第2章 崩壊と旅立

1話 領主の屋敷にて

 ここまで読んで頂きありがとうございます!

 この場を借りて感謝申し上げます!


 第2章は非常に重い話が続きます。

 胸糞が悪くなるようなシーンも多々登場します。

 もし苦手な方は読み進めるのを中断したほうがよいかもしれません。

 それでも大丈夫!という方は引き続き本作をよろしくお願いいたします。


 ―――――――――――――――――


 ――数ヶ月前……


「ジョセフィンド!なぜ儂のいう通りにできんのだ!」


 バシリ、バシリと固い杖がボクの背中を打つ。

 お義父様はボクがいいつけを守れないと、どんな些細なことでもこうやって杖でボクを打つ。


「ごめんなさい!ごめんなさい!次はちゃんとします!ごめんなさい!もうぶたないで!」

「黙らんか!没落した男爵家の末子のお前をわざわざ我が公爵家に引き取り、こうして躾してやっておるのだ!それがわからんか!」


 ボクが1歳の頃…ボクの生れた家は没落してしまった……ボクは借金のカタに売られるところを今の家…エルドストラ公爵家に引き取られたそうだ。

 男爵家生まれのボクが公爵家の一員になるには…貴族としての格が足りないから…お義父様がボクを躾してくださる。

 でもボクは何をやってもダメで…お父様に叱られてしまう…。


「もうよい…反省文を書いておけ…いかに貴族としての心構えがなっていないか…よく考えてしたためろ…できるまで眠ることは許さん」

「…はい…お義父様…」


 うずくまったボクを見下ろしてそう言いつけるとお義父様は部屋を出ていった…反省文…書かなきゃ……。


 ◇ ◇ ◇


「父上はまたジョセフィンドを折檻しているのか…」

「兄さん、なんとかならないのですか?このままではジョセフィンドが…」

「何度もお諌めしている…が…父上は聞く耳を持たれない…お前の子ではないの一点張りだ」


 書斎で弟のフェルナンドと言葉を交わす。

 話題は…7年前に我が家に養子に貰われてきた30歳以上も歳の離れた義弟のことだ…。


「そもそもなぜ父上はジョセフィンドを養子に取ったのですか?」

「わからぬ…国の方針で万一に備え、貴族当主は男子を二人もうけておくことが義務づけられているが、我が家は私とお前で事足りていた。それにジョセフィンドが養子に貰われてきた時には、家督は私に移っていた」

「まさかとは思いますが…思い通りにならない兄上を…その…排除しようとしているのでは…」

「滅多な事を言うな…!」

「申し訳ありません…」

「いずれにせよ、屋敷中に響くような怒声は息子達にもあまりよくない…何とかやめさせたいものだ」

「まったくです」


 折檻が行われている間、息子達は妻に頼んでいるが…あれは聞くに堪えん…。


「ところでフェルナンドよ…お前、結婚はしないつもりか」

「私は剣だけが取り柄の甲斐性なしですからね。それに兄上にはもう男子が二人おります。これで公爵家は安泰、私は剣に打ち込めます」

「子をもうけるのも貴族の大事な仕事なのだがな…。まぁ頼りにしているよ、我らがエルドストラ騎士団、団長殿」

「ハハハ、お任せください!領主様!」


 ▽ ▽ ▽


 翌朝、食堂に向かうと既に妻と二人の息子は揃っていた。


「おはようございます、あなた」

「「おはようございます、お父様」」

「あぁ、おはよう。フェルナンドは?」

「もう朝食を済ませて騎士達の訓練に向かわれてしまいましたよ」


 フェルナンドを騎士団長に任命してから騎士達のにどんどんと熱がはいっているな…。

 若手の騎士からは好評なようだが、前騎士団長に重用されていた者からは不満の声もあると聞く。自分より若い上司が鬱陶しいのはわからんでもないが騎士として訓練もまた大事な責務だ。しっかり果たしてもらわねば…。


 朝食の席についてから15分ほど遅れ、ジョセフィンドが食堂にやってくる。


「……おはようございます」

「遅かったな、ジョセフィンド」

「…ごめんなさい…お義兄さま…」

「……」


 席についたジョセフィンドは覚束ない手つきで朝食をとる……。

 言葉づかいも、テーブルマナーもまるでなっていない……。

 父上が教育は自分がすると言って関わらせてもらえない為、指摘はしていない…が…いっそ、息子のように接することが出来ればよいのだがな……。

 息子よりも小さな義弟にどう接していいかわからず困惑している態度が妻や息子にも伝わってしまっているのだろう、ジョセフィンドは我が家の中で腫れ物のように扱われてしまっている。

 何とかしてやれれば良いのだが…良い案が浮かばぬままだ。

 そうこうしている内にジョセフィンドは早々に朝食を済ますとまたフラフラと自室に戻っていった。


 ▽ ▽ ▽


 我が家ではできるだけ夕食は揃って食べることにしている。

 家族でその日の出来事などを語らえるようしているのだ。父上も夕食には同席する。

 だが今日は………


「父上……」

「なんだ」

「ジョセフィンドがおりませんが」


 父上は一度食事の手を止め、口を拭ってから耳を疑うようなことを告げた。


「あれなら捨ててきた」

「…は?いまなんと…?」

「捨ててきた、と言ったのだ。しっかり聞いておけ」


 捨てた…?何を?ジョセフィンドを!?


「な…!何故そのようなことを!」

「あまりにも我が家に相応しくならなかっのでな…所詮は男爵家の生まれか…」

「何処に!何処に捨ててきたのですか!?」

「何故お前に言う必要がある。儂が引き取ったのだ。どうしようと儂の勝手であろう?」


 くっ……この人は…一体何を考えている…?!

 私が言葉に詰まっているとさらに父上は言葉を重ねてくる。


「アレクセイ、お前も息子達をしっかり躾ておくのだな。さもなくば…捨ててしまうぞ?」


 息子達は完全に萎縮して震えてしまっている。


「父上!父上は我々も“捨てる”おつもりか!?」

「フェルナンド!」


 フェルナンドが立ち上がりながら声を張り上げる。

 父上はフンと鼻を鳴らしてさも当然のような口調で応える。


「我が家に相応しくないものは捨てられて当然よ…お前達も肝に命じておくのだな。行くぞ、ローレンス」

「畏まりました、ナサニエル様」


 父上はそう言い捨てると、自らの使用人とさっさと自身の住まう離れの屋敷に行ってしまう。

 夕食の席は重苦しい雰囲気に包まれ、もはや食事を楽しむどころではない。

 義務的に食事を片付け、息子達を妻にまかせてからフェルナンドを呼び書斎へ向かう。


「父上は一体何を考えているのだ……わざわざ養子として引き取り…あげく捨てる?」

「行方を騎士達に探させますか?」

「探す宛もなく騎士は動かせん…父上から聞き出すしかないが…」

「難しいでしょうね……それに父上のあの口振り…まさか本当に我々を…」

「父上はもう80近い…今更、家督を奪い返したとて何になるというのだ…」

「……それは…その通りですが…」


「……ジョセフィンドを父上が引き取ったとき…たしかに私もそれを考えた…だが父上は彼にろくな教育をしていない…あれではとてもではないが家督は継げぬだろう」

「では……何か別の思惑が?」

「彼が引き取られたのは7年前だ…7年前に1人の男が公開処刑されているのは知っているか?」

「えぇ…たしか屋敷に押しかけたあげく剣を抜いて父上に斬りかかったところをローレンス殿に取り押さえられたのだと聞いています…ただ、私は当時領地を離れておりましたので詳しくは…」

「実は…あの男が取り押さえられてから処刑が実行されるまで2年も間が空いているのだよ」

「領主一族への暗殺未遂は重罪です。それこそ、その場で斬り捨てられていてもおかしくはない。何故2年も…」

「…当時対応していたのはローレンスと前騎士団長だ…私はそのあたりに何かあるのではないかと睨んでいる…ジョセフィンドが引き取られたのもそのすぐ後だったからな」

「何かとは…?」

「それはわからぬ。ただ父上と色街の女傑との確執は誰もが知るところだ。それこそ刺客を差し向け合うほどのな」

「マダム“ロクサーヌ”ですか……その処刑された男は彼女からの刺客だと?そんな迂闊なことをあの女傑がしますか?」

「可能性の話だ。それに、そのこととジョセフィンドの関わりはやはり見えてこないがな」

「調べますか…?」

「頼む……家督は私に移ったとはいえ父上の影響力はいまだ大きい……領内は火種が燻っているぞ」

「肝に命じておきます」










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