32話 救出、逃走
「ジョゼ…!」
良かった……生きてた……たしかにジョゼの魔素を感じる。方向は…こっち…!
そのまま屋根伝いに移動すると古びた1階建の家にたどり着いた。
この中からジョゼの魔素を感じる……それと他に3人。こいつらが人さらい…。
力強い魔素、間違いなく全員わたしよりずっと強い。アイザックさんと同じくらいかな…つまり2等級並み……正面切って戦うのは無理だ。
家の周りを探って中に入れる場所を探す。
正面入り口からは…鍵がかかってる。
……裏口もない。窓は…板が打ち付けられてる。
…普通には入れない…どこか壊すしかない。
人さらいの位置を確認する…全員動いては、いない…。ジョゼの近くにいるままだ。
人さらい達から一番遠い外壁まで移動して〖遮音〗と〖魔法刃〗を使って壁に穴を開ける。
穴から中を覗くと……薄暗いけど、たぶん廊下だ。すぐ前に壁が見える。いきなり目の前に人さらいがいる状況は避けられそうだ。
さらに〖魔法刃〗で壁の一部を斬って取り払い子供が通れるくらいの穴を開けておく。
「〖猫足〗」
魔法で足音を消して建物の中に滑るように入る。やっぱり廊下だった。少し先に明かりが漏れているのが見える。魔素も明かりのある場所から感じる。
姿勢を低くし、明かりギリギリまで移動して様子を窺う。
魔法士風の女が椅子に座っていて……足元に……ジョゼ!
縄で縛られてる……抱えて逃げないと……。
両手剣を背負った男が1人壁際に立っていて…それと獣人が机に肘をついて大きなあくびをしてる。獣人は身体能力が高いってクレアさんが教えてくれたっけ……走って逃げられるだろうか……ううん、やるしかないんだ。
覚悟を決めよう…ジョゼを助けるんだ。
◇ ◇ ◇
「あとどのくらいだ、ヒルダ」
「あと少しよ」
「酒がほしいな」
「そればっかりね、ダズ。ジョゼ君がちゃんと売れたら少し飲んでもいいわよ」
「フンッ」
人さらい達はボクを足元に転がしたまま他愛のない話をしている。
あと少しで人買いがボクを引き取りにくるらしい…。
……怖いよ……シズおねえちゃん……。
「ニャアン」
どこからか猫の鳴き声がする……。
これって……!
◇ ◇ ◇
「猫?どこから入りこんだのかしら?」
「隙間が空いてるんだろ、ボロい空き家だし」
「うるさいぞ、クソ猫め」
「はは、ダズお前猫嫌いだよなぁ!獅子獣人だからか?」
「だまれラリー。くびり殺してやるぞ、クソ猫が」
「やめなさいよ、可哀想じゃない」
獣人が猫に気を取られて席を立った。
残りの2人も獣人の方を見てる……今!
「〖
幻影で作った黒煙が一気に部屋に充満する。
大人の腰より上に充満した煙の中を身体強化を全開にして低い姿勢で走りこむ。そのままジョゼを抱きかかえて、壁の穴まで一気に走る。
「〖修理〗」
通り抜けた壁の穴を塞いで、そのままジョゼを抱えて道をひた走る。
上手く…いった!
◇ ◇ ◇
「なっ、煙?!」
「おい!何も見えねえぞ!」
「クソっ!」
なんだっていうのよ?!いきなり!
…この煙、手で払っても動かない?
まさか……!
「〖
魔素を放って強引に魔法を打ち消す…チッやっぱり幻影の魔法だった…!
「なっ、ガキがいねえ!」
「あ、マジかよ!?」
「……誰か助けに来たわね…足跡がある…小さいわね」
急いでほこりに残った足跡をたどって……壁?
行き止まり………いや…!直した跡がある!
「ダズ!壁を壊して!」
「ガァア!!」
ダズが粉砕した壁の向こうに……いた!
100m程先、ジョゼ君を抱えて走って逃げる…女の子だわ…どこかで見覚えが………。
「いた!あそこよ!」
「あ、ありゃ昼間の大道芸の子だぞ」
「クソガキめ!!」
見覚えがあるわけだわ…昼間の魔法使いの子……厄介だわ……あの子自身かなりの使い手じゃない。
女の子はこちらが壁を壊したのに気づいたのか少し振り向いてさらに黒煙を放って姿を隠してしまう。
あれは私が〖解除〗しないと消えないわ……本当に厄介ね…!
「待ちやがれ!!ガキぃ!!」
「ダズ!待てこら」
「あたし達も追うわ!顔を見られてる。捕まえないと」
短期なダズが追いかけはじめる。
でも今はそれで正解…さっさと捕まえないとまずいわ。
◇ ◇ ◇
「ハッ ハッ ハヒュッ」
心臓が張り裂けそうだ……!
思ったより早く追いかけてきたから身を隠せなかった…!
煙幕で進路を隠しながら入り組んだ路地を逃げてるけど…振り切るどころか確実に距離が縮まってる……。
せめて闇街からは出たかったんだけど……。
これ以上は体力も魔素も持たない、ジョゼを抱えて逃げるのは無理だ…。
……仕方ないな。
路地に屑入れのバケツを見つけた……あれにしよう。
周囲を路地の壁に似せた幻影で囲って一度足を止める。
ジョゼの目隠しをとって口に指を当てて喋らないように合図をする。
ジョゼは涙を浮かべながら首を縦に振っている。
口の布を取り、カバンから取り出したハサミで縄を切る。
「ジョゼ、手短に話すからよく聞いて…。今からジョゼはこのバケツに隠れて。わたしが1人で逃げて人さらいをひきつける。ジョゼは頃合いを見て逃げて、わかった?」
ジョゼは泣きながら嫌々と首を横に振る。
「お願い、ジョゼ…時間がない」
「シズおねえちゃん……」
ようやく頷いてくれた…ジョゼをバケツに入れて蓋を被せる。
隙間からジョゼの瞳がじっとこちらを見ている。
安心できるように笑顔を向けてあげよう。
わたしはジョゼを抱えて逃げているように見える幻影を纏うと、路地から飛び出してまた走りだした。
◇ ◇ ◇
目隠しがとれてシズおねえちゃんの顔が見えた瞬間…思わず涙が出てきてしまった。
本当に助けに来てくれたんだって嬉しくて嬉しくて…。
でもシズおねえちゃんはすぐにボクをバケツに隠してまた行ってしまうって……。
嫌だった…シズおねえちゃんと離れたくなかった…ボクは……。
シズおねえちゃんはボクを真剣な眼差しで見つめて頼んでいる。
嫌だったけど…なんとか頷く…シズおねえちゃんを困らせたくない…。
閉じていくバケツの隙間からシズおねえちゃんの笑顔が見えた……。
シズおねえちゃんの笑顔はとても綺麗で…ボクは見惚れてしまう……。
でも…シズおねえちゃんの瞳はいつもの灰色じゃなくて……透き通るような蒼色だったんだ……。
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