37話 名前
……あっ…
不意に意識が戻る…ぐらりと体が傾く…立っていられない…。
「ジョ…ゼ…?」
悲鳴をあげて背中を向けて走っていくジョゼ。なんとか追いかけようとして足を動かした途端、足がもつれて前のめりに倒れ、バシャッっと地面に広がる血が跳ねる。
わたしは血だまりの中、必死に体を動かそうと踠く。
「ジョ…ゼ…待っ…て…ジョゼ…」
ジョゼの背中がどんどん離れていく。
ダメ…逃げないで…ジョゼ…待って…。
意識が遠のいていく…目を開けていられない…
わたしは血だまりの中で意識を手放した………。
▽ ▽ ▽
「ジョゼ!?ッゥウ」
ガバッと起き上がった途端、脇腹が痛む……蹴られたところだ……。
…ここは…グランマのお屋敷の部屋…?
「シズちゃん!」
「お嬢!」
クレアさんとカルロスさんが側にいてくれたみたいだ……。
「カルロス、マダムを呼んできてください」
「ああ、わかった」
カルロスさんが部屋を出ていく…グランマを呼んでくるみたいだ……言いつけやぶっちゃったな……叱られるかな……。
「シズちゃん…どこか痛みますか?」
クレアさんが心配そうに聞いてくる。
服をまくりあげるとお腹のところに大きな青アザが出来ていた。
…どうやって助かったんだっけ…たしか…テラフィナに権能を借りて……。
あ……
[いる?]
[あっ!あなた!ようやく起きたのね!生き残れてよかったわ!けど邪神を喚びだすなんて!いい?邪神は私と分離しかかってるんだから無闇に喚びだすと本当に…ムグ]
[またあとでね]
ちゃんといた…夢じゃなかった…やっぱりうるさいな。
白い女との会話は周りには聞こえてないのかクレアさんはなにも反応しない。
体内の魔素を感じるとかなり量が増えてる気がする…でも、おぼろ気ながら覚えているテラフィナの権能を借りていた時の全能感は無い。それにあれは…自分が自分で無くなるような…そんな恐ろしさを感じた。
無意識に恐怖を煽りたくなるような…相手に恐怖を与えたくなるような……。
白い女の言う通り…喚びださないほうがいいのだろうか…?
魔素を循環させていくと脇腹の痛みが和らいでいく。なんとか治りそうだ。
「クレアさん…ジョゼは…?」
「それが……探したのですが……」
「そう……わたしはどうやってここに?」
救難信号を確認して5分くらいでカルロスさんが路地に到着したそうだ。
それで、わたしが地面に倒れていたから急いで屋敷につれ帰ってくれたそうだ。治癒術の使えるメイドさんが診てくれていたけれど、すでに最低限、死なないくらいの治癒は終わっていたみたいだ…。自分でやったんだろうか…?それともテラフィナが…?
その後、マイファミリーのメンバーが闇街やその周辺を探してくれたみたいだけれど、ジョゼは見つからなかった。わたしが…探しにいかなきゃ………!
ベッドから這い出ようとしたところでドアがバンっと開いてグランマが飛び込んできた。
「グランマ…」
「シズ…」
パァンッとグランマの平手打ちがわたしの頬を鳴らす。
「あれほど闇街には行くなといっただろう?!」
「で…でも…ジョゼが…」
「でもじゃない!」
パァンとまた平手が鳴る……。
グランマは高ぶった感情を抑えるように肩で息をしている。
「あ…」
グランマがわたしをギュウッときつく抱き締める。
「シズが死んじまったら…アタシは…アタシは……」
「…ごめん…なさい……」
しばらくグランマに抱き締められていた…。
顔は見えなかったけど…グランマは泣いてたのかもしれない。すごく震えてたから…。
▽ ▽ ▽
「ジョゼのことは、うちのメンバーがちゃんと探してる…アンタは大人しくしてるんだ」
「うん…」
グランマに解放されてからごはんを食べた。
すごくお腹が空いてたみたいでこんなときななのに沢山食べてしまう。
ジェフさんやメイドさんが様子を見にきてくれた。
いまはグランマの部屋でカルロスさんとクレアさんと昨日、何があったのか、話をしている。
「……にわかには信じられないね…」
「異邦の神…ですか…」
「理解が追いつかないぜ…」
いまはちょうど白い女の話をしたところ…。
[私?私のことですか?]なんて言ってるコイツの声を聞かせることができたら話しは早いんだけど……出来ないから頑張って説明している……。わたしもよくわかってないのに…[違いますよ!ニュアンスがちょっと…あ、そうそう!そんな感じです]じゃないんだよ…。
それと[なんのはなし?]ってテラフィナも混ざってくるのはなんなの?分離したらまずいとか言ってなかった?思いっきり別々に動いてるよ?…白い女が言うには[頭が2つ、体が1つみたいな状態です!]らしい。意味がわからない。
二人?とも間違いなく命の恩人なんだけど…頭が痛くなりそうだよ…。
やっとのことで全部、話終わったんだけど……。
「…つまり…シズは一度死んじまったということかい…?」
「あ…う…」
「一度死んで甦る…聖女様の伝説のようですね…」
「お嬢、本当に大丈夫か?どこか痛くないか?」
言いつけ破って…実は一度死にましたなんて……申し訳が立たないよ……。
「……姿は見えませんが……異邦の神達よ……この子は…シズはあなた方のおかげで今、こうして生きています…。本当に…本当にありがとうございます……どうかこれからも…シズのことをお願いします……」
「シズちゃんを助けていただき本当にありがとうございます…どうかこれからもシズちゃんをお願いします…」
「ふがいない俺達の代わりにお嬢を守ってくれて本当に感謝してる…どうかお嬢を頼みます!」
3人は深々と頭を下げて感謝の言葉を捧げる。…う…うう…。わたしに向けて頭下げられても……。
[感謝されてる!信仰されてる!初めての…信徒!]
[お願い?いいよ!]
[邪神は引っ込んでなさい!あ、あなた!私の初めての信徒に言葉を伝えたいから復唱してくれる?こういうのやってみたかったのよ!巫女ってヤツね!ゴホン…人の子よ…ムグッ]
[うるさい!うるさい!静かにして!]
体の内と外の雰囲気の差によほど変な顔をしていたのだろうか……また体調を心配されてしまい、グランマ達が対応を話し合ってる間またベッドに寝かされてしまった。
……ジョゼのことが頭をぐるぐると回って眠れない…。
仕方ないから白い女とテラフィナに話かける。
[ねぇ]
[あなた!せっかく信徒ができたのに!言葉を伝えられなかったじゃない!]
[信徒じゃない…わたしの大切な人達]
[お願いしてたよ?]
[邪神は引っ込んでなさいよ!]
[…ねぇ、何で邪神っていうの?テラフィナって名前があるんでしょ?それに悪いって感じはしない]
[てらふぃな、だよ]
[そ…それは…だってズルいじゃないですか!私の裏の顔として生まれたのに…先に名前が貰えるなんて……]
[そんなことで?]
[ずっとずっと名前が欲しかったんです…友神達も…後輩の神も皆、素敵な名前がありました…。でも私は死にゆくものとしか関われなくて…ずっと名無しの神で…生きている人に名付けてもらえないと…名前はつかないんですよぉ…誰かに覚えてもらえないとダメなんですよぉ…]
[……ウルスラ]
[ふぇ?]
[あなたの名前。“うるさい”から、ウルスラ]
[ふぇええ]
[あなたのおかげで、わたしは生きている。感謝してる。これはお礼になる?]
[な…名前だ…私の…ちゃんとわかる…私の名前…ウルスラ…私はウルスラ]
[いい加減な名付けで悪いけど我慢して]
[そんなことありません!とっても素敵な名前です!由来は…ちょっとは気になりますけど……あなた、ありがとう!]
[シズ。わたしの名前。覚えて]
[シズ…あなたはシズ…私はウルスラ…]
[てらふぃな、だよ]
[じ…テラフィナ…。私はウルスラです…今まで…その…邪神なんて言って…ごめんなさい]
[うるすら!しず!]
[ねぇ…別々に名前つけてよかったの?分離がどうとか…]
[あ゛あ゛あ゛あああああ!!ダメじゃないですか!!テラフィナ、大人しくしてなさいよ!頼みますよ!!]
[お願い?いいよ!]
やっぱりうるさいな……。
でも気を紛らすにはこれくらいうるさいのも悪くないかな……。
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