っちゃま、ご無事でしたか…酷いケガです…騎士殿、ジョセフィンドお坊ちゃまをこちらに、治療いたします」


 ローレンスさんは有無を言わさない迫力でボクを騎士の手の中から抱き上げてしまう。


「騎士殿、他に何かございますか?お坊っちゃまを治療しなければ」

「……ジョセフィンド様は人さらいにあっていた…これより騎士がそのアジトらしき場所へ向かうとフェルナンド団長に伝えてもらえないだろうか?」

「承りました、ではこれで失礼します」


 ローレンスさんはボクを抱えて屋敷に入るとすぐに鍵を閉めてしまう。


「ジョセフィンドお坊っちゃま、お久しぶりでございます…お勤めは果たされましたか?」


 お勤め……蒼い瞳の子供……シズおねえちゃん……。


「ナサニエル様はお坊っちゃまに大層期待しておられましたよ」


 期待…ボクに……ボクは静かに、深く頷いた。


「それはようございました。ナサニエル様は本日はもうお休みでございます。明日、お勤めの成果をお話いたしましょう。ジョセフィンドお坊っちゃまもゆっくりお休みになると良いでしょう」


 それから…ローレンスさんの魔法で治療されて体も綺麗にされて、服も上等な寝間着を着せてもらった…。こんなに丁寧な対応はされたことがなかった。

 そのままどこかの部屋に通されてベッドに横になる。

 ベッドはフカフカで柔らかなのに…暖かくなかった。久しぶりの1人の夜は寂しくて全然眠れなくて…帰ってこれたの?、帰ってきてよかったの?と頭の中で自問自答を繰り返しているうちに夜が明けてしまった。





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