31話 捜索
ギルドの講習を受け終わった。
今日は対複数戦闘の講習があったんだ。
基本的に複数相手は逃げなさい、可能な限り数を減らしなさいみたいな基本的なことだったけど。
まだ3時ちょっと過ぎか…広場には4時に行けばいいから…少し資料室に行こうかな、なんて考えてると「シズ!シズ!」とわたしを呼ぶ声がする。これは……うーん、どっちだろう…トニオさん?なんだか切羽詰まった声だ。
声の元を探すと、やっぱりトニオさんだった。
憔悴した顔をしている…何かあったんだ。
「トニオさん!」
「シズ!ようやく見つかった……すまん、ジョゼがいなくなった…拐われたかもしれない」
「!!ジョゼが?!」
「あぁ…なにかでかい…爆竹を鳴らしたような音がしてちょっとした騒ぎになったんだ。慌てて子供達を集めて確認したらジョゼがいなくなってた」
「はぐれただけじゃなくて…?」
「俺達だってバカじゃない…一応な……ちゃんと半刻ごとに人数確認はしてた。音がなる少し前まではちゃんといた」
「……ギルドに伝える。他の子は?」
「トンマがスラムに連れて帰った」
「……トニオさんは…色街のお屋敷はわかる?」
「ああ、たぶん行けばわかる」
「じゃあそこの門番さんにわたしの名前を出して伝えて」
「わかった。シズは?どうする?」
「……ジョゼを探しにいく」
「…気をつけろよ」
「うん」
トニオさんと別れて、ギルドの職員さんに事情を説明してジョゼの人相を伝えておいた。
手隙の冒険者さんも広場から辺りを探してくれるらしい。
…気持ちが急く……拐われた子供の行く先は悲惨だ……。ただ売られるならまだいいほうだ。体を切り開かれて中身だけを売られたり売られた先で酷い目にあったり……一番酷いのは…ただなぶって殺す為だけに拐うやつもいること。スラムの子は人さらいに狙われやすいから、大人達がそう言って気をつけるようにずっと教えこんでいる。
スラムではある日突然いなくなる子供があとを絶たない。そしていなくなったらまず見つからない。
屋根の上を駆けて、ジョゼの魔素を探す。
他の子だったら無理だったけど…ジョゼに魔法を教えたのはわたしだ。ジョゼの魔素なら……見つけてみせる。
広場から…街の中央へ。色街にはマイファミリーの皆がいる。怪しいヤツがいたらすぐにわかるはずだ。冒険街も一緒だ。西と北にはいないはず。残りは東側の商人達のところ、南の貴族達のところ…北東の傭兵達のところ『傭兵街』か…もっと奥、“闇街”か…。
1人で行ってはダメだとアマンダさんにもグランマにも止められている場所だ。
でも…………ごめんなさい、アマンダさん、グランマ。
わたしは北東に足を向けさらに走り続けた。
▽ ▽ ▽
グランマ達が街の北側を掌握して、悪い奴らもかなり潰したそうなんだけど…しぶとい奴らが北東に逃れて、今もいかがわしい店や組織がわずかにだけど、生き残っている。それが“闇街”だ。
傭兵達の拠点の集中している場所からさらに奥をそう呼んでいる。
悪い奴らがいるとしたら…ジョゼがいるとしたらココが一番可能性が高い。
闇街の建物の屋根の上を身をかくしながら少しずつ進んで、ジョゼの魔素を探す。
……お願い…無事でいて………。
◇ ◇ ◇
……ここはどこ…?
広場で大きな音がしたと思ったらいきなり口を塞がれて、黒い大きな布を頭から足まで被されて運ばれた…と思う…。
前にシズおねえちゃんに運ばれたときよりもずっと速く移動する感じがして…さっき床に下ろされたみたい。
布が剥ぎ取られて周りの様子が分かる。
女と男と…獣人の男。3人がこちらを見おろしている。
「ハイ、坊や?お名前は?」
「……」
「ガキ、答えろ」
「よせよダズ、ビビッてるだろ」
「………ジョゼ」
「ジョゼ君ね!口を塞ぐ前に名前が聞けて良かったわ!…ラリー」
「あいよ、悪いな坊や」
男が布と縄を持ち出してボクの口に布を詰めて塞いで、手と足を縄で縛る。
さらに目に黒い布を巻かれてまた周りが分からなくなる。……怖いよ…。
「これでヨシと。逃げようなんてするなよ?痛めつけると…ほら、値が下がるからな」
「ジョゼ君はねぇ、これからどっかの変態貴族か商人に買われてあんなことやこんなことをされるのよ?で、あたし達は沢山お金を貰うの。だからできるだけ高く売りたいの、わかる?」
「ガキ、手間をかけさせるなよ」
…ボクは人さらいに捕まって…売られる寸前みたいだ…。
アマンダさんが気をつけてって言ってたのに……。
「で、人買いはいつ引き取りにくるんだ?」
「8時過ぎの約束。もう少し暗くなってからよ」
「まだまだかかるな…」
「居眠りしないでよね、ダズ?」
「冒険者が探してるかもしれないぞ?なんだっけ、マフィアだかなんだか」
「“マイファミリー”よ、そいつらには絶対見つかるなって話よ」
「フンッ、返り討ちにしてやるよ」
“マイファミリー”…シズおねえちゃんのいるクランの名前だ……。
……シズおねえちゃんが言ってた……。
もし1人になったら……魔素を昂らせなさいって……わたしが見つけてあげるからって……。
助けて…シズおねえちゃん……!
▽ ▽ ▽
◇ ◇ ◇
▽ ▽ ▽
「見つけた……!」
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