断章 夢

「あんたはまたどこほっつき歩いてたんだい!!」

「~~~っ!」


ゴンって音がするくらいの拳骨で涙が滲む…

頭を押さえながらアマンダさんを見上げて言い訳を考える。


「み、みちにまよったの…」

「スラムから出るなって言ってあっただろう!道がわからなくなるほどスラムから離れるんじゃないよ!」

「ご…ごめんなさい…人がいっぱいいたからつい……」

「はぁ…とにかく!スラムの外は危ないんだ!フラフラと出歩かないこと!いいね!」

「…はい」


▽ ▽ ▽


[生きたい][死にたくない][まだ終わりたくない][まだ死ねない]


……んぅう…変な夢みちゃった……。

蒼い目がぐるぐるして変な声まで聞こえて。

昨日、怖いもの見ちゃったからかな……。

死にたくないなぁ……。



「アマンダさん…」

「なんだい?シズ」

「しぬってなに?」


朝ごはんの最中に昨日みた夢について尋ねてみる。アマンダさんはウーゴさんと顔を見合わせて心配そうな顔を向けてくる。


「…どうしたんだい…急に…昨日なにかあったかい?」

「へんなゆめみた」

「夢?どんな夢だい」


ウーゴさんが優しく尋ねてくれる。


「でっかい目がぐるぐるして、しにたくないしにたくないっていってた」

「…へんな夢だねぇ」

「しぬっていやなこと?」

「それは…そうだね…死ぬっていうのは怖いことだね」

「どうしたらしなないの?」

「どうしたらか………うーん、難しい質問だね…」

「そりゃ強くなればいいんだ!」

「そうそう!強くなればいいんだぜ」

「あんた達はまたいい加減なことを…」


トニオさんとトンマさんが朝ごはんを掻き込み終わったのか割り込んでくる。

強くなる…か…


「どうしたらつよくなるの?」

「そりゃ!修行だな!」

「そうさ!剣とかな!」

「けんはいや…いたかった…」

「トニオ!トンマ!またシズを木剣で叩いたね!」

「遊んでただけだって!」

「ちゃんと手加減したって!」


木剣は重いし固いし痛かった…防いでみろ、シズ!じゃないんだよ……。


「剣がいやなら、魔法かな?」


ウーゴさんがドライフルーツを齧りながらそんなことを言う。


「ウーゴ、あんたまで…魔法ったって誰に教わるんだい」

「ほら、薬師のおばばさまが使えるだろ?」

「あの人がただで教えてくれるもんかい…ほらさっさと食べておくれ、片付かないだろう」

「はーい」

「あぁ、ごめんごめん」


……薬師のおばば…か…


▽ ▽ ▽


トニオさん達がスラムの子と遊んでる…またチャンバラだ…最近、冒険者のお兄さんが剣を教えにきてるから空前の木剣ブームがスラムには到来してる。いやすぎる。


……よし…薬師のおばばさまを探そう。

チャンバラを眺めてた女性におばばさまはどこにいるか聞いてみたらすぐに教えてくれた。「おつかい?偉いわね」だってさ。おつかいじゃないよ。


▽ ▽ ▽


教わった場所にきた。スラムの真ん中あたり、他の家より少し立派な小屋……これかな……?

重い扉を体を使って押すとギギギと音が鳴ってツーンと変な匂いがする。

なんだかよくわからない乾燥した草とか…瓶詰めの何かが沢山置いてある。

物珍しくてあちこち見回していると…「カアアアア!」っと怒鳴られた。

杖をついているのにやけに素早く白髪頭にしわくちゃ顔の老婆が唾を飛ばして迫ってくる。


「勝手にアレコレ触るんじゃあないよ!チビ!」

「さわってない…」

「…本当じゃろうねぇ…?薬の材料は貴重なんじゃ…あんたのようなガキに弄くられたらたまらないよ…まったく…んん…よく見たらアマンダのとこのチビか…何のようじゃ…」

「わたしをしってるの?」

「そうじゃよ、あんたが産まれたときから知っとるよ」


「ヒヒっ」と喉を鳴らして老婆は笑う。


「死にかけのあんたを世話してやったのはあたしじゃよ…あのときは世話代に薬代に…しっかり稼がせもらったよぉ」

「しにかけ…」


うぅう…わたし、死にかけたの?死にたくないよ…。


「それでなんのようじゃ?おつかいかね?」

「ちがう…おばばさま…わたしにまほうをおしえて」


老婆はキョトンと目を丸くすると「ヒャヒャヒャヒャ」と枯れた声で笑う。


「なぁんだってまた!あんたみたいなチビが魔法なんて習いたいんじゃ?ヒャヒャヒャヒャ」

「つよくなりたい…しにたくないから」


老婆はピタリと笑うのをやめると、じっとこちらを見つめてまた「ヒヒっ」と喉を鳴らす。


「ま…才能はありそうじゃ……チビ、ただでおしえてもらおうなんて思っちゃいないだろうねぇ…そうさねぇ…金貨10枚、もっておいで。そしたら魔法をおしえてやろうじゃないか」

「…おかね…ない」

「なぁに…あんたはチビだが器量はよさそうだ…色街にいけばすぐに稼げるよぉ」

「いろまち…どこにあるの?」

「ここを出て一番太い道に沿っていけば建物が豪華で派手になってくる、そこが色街じゃよ」

「わかった…ありがとうございます」


色街………いこう。


◇ ◇ ◇


チビが店を出ていった。やれやれ…子供をあしらうのもひと手間だねぇ。

ゴリゴリと薬草をすり潰していたが、ふと手をとめて店の外にでて首を巡らす。

チビの姿はどこにも見当たらない。


「…まさか、本当に行きやしないだろうね?」


少し心配になったが…まぁ…もし行っても大事にはならんじゃろ……。


◇ ◇ ◇


と…遠かった…!

歩いても歩いても建物の見た目が変わらなくてやっと建物がなんだか豪華な感じの場所についたときにはもうお昼の鐘が鳴っちゃってた……やっちゃったなぁ…またアマンダさんに叱られちゃう。

お腹もペコペコだ。

でも今から引き返しても仕方がないし…。

お金を貰うには働かないといけないんだよね?

どこにいけばいいんだろう?

とりあえず建物沿いに歩いていこう…人はあんまりいないなぁ。


「あーー、お嬢さん?」


歩いていたら誰かに呼び止められた。

人好きのする笑顔の格好いい男性がその笑顔を困り顔に変えてこちらにやってくる。


「お嬢さんみたいな小さな子が、あー、こんなところに何の用かな?」

「いろまちのひと?」

「あぁ、そこの店の…従業員だよ」


男性は一番豪華そうなお店を指差す。


「はたらかせてください」

「…え?」

「わたしをいろまちで、はたらかせてください」

「ちょ、ちょっと待ちな、お嬢さん…えー、なんで働きたいのかな?」

「おかねがいるの、きんか10まい」

「金貨10枚!?何でそんな大金が…いるのかな?」

「まほうをおしえてもらう」

「魔法を…?それで何でまた色街に…あー、来たのかな?」

「わたしはきりょう?がいいから、いろまちならすぐかせげるって」


男性は「誰だよ!こんな子供にそんなこと吹き込んだアホは!」と毒づきながら額に手を当てている。


「だめ?だめならべつのひとにきいてみる」

「待て待て待て!ちょっと、ちょっとお嬢さんついて来てくれるかな?!」


男性に手をひかれて一番豪華な建物に入る。


「エミリア!おーい!エミリア!」

「カルロスさん?娘さんこんなとこにつれてきちゃダメじゃない」

「バカ、よく見ろ。娘じゃねえよ」

「ならもっとダメじゃない」

「それが…」


男性はカルロスさん、女性はエミリアさんか…何か話こんでる…。

他にも女性が…わ…おっぱい見えてる…アマンダさんよりおっきいなぁ…皆ひらひら透け透けの服だ。寒そう。


「…ってわけなんだよ。ほっとくとどこかに

フラフラ行っちまいそうだからさ。ちょっと面倒みててくれよ。マダムに知らせてくるから」

「わかったわ。お嬢ちゃん、お名前は?」

「シズ」

「シズね…じゃあシズはこっちで私たちとイイコトしましょ」

「おい、言い方」

「カルロスさんまだいたの?さっさと行ってきなさいよ」

「わかったわかった、じゃ、頼んだ」

「いってらっしゃ~い」


◇ ◇ ◇


「マダム、マダム、入りますよ」

「お入り…カルロス、仕事は?まだ開店の準備中だろう?」

「それが、妙な子供が尋ねてきて…」

「子供?」

「そうです。ちょうど、うちの娘くらいの小さな女の子で、何でも魔法を習うのに金がいるから働かせて欲しいって1人で色街に」

「誰かに誑かされてんじゃないだろうね…」

「たしかに将来は美人になりそうな可愛らしい子でしたけどね?綺麗な蒼い瞳を眠そうに開けてて」

「カルロス、いまなんて言った」

「え、だから美人になりそうな…」

「その後だ」

「綺麗な蒼い瞳を」

「行くよ」

「え、あ、ちょっとマダム!待ってくださいよ!」


◇ ◇ ◇


女の人達にお菓子を貰ったり、髪を色々弄くられていたらいきなりバンっと扉が開いて紅い髪の女性がすごい勢いで部屋に飛び込んできた。

その女性はわたしを見るなり目を見開いて口を手で抑えて肩を震わせている。

女の人達は慌てた様子で部屋から出ていってしまった。入れ違いでカルロスさん…だったかな?従業員の男性も戻ってきた。


少しして紅い髪の女性が口を開く。


「お嬢ちゃん、名前は?」

「シズ」

「シズか、いい名前だ…。シズ、アンタの親はなんて言うんだい」

「おかあさんは、わたしをうんでしんじゃった、おとうさんはしらない」

「そうか…いまは誰と暮らしてる?1人かい?」

「ううん、アマンダさんとウーゴさんと、トニオさんとトンマさんといっしょにすんでる」

「家は?スラムかい?」

「うん、壁の近く」

「そうか」


紅い髪の女性がカルロスさんに何か耳打ちするとカルロスさんは部屋から出ていってしまった。


「アタシはロクサーヌだ。シズ、アンタ魔法が習いたいんだって?」

「ロクサーヌさん……うん、だからおかねがいるの」

「アタシが教えてやる、お金もいらないよ」

「ほんと!?」

「あぁ、ほんとさ。とりあえずアタシの屋敷に行こう。ついておいで」

「うん!」


やったやった!魔法が教えてもらえるんだ!

これで強くなれるかな?

ロクサーヌさんはいい人だなぁ。

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