23話 模擬戦

 アイザックさんとの模擬戦が始まった。

 まずはグランマに教わった通りに……


「〖魔法刃マナエッジ〗!」


 まずは幅の広い〖魔法刃〗で首を狙って…

 あ…アイザックさん凄い顔でしゃがんでよけた。

 グランマの言った通り、首をこうやって狙えばだいたいしゃがんで避けるから…。


「〖魔法檻マナケージ〗!」


 しゃがんだ態勢のアイザックさんを黒い魔法の壁で囲いこむ。ここからまともに動ける人はいないハズ。でもわたしとアイザックさんじゃ実力差がありすぎるから……。


 パキンッと檻の天井を割ってアイザックさんが飛び出す。しゃがんだ状態からだから自然と飛び上がる形で……。

 そして正面にいる“わたしの幻影”を見据えて……既に後ろに回りこんでいたわたしに後頭部を蹴り抜かれた。


 真っ黒に色をつけた魔法の壁は拘束と目隠し用だ。

 グランマが言うには、わたしは放つタイプの攻撃魔法の威力が魔素量の割には高くないらしい。

 前にやった“実体化”する程まで魔素を練り上げる方法なら別だけど。

 むしろ身体強化の強化度合いがかなり高いみたいだから魔法を牽制や補助に使って接近して攻撃するのがいいそうだ。


 ここ最近、グランマとクレアさんには実戦的な戦い方や接近するまでの方法を一緒に考えてもらったんだ。

 今のは模擬戦でカルロスさんを顔面から地面に叩きつけたコンボだ。

 拘束出来れば良し、出来なくても接近できて良しの2段構えだけど……。


 アイザックさんは普通に手で受け身を取って距離を取ってしまった。蹴った感触もグランマの防御魔法と一緒だったからしっかり防がれたみたいだ。……凄い!


 わたしが次はどう攻めるか考えていると、「ここまででいいでしょう」と、

 アイザックさんは構えを解いてしまう。

 ……なにかダメだったかな……?


「いやぁ、まさかまともに一発、それもこんなにアッサリと貰うとは思いませんでした」

「……でも防がれ…ました」

「それもわかりますか…ですが、通常ならあの拘束魔法を受けた時点で終わりです。私は魔素量の差で強引に抜けたに過ぎません」

「実戦は実力差なんて言ってられない…です」

「それはその通りです。ですが、これは試験ですからね。シズ様の実力はよくわかりました」

「試験は終わり…ですか?」

「はい。筆記試験の結果など合わせてこれからギルド職員で判定をしますが…まぁ合格でしょう。判定を待つまでもなく」

「本当!?」

「はい。少なくとも私からは合格のお墨付きを出せます。心配せずに控え室で結果を待っていてください。では一旦戻りましょう」

「はいっ!」


 ▽ ▽ ▽


 しばらく上機嫌で控え室で待っていると、アイザックさんがやってくる。


「失礼します。シズ様、結果が出ましたよ。」

「はいっ」

「おめでとうございます。シズ様、あなたを6等級冒険者として認定、登録いたします」

「やった…!あ、ありがとうございます!」

「ふふっ…つきましては、午後2時よりギルドマスターによる新冒険者への訓示があります。時間までに4階、大会議室までお越しください。そこで冒険者タグの授与もしますから必ず来てくださいよ?」

「はいっ」

「まだ2時間程ありますから…そうですね…ギルドの食堂で昼食をとると良いでしょう」

「食堂!」

「では、長時間の試験、お疲れ様でした。今後は同じ冒険者として“義務”に忠実でありましょう」

「義務??」

「ふふっ、ではまた」

「は、はいっ、ありがとうございました!」



 やった!やった!合格だ!

 早くクレアさんに報告しよう!


 ◇ ◇ ◇


 推薦制度適用試験を終え、“研究室”へ向かう。

 あの“一味ファミリー”が久々に推薦した冒険者…いやぁ、気になりますね。


「入りますよ。先ほどのシズさんの“精密試験”の結果は出揃いましたか?」

「ああ、アイザックさん。また試験に関係ない検査して記録取るとか本当にいい趣味してますねぇ」

「規約にサインして貰っていますから問題ありませんよ」

「道義的にダメだっつってんですよ。まぁ俺も協力してるんですけどね。それで記録なんですけど……」

「何か数値に問題が?」

「それが……まず最大魔素量が年齢の割りに高過ぎるようなんですが…」

「いえ、それはいいでしょう。肉親の類いからの継承がされていればありえない数値ではありません。かつて一部の地域では子に親を殺させるような悪習があった程ですからね。それに“一味”はシズさんにその辺りのことを隠そうとしています。下手につつくのは得策ではないでしょう」

「わかりました。……続けますが瞬間魔素出力はあまり高くは無いようですね。登録は魔法士と斥候でしたが、専業魔法士としては些か打撃力に欠けるかと…。身体強化率はかなり高いですね…最大6倍程まで強化されていました。登録変えた方がいいんじゃないですか?魔法戦士とかに」

「でしょうね…シズさんは魔法を補助に近接戦闘を行うスタイルでしたよ…私も頭を蹴られました、こう、後頭部を思いきり」


 トントンと頭の後ろを叩きながら研究員に説明する。


「え!?“受験者泣かせ”の貴方が?昇格試験の度に大人気なく完封する貴方が?!」

「なんです、その不名誉な二つ名は?」

「ギルド職員の間では有名ですよ。一人前の冒険者を目指す少年少女達の心を折るクソ野郎だって」

「たかだか模擬戦で完封された程度で折れる心ならいくらでも折って差し上げますよ」

「ダメだこの人…」

「その点、シズさんは素晴らしい。魔素量の差で強引に防いだんですが、「実戦で実力差なんて言ってられない」だそうですよ」

「まぁ“一味”は1等級並みがゴロゴロいますからね。相当揉まれてるんでしょう」

「模擬戦もよほど連結リンクパターンを練ったのでしょうね。魔法の発動までがかなりスムーズでしたから」


あらかじめ複数の魔法を連続して放つ前提でイメージを練り上げる連結魔法。

多量の魔素と相手の反応を予測してパターンを組み上げる必要がありますが決まれば非常に強力な一手となります。


「……それです」

「それ?」

「もし連結パターン無しで魔法を発動させてたとしたらどうですか?」

「まさか?私の反応を確認してから発動する魔法をイメージしたのでは間に合うはずが……」

「こちらを見てください」


記録の記された紙を受けとります。

ふむ。


「身長134cm体重32kg…小さいですね。スリーサイズは…」

「そこじゃねえぞ、クソ野郎」

「……魔素親和性…“測定上限”?」

「ええ、測定上限です」

「つまり100%以上の結果だと?機器の故障の可能性は?」

「当然疑いましたよ。問題ありませんでした…魔素親和性と言っても魔素との意思のやり取りまではモニタリング出来ませんから、魔素回復力や魔法発動速度などの数値から総合的に導き出した結果ではありますがね」

「通りで……使ったそばから体内魔素が回復していたということですか」

「歴代最高の魔素親和性が50%くらいでしたっけ?」

「あぁ…たしか“赤刃”の記録ですよ、ソレ」

「“一味”の長じゃないですか…英才教育かなんかなんですかねぇ?…案外、魔法の出力が低いのも魔素親和性が高過ぎるから…とか…」

「どういうことでしょう?」

「“赤刃”も特級にしては大規模な魔法をあまり使わないことで有名です。魔素親和性が高いってようは魔素に愛されてるってことでしょう?魔素の方が離れたがらないんですよ、たぶん」

「……研究者らしくない詩的な発言ですねぇ

 」

「うるせえぞ、クソ野郎」

「なんにせよ、今後が楽しみですね」

「末恐ろしいの間違いでしょうよ」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る