3話 温もり

 シズさんにつれてこられたのは…木の小屋が沢山並んでるところだった……もしかして、ここがスラム…?

 ここに蒼い瞳の子供がいるのかな……。


 シズさんは誰か女性に捕まってる…。

 …シズさん、あれ?息できてる?!大丈夫?!


 シズさんを捕まえていた豪快な女性はアマンダだと名乗ってくれる。

 シズさんと同じようにボクのことを色々と聞いてくる…素性がバレるわけにはいかないからなんとかやり過ごさないと…!


 それからは色々あって、アマンダさんの家族と一緒に夕食をとることになった。アマンダさん達はボクのことを迷子だと思ってくれたみたいだ……騙しているようで気が引けてしまう…。


 食事はとても質素なものだった……味も薄くて公爵家で食べていたものと比べたら全然美味しくなかった…でも食卓はとても賑やかで皆笑い合っていて…ボクも思わず笑ってしまう……公爵家の人はボクに余所余所しく接してきたのに…ここの人は初対面なのにとても親しく接してくれる。どうして…?


 それとシズさんはボクより年上だった。

 3つ…もうすぐ誕生月だそうだから4つかな?

 それでシズおねえちゃんってつい呼んでしまった……。公爵家のお義兄様達は…年が離れすぎてたから…兄弟なんだっていう感じはしなかったし、その息子さんはボクと関わろうともしなかかった…。無意識にちゃんとした兄弟に憧れていたのかもしれない…。

 シズさん…シズおねえちゃんは気はずかしそうにしていたけれど……本気で嫌じゃないみたいだ…。


 それにシズおねえちゃんは凄い魔法使いだった。

 公爵家にもお掃除を魔法で出来るメイドさんなんかがいたけれどシズおねえちゃんはもっと凄い。……魔法についてはよく分からないけれど、とても綺麗な魔法だった……。


 そしてボクはシズおねえちゃんの隣で寝ることになってしまった。

 凄く恥ずかしくて恥ずかしくて…でもシズおねえちゃんは有無をいわせずにボクを後ろからギュッと抱き寄せるとすぐに寝息をたてはじめてしまった…。

 スー…スー…って耳の近くでする寝息になんだかムズムズする…辛くて眠れないことは何度もあったけど…こんなふうに眠れないのは始めてだった。でもシズおねえちゃんはとっても暖かくて…少しずつ心が落ち着いて…ボクは……。


 ▽ ▽ ▽


 体を揺らす感触に目が覚める。

 ハッとした…寝坊してしまった?

 またぶたれちゃう…!

 謝りながら飛び起きると誰かが抱き締めて撫でてくれる…あ…シズおねえちゃん……?

 そっか…ここは公爵家の部屋じゃなかったんだ…。


 シズおねえちゃんと一緒に起きると、アマンダさんに家事を教わることになった。

 …上手くできるかな?

 朝早く出かけるシズおねえちゃん用に朝食の用意も早くしてるんだって。

 シズおねえちゃんは安息日以外の日はお仕事に出かけているんだ……まだ11歳なのに凄いな……ボクもシズおねえちゃんくらいに魔法が使えたらお父様に認められたのかな……。


 シズおねえちゃんが仕事に行ってしまう。

 なんだか寂しいな……。


 シズおねえちゃんがいない間にアマンダさんにつれられて他の子供達に紹介してもらえることになった。スラムの子供が普段遊んでる場所があるからそこにつれていってもらったんだ。

 蒼い瞳の子供を探すのにどうしたらいいかわからなかったけど、これで見つかるかもしれない!そう意気込んで色んな子と会って一緒に遊んだ……ただ追いかけっこしたり、木の剣で打ち合ったりしただけなのに凄く楽しかった。公爵家では遊んだことなんてなかった……ずっとお父様に難しい計算問題なんかを出されてそれを解かされたりしてただけだ…。全然わからなくて…何度も杖でぶたれた…。


 遊び終わってアマンダさんの家で待っているとシズおねえちゃんが帰ってきた。

 なんだか嬉しくて迎えに行くとシズおねえちゃんは顔を赤くして目を反らしてしまう。

 どうしたのかな?


 その日、ボクは誕生月のお祝いをしてもらった。産まれてはじめてお祝いしてもらった。

 嬉しくて泣きそうになってしまったけど…賑やかな食卓の雰囲気に笑っちゃって変な顔になってたと思う。たった2日なのにボクはこの人達が大好きになってしまった。

 …公爵家でも認められたら…こんな風に笑い合えるのかな……?




 それから一週間でスラムにいる子供にはだいたい出会ったんじゃないかと思う……蒼い瞳の子供はいなかった……どうしよう…見つからないよ……ボクは帰れないのかな……。


 不安な気持ちが抑えられなくて、何かできないか考えて…シズおねえちゃんに魔法を教えてもらえないか頼みこんだ。

 シズおねえちゃんは少し悩んだみたいだけれど教えてくれた。

 魔法が使えたらお父様は認めてくれるかな…?


 ▽ ▽ ▽


 それから…3ヶ月…結局、蒼い瞳の子供は見つからなかった。

 …でも、今はそれでいいとすら思ってしまっている。


 スラムの人はみんな優しくて、友達も沢山できた。魔法だってちょっと水を出したりするくらいだけど使えるようになった。

 アマンダさんは僕が魔法で家事を手伝うといっぱい誉めてくれる。ウーゴさんは凄いねって優しく頭を撫でてくれる。トニオさんとトンマさんは本当のお兄さんみたいだ…お兄ちゃんって呼ぶと喜んでくれる。


 シズおねえちゃんは………

 シズおねえちゃんは不思議な人だ…。

 歳はボクとあんまり変わらないのに、大人びた雰囲気をしている。かと思えばボクよりも子供っぽく怒ったり笑ったりする。

 毎日、ボクをギュッとしてくれて、寝起きだけ少しポーっとしてて、普段はムスっとした顔なのに、笑うと細めた目が凄く可愛くて。

 …それにシズおねえちゃんといると心が暖かくて、幸せな気持ちになるんだ。


 ずっとこんな日が続けば…ずっとシズおねえちゃんと一緒にいられたら…どんなに素敵だろう…。


 そう思ってたのに………






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