24話 冒険者への訓示

「クレアさん!合格!合格したよ!」

「おめでとうございます、シズちゃん!」


 一階で待っていたクレアさんとに合格の報告をして、二人で手を取り合って喜んだ。


「あとは2時からギルドマスターの訓示だって」

「まだ時間がありますね」

「うん、わたし食堂に行きたい」

「そういえば昼食の時間ですね。ギルドの食堂は凄いですよ?」

「楽しみ!」


 ▽ ▽ ▽


「おお!おおお!」


 食堂は広くて…そして…凄い量、凄い種類の料理がズラリと並んでいた。

 パンもお肉もあるしサラダもスープもある!

 あっ ケーキ…すごい並んでる…。

 うっ ケーキ頭が……ケーキはいいかな…。


「シズちゃん、これ食べ放題なんですよ?」

「全部食べてもいいの?!」

「冒険者は皆さんよく食べますからね。好きなものを好きなだけ食べられるようにこの形式になったそうです。さ、このプレートに食べたい物を取って空いた席をさがしましょう!」

「うん!」


 どれを食べようかな??

 片っ端から取ってもいいんだよね??


 ▽ ▽ ▽


 食堂は混みあっていて、空いてる席は隅のほうにしかないみたいだ。

 クレアさんが先に席を取ってくれていた。

 山盛りに料理を乗せたプレートを運びながら、人の間をすり抜けて席を目指す。


「シズちゃん、お肉ばっかりですね。野菜も食べないとダメですよ?」

「あとで食べる」

「まだ食べるつもりなんですね…」


 クレアさんはバランスよくパンとスープとサラダと…これは魚かな?白い切り身に黄色いソースがかかっている。魚…あとで取りに行こう。


 わたしがおかわりをして食べている間にクレアさんも何か追加で取りにいってたみたいだ……あっ あっ あれは…ケーキ!!

 …クレアさんとケーキの組み合わせを見ると胸焼けがしてくる。うっぷ


「クレアさん、これ持って帰ってもいい?」

「持って帰ってまで食べたいんですか?」

「違うよ、ジョゼとアマンダさん家のぶん」

「なるほど……少し待っていてください」


 クレアさんはギルド職員さんと何か話してすぐに戻ってきた。


「有料サービスですがこのパックに入れて持って帰ってもいいそうですよ!とりあえず2パック買ってきました」

「有料…いくら?」

「シズちゃんは出さなくてもいいんですよ」

「追加で買う」

「あ、そうですか…」


 結局5パック分買った。色々詰めて持って帰ろう。ジョゼにはちゃんと野菜を食べさせてあげないと。


 ▽ ▽ ▽


「シズちゃん、そろそろ時間ですから移動したほうがいいですよ」

「うん。じゃあクレアさん、またあとで」

「はい、またあとで」


 ええと、4階、4階の大会議室…ここだ。

 ギルドマスター…どんな人なんだろう。


 扉を開けるとだだっ広い部屋に壇がある。

 他には誰もいないみたいだ。

 手持ち無沙汰でぶらぶらと部屋の中を歩いていると大きな窓が目に付いたから覗きにいく。

 丁度、西門が見える向きに窓はついていた。

 少し日の光が入ってくる。

 まだ日は高い位置にあるようで見上げると眩しい。

 しばらく西門やギルドを出入りする人の流れを眺めていると、扉が開く音と人の気配がした。

 見返ると、ギルドの制服に身を包んだ男性が部屋に入ってくるところだった。

 彫りの深い顔に皺のきざまれた鋭い目付きの男性だ。年齢は60歳くらいに見える。

 シルバーアッシュのボリュームのある髪はモミアゲが顎ひげと繋がっている。

 男性はこちらに射ぬくような目線を向けると少し目を見開くようにしてそのままジッと動かない。

 わたしも振り向いた姿勢で固まってしまい、少しの間、見つめ合うような格好になってしまう。

 男性の後からギルド職員の女性が入ってきたのが見えた。なにかお盆のような物を持っている。


「これより新たな冒険者へ訓示を行う。私の前に並びなさい」

「は…はいっ」


 壇上に移動した男性の威厳のある声に急き立てられるようにパッと体が動いて壇の前に立つ。…あれ、わたしだけ?


「今日の正式登録者は君だけのようだ、お嬢さん。新規登録者は春…暖かくなるころに集中するのだよ。いまの時期の登録は珍しい」


 少し表情を柔らかくした男性がそう告げる。

 本当にわたしだけだった!緊張する!


「楽にしたまえ」

「はいっ」


 楽にってどうするのかわからなくなってピシッと気をつけの態勢で固まってしまった。


「ひとまず、新たな冒険者よ、冒険者ギルドへようこそ。私がこの領都エルドスート支部の長、ジョシュアだ」


 ギルドマスターはジョシュアさんというみたいだ…


「さて、我々冒険者は一体何のために存在し何を為しているか…せっかくだ、お嬢さん。答えられるかね?」

「あの…えと…ま、魔獣を倒す…こと?」


 ジョシュアさんは頷く。


「うむ、それも正しい…がお嬢さん、我々は、冒険者とは“防人”なのだ。誰よりも先立ち危険へと立ち向かい無辜の人々を守る…それこそが我々の使命であり“義務”だ」


 ジョシュアさんは一旦、言葉を区切りジッとこちらを見つめる。


「かつて我々が冒険者を名乗る遥か以前、我々はただの魔獣狩人の互助組織に過ぎなかった。魔獣を狩りその肉と皮を売り暮らす血と泥に汚れた卑しき者…そう蔑まれていたのだ」


「だがある狩人が立ち上がった…我々が我々こそが誰よりも魔獣を狩り、人々の為に戦っている。傭兵よりも、兵士よりも…我々こそが人々の守護者なのだと、虐げられる謂れはないと、そう他の狩人を諭して回り…やがて狩人達は巨大な一つの集団となった。それが冒険者ギルドの始まりだ」


「我々はこの偉大なる狩人達の志を受け継いでいかねばならない。人々を守る為に進んで危険を冒す者、故に冒険者なのだ」


「そして我々は無辜の人々を脅かすものを決して許しはしない。何者であろうともだ。

 …お嬢さんは魔獣を倒すのが我々の為していることだと言ったね。しかし魔獣だけが人を脅かす存在ではない。人もまた人を脅かす存在だ」


「わかるね?」と話を向けられ何度も頷き返す。


「その人というものには我々、冒険者も含まれるのだよ」

「え…」

「もし、もしだ…冒険者が無辜の人を脅かすことがあれば……その者は粛清…つまり他の冒険者によって殺されることになる」

「粛清……」

「そう、必ずだ、どこに逃げても必ず追い詰める。例外は無い。たとえ私でも無辜の人を脅かせば粛清される」

「……」

「もう一度言おう。我々は“防人”であり人々を守ることが“義務”だ。努々忘れぬようこれから冒険者として励みたまえ…以上だ」

「……」


 凄い内容にガチガチに固まってしまっているとジョシュアさんは「フッ」と息をついて笑う


「とまあ、散々に脅すような話をしたが、人として当たり前のことをすればよいのだ。冒険者は普通の人々より圧倒的に強い力、暴力を持つ。その力の使い道を誤るな。無闇に力を振るうな。冒険者にはな“暴”を“検める”という意味も込められているのだよ」

「力の使い道…」

「そうだ。これにて訓示を終わる。こちらに来なさい」

「は、はいっ」


 わたしが壇上に上がるとジョシュアさんは女性の持つ盆から黒い冒険者タグを手に取りこちらに向き直る。


「6等級冒険者、シズ。君の今後の活躍を期待する」

「ありがとう、ございます!」


 頭を下げて首に冒険者タグをかけてもらう。

 これでわたしも……冒険者だ…!


「ではな、“義務”に忠実であれ」

「はいっ!えと“義務”に!」


 ジョシュアさんは颯爽と去っていってしまった。

 なんだかグランマに似た雰囲気だったな…

 よし、クレアさんのとこに行こう!




____________________


[挿し絵風AI絵]

冒険者ギルド エルドスート支部

ギルドマスター ジョシュア


https://kakuyomu.jp/users/Yutuki4324/news/16818023211741080562


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