30話 傭兵
大歓声をあげて、コインをわたしがいたところ目掛けて投げこんでいる観客達の姿を、少し離れたところに魔法壁を浮かばせて上から眺めて一息つく。クマと追いかけっこしてる途中で幻影と入れ替わってあらかじめ逃げておいたんだ。
はぁあ、緊張したぁ…よくもいきなりあんな口上を…双子!許すまじ!
せっせとコインを集めているトニオさんとトンマさんを尻目に子供達の元に戻ることにしよう。
「あっ、シズおねえちゃん!」
ジョゼがすぐにわたしに気づいたようで駆けよってくる。
子供達も口々に「すごかった!」「またやって!」なんて言ってきて、少し照れてしまう。
子供達に囲まれながら猫を出してあやしているとようやくトニオさんとトンマさんが戻ってきた。
この二人、引率だってこと忘れてないだろうか?
「シズ!いやたまげたぜ!あんなことまで出来たんだな!」
「シズ!見ろよ!この大金!いくらあるんだろうな、これ!」
「……はぁ…もういいからそのお金で皆の分もお昼ごはん買いにいこ」
「「シズ様!ありがとうございます!」」
『『シズおねえちゃん!ありがとう!』』
トニオさんとトンマさんと話すとなんだか気が抜けちゃうよ。
それにジョゼの呼び方が子供達にうつっちゃってるし。
うん!とにかくお昼ごはんだ!もうお腹ペコペコ!
▽ ▽ ▽
「じゃあ、わたしは講習に行くからね。ちゃんとトニオさんとトンマさんの言うことを聞いて、はぐれたら無理に歩き回らずに声を出して呼ぶこと。いい?」
『『はーい!シズおねえちゃん!』』
「じゃあな、シズおねえちゃんっ」
「またあとでな、シズおねえちゃんっ」
「はぁ……行ってきます」
◇◎◇◎◇◎
安息日より3日程前……
「あーあ、本当に最悪だわー…まさか検問でひっかかるなんて…」
「あのアホ商人、ご禁制の品なんて扱ってやがった。アホは結局取っ捕まるし、依頼料は入ってこないし、散々だ」
「ちょっと?物にあたらないでよね?ま、あたしら傭兵に頼むにしちゃ高い依頼だと思ったんだけどやっぱり訳ありだったわけね」
「まさか途中、荷馬車を止めてきた連中が冒険者パーティーだったとはな。目をつけられてたんだよ、あの商人」
「ったくダズが話も聞かずに襲いかかるからよー。依頼されただけって逃げきれたかもしれないのに」
「フンッ」
安宿の薄暗い部屋の中、3人の傭兵がくだを巻いている。女が1人、男が2人。
女は魔法士用のワンドを弄びながら椅子に腰かけている。淡い赤の髪を肩口で切り揃えたツリ目の女だ。革の胸当てに薄手の布の服を身につけている。魔法士らしく華奢な印象を受けるが出るところは出ていてスタイルはいい。
「それで、どうするよ、ヒルダ?金が無いとまずいだろ」
「まっずいわねー」
ヒルダと呼ばれたその女は投げやりに答える。
「依頼がポシャったから当てにしてた金が入ってないし、途中やり合ったときに冒険者共を何人か殺ってるし。とりあえず街3つ急いで離れるのにかなり路銀を使ったわ、魔馬の特急便は高いわね……」
「連中、目をつけてくるとしつこいからな」
「殺ったのはあんたが一番多いじゃない、ラリー」
黒の短髪にガッシリとした長身。全身を魔鉄で補強した革鎧で覆っている、体躯に似合わぬ人懐こい童顔をした男。
ラリーと呼ばれたその男は大振りな両手剣を脇に置き、指を曲げながら数を数えている。
「俺が3人、ダズが2人。あんまりかわんねぇよ、なぁダズ」
「ふんっ。軟弱な冒険者共が…戦い足りん」
ダズと呼ばれた男は普通の人間ではなかった。
全身を灰褐色の獣毛に覆われ、口には鋭い牙が覗いている。黒の革鎧を身につけた二足歩行の獅子といった顔つき……獣人と呼ばれる種族の中でも好戦的で知られる獅子の獣人だ。
獰猛そうな顔を不機嫌に歪め、荒いため息をついている。
「いいわねぇダズは…戦えれば満足なんだから」
「軟弱っても2等級が1人混じってたようだぜ。ダズが殺ったのに結構強いのがいただろ、ほれ」
ラリーが鎖を指で回す。銀色のタグが鈍く輝いている。それには少し赤茶けた汚れがこびりついていた。
「ラリー、あんた冒険者タグなんてどうすんのさ?」
「知らねえのか?ギルドに持っていくと謝礼が貰えるんだぜ?」
「手前で殺っておいて?無理があるでしょ」
「そこは誰か別のヤツに持っていかせんだよ、拾いましたーってな」
ヒルダはため息を吐くと、ワンドを腰のベルトに差して佇まいを直す。
「とにかく、金がいるわ。この街で傭兵やるにしてもどっかの団にみかじめ料払わないとまともに仕事なんてできない。それにできればしばらく国を離れたい、さっさと稼がないと」
「どっかに押し入るか?」
「バカ、すぐにばれるわよ……こんだけデカい街なら人買いがどこかにいるはずよ。ガキを拐ってもっていけば金貨何枚かにはなるでしょ」
「ふーん、人買いね」
「ラリーはスラムとか、どこか拐っても騒ぎにならなそうなガキの集まるとこを探してきて。あたしは人買いの場所とか街の情報を集めてくるから」
「俺は?」
「…ダズは…目立つからここにいて」
「わかった………酒が欲しいな」
「金がないっていってるでしょ!我慢して!」
「むぅ」
ヒルダとラリーは荷物から取り出した顔隠しのフードを身に付けるとさっさと安宿から出ていく。
ダズは、くあぁっと大きくあくびをすると目をつむって居眠りを始めた。
▽ ▽ ▽
▽ ▽ ▽
「なぁ、おい!今のすげぇな!思わず銅貨投げちまった」
「ったく金がないっていってるでしょ…」
「ヒルダ、お前魔法士だろ?あれどうやってたんだ?」
「……たぶん4人か…もっとかも…かなり幻影の得意なヤツが周りにいて女の子の動きに合わせて出してたのよ。空飛んだのも幻影でしょ」
「え、あの子が全部やってたんじゃないのか?」
「バカ、無理よ。複雑すぎるわ」
「はぁああなるほどなぁ。大道芸ってのはすげぇもんだな」
広場から少し離れた路地に…フードを被った女と男がいる…傭兵、ヒルダとラリーだ。
「……で、これからどうするんだ?」
「大道芸見てたガキの集団がいたでしょ…10人くらい」
「ああ、いたいた」
「格好からしてスラムの子よ」
「じゃああのガキの中から拐ってくのか?」
「一応、若い男が2人ついてたみたいだけど四六時中は見てられないわ…はぐれた子を速攻で拐う。あたしがやるわ」
「俺は?」
「拐うときに少し周りの目をそらして。はいこれ、爆竹よ。結構デカい音が鳴るから」
「あいよ」
「合図はハンドサインを出すわ、5秒後に鳴らして」
「あいよ」
「終わったら北東の空き家にね、ダズが待ってるから…じゃ行くわよ」
二人は路地から早足で出ると別々に人混みの中に混じっていった。
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