25話 元カレ
クレアさんと合流して首にかかった冒険者タグを見てもらう。
「クレアさん、これっ」
「冒険者タグですね。似合っていますよ」
「そういえばクレアさんのと色が違うね」
「そうですね」とクレアさんもタグを取り出す。
「冒険者等級によって色分けがしてあるんですよ。3等級までは一律の黒タグ、2等級からは色が変わって銀タグ、1等級は金タグ、特級は好きな色の縁取りの白タグ、それと壊級は各等級のタグにヒビのような意匠が施されます。タグ自体が魔道具になっていてギルド内での手続きなどに使いますよ」
「おー」
「紛失したら困ってしまいますから気をつけてください。黒タグは再発行には銀貨5枚必要ですよ」
「高いっ」
「このあたりのことはギルドの講習で学ぶことが出来ます。シズちゃんは受講義務はありませんが興味があれば受けるといいですよ。もっとも!私がこれからキッチリ教えてあげる予定ですが!」
「お願いします!」
▽ ▽ ▽
「シズちゃん、試験はどうでしたか?」
ギルド内の通路を歩きながら試験の話をする。
これからクラン登録?をするのに向かう場所があるらしい。
「筆記試験が難しかった…7割くらいしかわからなかった…」
「また勉強しないといけませんね。最大魔素測定はどうでしたか?」
「2006だって。変な魔道具がぐるぐるヒュオンヒュオンってしてた」
「凄いですね!3等級並みです!…ですが変な魔道具…?まさか…」
クレアさんが訝しげな顔を浮かべていると
「どうもこんにちは」と声をかけられた。
「シズ様、先ほどぶりです。冒険者タグはちゃんと受け取ったようですね。それとクレアもお久しぶりです。あなたがシズ様の教育者でしたか」
アイザックさんがもう1人ギルド職員の人といて笑みを浮かべていた。職員の人は会釈をする。わたしも軽く会釈を返す。
「やはり貴方が試験担当官でしたか…アイザック。シズちゃんに精密検査をしましたね?その“知りたがり”、止めないといつか身を滅ぼしますよ」
「これは手厳しい。ですが有望な冒険者の能力を把握して置くことはギルドの益になりますからね」
「…クレアさん。アイザックさんと知り合い?」
「ええ、私も以前、ギルドの試験管を担当していました。彼は私の…後任です……」
「連れないですね。お付き合いした仲ではありませんか」
「2週間だけです!それであなたのモラルの無さが露呈したのですぐに付き合いを解消したではないですか!」
驚いた!アイザックさんはクレアさんの元カレだったみたい。
クレアさんは慌てたようにわたしに向き直り手をパタパタと振りながら早口に捲し立てる。
「シ、シズちゃん!勘違いしないでくださいね!?全く深い仲では無かったんですから!……知的な人だと思った私が馬鹿だったのです……ハッ…貴方まさかシズちゃんのあれやこれやまで測ろうとして無いでしょうね!」
「あー。この人、ガッツリ3サイズまで見てましたよ」
「な…!イスマ!告げ口しないでください!」
ギルド職員さんはイスマさんというらしい。
気だるげな顔にボサボサ頭のイスマさんはアイザックさんにガクガクと肩を揺すられている。
「だいたい貴方もデータは見ていたでしょう!」
「俺は貴方に測定しろって言われただけですよ」
「あ…シズ様…クレア、これは違うのですよ…これは…」
「シズちゃん、壁を」
「〖魔法壁〗〖遮音〗」
以心伝心とはこのことだね。わたし達が周りから見えないように、アイザックさんが逃げられないように黒い壁で囲む。ついでに遮音の魔法も使っておこう。ペニーさん考案のお腹の鳴る音を聞こえないようにする魔法だ。
イスマさんは「ほーこりゃ凄い」といいながら四方を囲む壁を見回している。
クレアさんが鬼の形相で身体強化をしている。ビキビキって音が聞こえてくる……。
やっちゃえ、クレアさん!
「歯を食い縛りなさい!!」
「ま…待ちなさい、クレア!ギルド内での争いは…!」
「問答無用!!ていうか気軽に名前呼ばないでくださいよ!」
「ガフッ」
クレアさんの爪先がアイザックさんの鳩尾に突き刺さる。
さらに下がった頭を掴んでそのまま膝がお腹に連続で叩き込まれる。
ドッドッっていう鈍い音と呻き声が何度かした後、アイザックさんは前のめりにべしゃりとギルドの廊下に倒れこんだ。
「全く、無駄に時間を取られてしまいました。イスマさん、わかっていますね?」
「ええ、ええ。これは正当な制裁です」
「さ、シズちゃん行きますよ」
「あ、うん」
肩をいからせて歩み去るクレアさんに慌ててついていく。
クレアさんの意外な一面を見ちゃったな。
◇ ◇ ◇
二人が去っていくのを見送る。
いやいや、中々凄いものを見させてもらったなぁ。それにアイザックさんの情けないやられ姿も傑作だ。
「確かにとんでもない魔法の展開速度ですね。クレアさんの指示から一瞬で壁が出ましたよ」
「ぐ…イスマ…貴方…よくも」
「貴方が勝手に検査なんかするのが悪いんですよ。良かったじゃないですか昼飯食べる前で。食べてたら確実に戻してたでしょう…あ、そうだカメラで……これでよし。ハハッ貴方がそんな風になるなんて滅多にないですからね、記念撮影しておきましたよ」
「ゲホッ……全く酷い目に会いましたよ…」
「自業自得でしょう。ちょっとは懲りたらどうです?」
膝を叩きながらアイザックさんが立ち上がる。回復早いなぁこの人……。
「それで、クレアさんと付き合ってたんですか?初耳ですよ。あの人、美人だし受験者にも優しいし親切なもんで狙ってる職員結構いたんですよ?」
「昔の話です。すぐに別れましたし」
「クレアさんの口振りだと貴方がどうせなにかやらかしたんでしょう?」
「何度か食事をしましてね?それでまぁ、いい雰囲気になったので二人きりになったわけです」
「ほう」
「そこで…彼女の胸をメジャーで測りましてね?つい、小さいな…と、そこで記憶が途切れました」
「うっわバカだこの人あり得ねぇ」
「私は大きいのが好きです」
「黙れ、クソ野郎」
「はぁ、この話は秘密ですよ?」
「当たり前でしょう。クレアさんに殺されたくないですよ、俺は。あ、でも貴方の情けない写真は、バラまいてやりましょうかね?」
「止めなさい。今度色街の一番いい店に連れていって差し上げますから。ようやく出禁が解けたので」
「色街でもなんかやってんのかよ?!」
「いやぁ、酒に酔いましてね?女性達のサイズを手当たり次第に測ろうと…」
「救えねぇ。一回、聖都の聖女様に奇跡をお願いしたほうがいいですよ?」
「好奇心は不治の病ではありませんよ」
「貴方のは病気ですって」
その後、大声で話してた内容を周りの連中に聞かれていたようで、それが伝わったクレアさんに二人とも足腰立たなくなるまで蹴り倒されたのは…まぁ、自業自得かね?結局、俺も知りたがりなんだよなぁ。
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[挿し絵風AI絵]
筆頭メイド クレア
https://kakuyomu.jp/users/Yutuki4324/news/16818023211792728947
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