断章 家

 ある初夏の日のこと。


「うーん…さすがにうちも手狭になってきたね…」

「たしかにね…」


 アマンダさんとウーゴさんが腰に手を当てて唸っている。

 いま家族一同でアマンダさんの家を外から眺めて、頭を悩ませているところだ。


「冬はいいんだが…いまの時期は暑いからね…さすがにぎゅうぎゅう詰めで寝るのは辛いよ」

「トニオとトンマも16…体も大きくなったからね」


 問題になっているのは、トニオさんとトンマさんの成長に合わせて狭くなってきた家のこと。

 ……一応、わたしも9歳になって大きくなってるし。


 アマンダさんの言う通り、かなりぎゅうぎゅうになって寝ているから暑い時期はすごく寝苦しい。

 わたしなんてアマンダさんに抱えられて寝てるから尚更だ。


「外に小屋を増やして、動かせるものを動かそうか…」


 ウーゴさんがそう呟いたところで、双子が口を挟んだ。


「父さん!俺たち用の家を作ってくれよ!」

「父さん!そこの空いてる土地にさ、いいだろ?」


 ウーゴさんは工作が得意だ。

 ちょっとした小物とかすぐに作ってくれる。

 いまの家もウーゴさんがせっせと作ったらしい。

 でも双子のお願いはすぐにアマンダさんに却下される。


「何言ってるんだい?あんた達の為にわざわざそんな手間はかけられないよ!それにそこはシズの為に開けてあるんだ」

「わたしの?」


 わたしの疑問にアマンダさんは少し寂しげに答えてくれた。


「そこは元々、シズの母親、シイラの家があった場所さ…だからもし使うならシズがいいだろう?スラムの皆にはそう言って頼んであるんだ」


 そうだったんだ…わたしの為に…。

 それなら…!


「アマンダさん」

「ん?どうしたね」

「ちょっとやってみたいことがあるんだけど」


 ▽ ▽ ▽


 わたしは今、アマンダさんの家の近くの空き地にいる。

 近隣の人達も集まって何をするのか興味津々で見物中だ。


「〖大地よ、従って〗」


 これからやるのは、地面を操作する魔法だ。

 ちょっとした壁や台を作ったりするのに便利だとお屋敷のメイドさんに教わった。

 地面に魔素を流しこんで、イメージ通りに操作していく。


 モコモコと地面が盛り上がっていき、こんもりとした山ができる。

 山の中の土をくりぬいて、押し固めていけば…。


「できた!」

『おー!』


 皆の歓声の中、土でできたドーム状の小さな家が完成した。


「やるもんだねぇ…しっかり教わった成果が出てるじゃないか!」

「えへへ」

「それで、この土の家で寝起きするのかい?」


 アマンダさんに褒められて照れているとウーゴさんが尋ねてくる。一応、そのつもりなんだけど……。


「アマンダさん、いい?」

「1人暮らしってわけじゃないし…うーん…まぁ隣だし、寝起きするだけなら大丈夫かね…何かあったらすぐにあたしの家にくるんだよ?」

「うん」


 その後、ウーゴさんが木の板を床の形に切ってくれたり、わたしの毛布を運びこんだりした。

 それと、トニオさんが「頑丈さを見てやるよ!」と壁を蹴飛ばして足を痛めていた。そんなに柔じゃないよーだ。


 ▽ ▽ ▽


「ん?冷た…」


 それからしばらくしたある夜のこと……。

 体の濡れた感触で目が覚めた…ううん…おねしょなんてずいぶんしてないのに……。


「え…」


 寝ぼけ頭で起きあがろうと手をつくとベチャっとした感触。

 そして頭の上からもベチャっと何かが降ってくる。


「んにゃああああああああ!!?」


 その日は夜中にいきなり猛烈な雨が降ったみたいだ。

 雨でゆるくなった天井が崩れて泥まみれになったわたしは、叫び声を聞いて駆けつけたアマンダさんに笑われながら必死で体を綺麗にした後、アマンダさんの家で寝ることになった。


 ▽ ▽ ▽


「ペニーさん」

「どうしたのかね、シズお嬢さん」

「雨でも壊れない土の家ってどうしたらいい?」


 雨で家が崩れたあと…わたしはペニーさんに会いに来た。

 広場で迷子になった時にたまたまたどり着いたお店の主人で、変わった人だけれど、とても物知りだ。気難しそうな外見と違って、子供のわたしにも普通に話をしてくれる。

 隔週の安息日にしか空いてないお店だから、すぐに聞きにこれたのは運がよかったね。


 あれこれと状況を説明すると、ペニーさんは「ふむ」と1つ呟いて、少し早口で喋りだした。


「思うに、土をそのまま盛り上げたが為に、砂利が混じったのだろうね。それで雨水が浸透してしまったのだ。土を使うなら出来るだけ石を取り除き、できれば均質な粘土が良いだろう。シズお嬢さんは土遊びはお好きかな?」

「あんまり…」

「まあ、それはいいとして、少し勝手は違うかもしれないがレンガの作り方が参考になるだろう、聞きたまえ」


 そこからはレンガの作り方講座から始まって、異邦人の住む夏涼しくて冬暖かい、だ、だんねつにじゅうこうぞうの家?にまで話が飛躍していった。理屈はわからなかったけど木板に絵を描いて貰った。壁を2枚にして壁と壁の間に隙間を作ればいいんだよね。


 よーし、雨に負けない立派な家を造るぞー!


 ▽ ▽ ▽


「それで、出来たのがこの家ってわけかい?」

「うん、力作」


 完成した家をアマンダさんに見てもらっている。

 あれから訓練と仕事の後に魔法で土をこねたり、石を取り除いたり、空腹でヘロヘロになりながらも2週間かけて出来上がった自慢の我が家。

 ペニーさんに教わった通りに、日干しレンガの作り方を真似して粘土で作った山を乾燥させた。さらに壁は二重になっている。

 もし雨が降ったりしても外側の壁がほとんど防いでくれるはず…もう泥まみれにはならないよ。


「アマンダさん、今日はこの家で一緒に寝ようよ」

「えぇ…さすがに狭いんじゃないかい?」

「一晩だけ!」

「はいはい、しょうがないねぇ」


 その日はアマンダさんと出来立ての土の家で一緒に寝た。しっかり固めて磨いた土の壁と床はひんやりして居心地が良かったけど、さすがに狭かったのか結局ぎゅうぎゅうで寝苦しかった。


もうちょっと広くしておけばよかったなぁ…。



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄挿し絵


シズのお家

https://kakuyomu.jp/users/Yutuki4324/news/16818023212319520607


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