断章 異世界あるある
「…あなたの最後にみる夢がどうか良い夢でありますように」
また死にゆくものを見送りました。
最後の願いも
もっとも、死にゆくものは大抵は無意識のうちに私の元にやってきて、その心の奥底にあるささやかな願いを叶えることになります。
病気のものは苦しみのない最期を。
突然、死んだものは、過ごせた筈の日常の夢を。
たまにちょっと奇抜な願いもありましたが…
なんですか「ギャルのパンティーおくれ」って……。
ですが…そう近頃…人の文明がどんどん発展していき、様々な文化が生まれた昨今…。
妙な願いが増えました。
「異世界に行きたい………」
これです。異世界です。若くして亡くなった方の願いにこれが増えました。
異世界とはなんなのでしょうか?
いえ…言葉の意味はわかるのですが…そこに行きたいというのはどういうことなのでしょうか?
……とりあえずその方の空想する異世界の夢を見られるように権能をふるいます。
…これは…願いをちゃんと叶えられているか少し自信がありません。
と言っても本当に異世界に行かせるだけの権能はありませんし…そんな場所が何処にあるのか…そもそも本当にあるのかもわかりません。
悩んでいる私の元に新たな願いが届きます。
…おや?
「こ…ここは?!」
ごく稀になのですが、強い思いを遺していたり、本当に自分が死ぬことを認識できていない方は意識を保ったままで私のもとにいらっしゃることがあります。
「人の子よ…あなたの最後の願いを聞きましょう」
できるだけ威厳があるように振る舞います。
若い男性ですね…こんな若くして亡くなってしまうとは悲しいですね。
「あ、あなたは…?」
「…私は最後の願いの女神…あなたはいま最期を迎え、死にゆくところです」
「え……」
周囲の景色に色がつきます。
こうしてこの方の最期の瞬間を見ることができるわけですね…。
これは…子供を突飛ばしていて…ええと…そうトラック!トラックです。これにぶつかる寸前なわけですね………。
「子供を助けたのですね…?」
「お…思い出した…俺…子供がトラックに轢かれそうになって…それで」
「立派な最期です」
さて…ここからが本番です。
この方にしっかりと死を受け入れていただいてそれから……。
「女神様…!俺を…異世界に転生させてください!」
「…は?」
「ラノベとか漫画とかアニメで見たんです!…子供を助けたりして死んだら…その…善行に報いてくれる女神様が異世界に転生させてくれるって!」
「はぁ…」
でましたよ!また異世界!それと私は善行とか関係なくちゃんと願いを叶えてあげますよ?できる範囲で。……ですが困りました…これはどう説明したら納得してもらえるかわかりません……いえ、むしろこれはチャンスでは?この方はなにやら異世界に詳しいご様子。今後叶える願いの為にもしっかり話を聞いておきましょう!リサーチというやつです!
「ちょっとお話、よろしいですか?」
私は笑顔を浮かべながらガシッとその若い男性の肩を掴みました。
▽ ▽ ▽
「あなたの最後に見る夢が……壮大で!スペクタルで!…ちょっとえっちで…アニメ4クールと劇場版くらいの俺つええぇ!な夢でありますように!!」
なんとか見送ることができました。
最後の夢も概ね希望通りのハズです。
アニメとか劇場版は意味がよくわかりませんでしたが……またの機会にリサーチすることにしましょう。
ああ…もう次の願いが届いています。
人が増えてから休まることがありませんね……。
……先ほど伺った過労死というのはこういう感じで起こるのでしょうか?私は神なので疲労では死にませんが。
よし、がんばれ、私!人の安らかな死は私にかかっているのです!
▽ ▽ ▽
▽ ▽ ▽
[ステータス]
[…]
[ステータス!]
[ウルスラ…何やってるの?]
[んー…いえ、ある方から異世界に来たら何か自分の能力がわかる魔法のようなものが使えると聞いていたのですが…]
[凄い魔法だね]
[ステータス!と言えばいいそうなのですが…私じゃダメなのかもですね…シズ、ちょっとやってみてくださいよ]
[…イメージできないよ]
[ステータスですよ!ステータス!]
「…〖ステータス〗」
[どうですか?]
[何も起こらないよ?]
[そうですか……あとは言語…はシズは元からこの世界の人ですし…チートは、しいて言えばテラフィナがそれっぽい…]
[なんのおはなし?]
[異世界あるあるですよ、テラフィナ]
[ふーん]
[ふっふっ、教えて差し上げましょう!私の知り得た異世界のすべてを!]
[それ長くなる?]
[それはもう!アニメ4クールと劇場版くらい!]
[?…長くなるならいい]
[いらなーい]
[そんな?!]
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