2話 ジョセフィンド
少し時間は遡り……
朝食を食べて、部屋に戻ると、お義父様と使用人のローレンスさんが待ち受けていた……。
「……お義父様」
「……」
お義父様はボクが書いた反省文をざっと眺めるとビリビリと破り捨ててしまった……。
「あっ…」
「ジョセフィンドよ…お前はどうしようもなく愚図な奴だ…ほとほと呆れ果てたわ」
「ご、ごめんなさい!」
「…それでだ…お前を我が家から追い出すことにした」
「え…」
そんな……家から追い出されたらどうしたら……。
「ごめんなさい!ごめんなさい!どうか…」
「黙れ、もう決めたことだ……だが儂にも情けはある…。家を出るお前に、一つ役目を申し付けてやろう。それさえこなすことが出来れば、お前を公爵家の一員として再び家に迎え入れてやろうではないか」
「ボ…ボクなんでもやります!ちゃんとします!」
役目…!それさえ出来ればボクも公爵家の一員に認められるんだ…!
「この街のスラムのどこかに…儂と同じ瞳の色の子供がいるはずだ……その子供を探せ」
「同じ瞳の…」
お義父様や公爵家の皆さんは透き通った蒼い瞳の色をしている。この色と同じ色…。
ボクはしっかりお義父様の瞳の色を目に焼き付ける。
「年の頃は11か12…男か女かはわからん…見つけるまでは家に戻ることは許さん…ローレンス、つれていけ」
「畏まりました…ではジョセフィンドお坊っちゃま…まずは服を着替えましょうか」
▽ ▽ ▽
◇ ◇ ◇
「ナサニエル様、ただいま戻りました」
「子供は…?」
「スラムの少し手前、バザーをやっている広場のような場所に置いてきましたところ、スラムの子供につれていかれました」
「…その子供は?違ったか?」
「は…えぇ、年の頃は9歳か10歳ほどに見えましたし、瞳の色も灰色でございました」
「そうか……全く…儂がこのような不確かな手を取らねばならんとは…忌々しい」
「国の定年の法により家督はアレクセイ様に移ってしまわれ、騎士や間諜を簡単に動かすわけにはいかなくなりました。傭兵達もマダム“ロクサーヌ”とは関わりたくないと……」
「その名を出すではない!!」
「…申し訳ございません」
「あの女め…どこで見つけたか強力な傭兵で周囲を固め儂の放った刺客を悉く退けおった…あげく今は冒険者までもが……」
「“色街”はもはや冒険者クラン“マイファミリー”の手の内でございます。容易に手は出せません」
「…あのクラウスとかいう男が現れてあの女との間に子が出来ていたのを知ったときは吃驚したわ…おまけにその男はスラムに子がいるかも知れぬとほざきおった……」
「私が尋問した男でございますな」
「あの女はどういうわけか儂を強請るような真似はせなんだが……儂の、公爵家の汚点をそのままにしておくことは出来ん、断じて出来ん!あの女も、いるとすれば子供も生かしてはおけぬ」
「はっ…その通りでございます」
「ジョセフィンドが上手くやって子供の居場所がわかったら、すぐに動けるよう傭兵共に払う金を用意しておけ…いくら使っても構わん」
「畏まりました…」
ローレンスは一礼し部屋を出て行く。
金の確認をしにいったのだろう。
今に見ておれよ…ロクサーヌめ……!
◇ ◇ ◇
服を着替えさせられて…ローレンスさんに人が沢山いる場所につれてこられた。
こ…この中から探すの?!
「それではジョセフィンドお坊っちゃま…ご自分が貴族だとは誰にも話さぬよう…名前も…そうですね、“ジョゼ”とでもお名乗りなさい。本名を明かしてはなりませんよ?公爵家に戻れなくなってしまいますからね」
「は…はい…」
「では私はこれで失礼します。しっかりお勤めを果たされますよう願っております」
ローレンスさんはそう言い残すと踵を返してすぐに姿が見えなくなってしまった…。
こ…ここからどうすれば……。
ボクの体は小さいからこんな人がいっぱいのところじゃ上手く動けないよ……。
人が少ないところに移動したりしては、人混みを眺めて12歳くらいの子供を探してみようと頑張ってみるけど…さっぱり分からない。
そんなことをしているとお昼の鐘もなって…どんどん時間が経っていってしまった。
お腹が空いてへたりこんでいると頭の上から声をかけられた。
「ねぇ」
見上げると、灰色の瞳がボクの顔をジっと見つめていた。
瞳と同じ髪の女の子…誰だろう…?ボクに何か用なの…?
「独り?」
「……うん」
「誰か待ってるの?」
やっぱり女の子はボクに用があるみたいで色々と聞いてくる。…ボクのことなんか聞いてどうするつもり?……まさか貴族ってバレたの?!
「ワッフル、食べる?」
女の子はいい匂いのワッフルを差し出してきた。お昼から何も食べてない……お腹減ったな…でも貰っていいの…?
迷っていると女の子はボクの隣に座ってワッフルを食べはじめてしまった…サクサクって音に唾を飲み込んでしまう。
「ほら、美味しいよ」
「……ありがとう…ございます」
もう1つ差し出されたワッフルを我慢出来ずに受け取ってしまった。
こんな外で食事なんてはしたなくないかな……。
ワッフルは暖かくてサクサクして凄く美味しかった。
「わたしはシズ。あなたは?」
「ジョ……」
「ジョ?」
女の子はシズさんっていうそうだ。
名前を聞かれて危うく本名を名乗りそうになる。
「……ジョゼ」
「ジョゼね」
なんとかローレンスさんに言われた通りに名乗ることができた。
シズさんは周囲を見回すようにしている。
「ジョゼ。ここは暗くなると危ないから、わたしと人がいるところにいこう」
「……」
「ほら」
たしかに周りはどんどん暗くなってる……
ボクはどうしたらいいの?ここを離れてもいいんだっけ?分からないよ……。
シズさんに手を引かれても動く決心がつかない。迷っているとシズさんはちょっと声を低くして何かのお話を語りはじめる。
「知ってる?この辺りは暗くなるとこわーい怪物が出るんだよ?」
え?! 怪物?!
「手が大きなハサミになっててね、ジョゼみたいな独りの子どもを見つけると……」
シズさんはカバンから大きな鋏を取り出してジャキジャキと鳴らして……
「首を……チョン切っちゃうんだ!」
「うわぁああ」
お話と大きな声にびっくりして立ち上がってしまった!そ…そんな怪物がいるなんて…!
どうしよう!どうしよう!
「だから行くよ、ほら」
「あっ」
シズさんはボクの手を引いて歩きだしてまった…結構力が強い…どんどん引っ張られる。
ボ、ボクはどこにつれていかれるの?!
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