21話 推薦制度適用試験その1
しばらく待っていると、控え室の扉をコンコンと叩かれる。
「は、はいぃ」と思わず声が裏返ってしまった。
「失礼します。推薦制度適用試験の試験官を担当させて頂きます。ギルド職員、2等級冒険者のアイザックと申します。本日はよろしくお願いします」
「シ、シズです!よろしくお願いします!」
アイザックさんはギルドの制服に身を包んだ濃いグリーンの髪の男性だ。どことなくカルロスさんに雰囲気は似てるけど、温和な笑顔はカルロスさんと違い胡散臭くない。
「早速、説明させて頂きます。まずは筆記試験、主に6等級冒険者として活動する上で必要な知識を問うものになっていますが、こちらを受けて頂きます」
「はい」
「筆記試験終了後、休憩を挟み魔素量測定を行います。その後すぐに実技試験を行います。ここまではよろしいですか?」
「大丈夫です」
「結構です。では早速筆記試験を始めさせて頂きます」
問題の書かれた冊子みたいなのが配られる。
解答もこれに直接書くみたいだ。
「では、制限時間は90分です。始めてください」
は、始まっちゃった!
問題1.魔域はいくつかの領域に分けられるが、その最初の領域名を答えよ。…か
これは分かる…『浅域』だ
問題2.空欄を埋めよ
冒険者とは《 》である
???、2問目からもう分からない……。
なんだか暑くなってきた…あ、ウサギのファーを巻いたままだ。ふぅ
問題3.図の魔獣の名称と主な攻撃方法を答えよ
これは、う、ウサギだ!あっ違う『ホーンラビット』だ。攻撃方法は…『凄く痛い突進』っ
次の問題は………
▽ ▽ ▽
なんとか…わかるとこは埋められた…と思う…。7割くらいは埋まったかな。合格点はどのくらいなんだろう?
プシューーっと音が出るくらいに頭を使った気がする。次は…魔素量測定だっけ?
「シズ様、筆記試験お疲れ様でした。実は魔素量測定器が現在使用希望者が殺到しておりまして、測定までしばらくお待ち頂かねばならなくなりました。申し訳ございません」
「あ、いえ、大丈夫です」
「ありがとうございます。それで、もしよろしければこれから行う“魔素量測定”についてご説明したいと思うのですがよろしいでしょうか?」
「あ、はい、お願いします」
10分程の休憩時間が終わった頃、アイザックさんがやってきてしばらく待ち時間だと告げられた。
でも、魔素量測定について説明してくれるみたいだ。
「まずは…こちらが何か分かりますか?」
「魔星石?」
「その通りです」
アイザックさんが取り出したのは手のひら大の明るい光を放つ魔星石だ。
「魔星石は魔素と反応し光を放つという性質がある鉱石のような物質で、魔域であればどこでも見つけることができます。その由来は…実はよくわかっていないのですが…常在魔素、つまり周囲に存在する魔素とも反応することから常夜灯や簡易照明として広く利用されています。今も光っているでしょう?」
コクコクとわたしが頷くとアイザックさんは話を続ける。
「見ていてくださいね?」
急に魔星石が強い光を放つ…凄くまぶしい。
「失礼しました。魔星石は魔素を流し込むことでこのように強く発光させることができるのです」
「おー」
「続けますね。今の魔素量測定の方法が開発される以前はこの魔星石が魔素量の測定に使われていました。この魔素を流し込むと光を放つという性質を利用して、光の強さを魔素量の指標にしたのです」
「なるほど」
「今の冒険者等級もその頃の名残で星の光の強さ…すなわち等級にちなんでいるのです。…が、この測定方法、いくつも問題がありました」
「問題?」
「はい、まず魔星石ごとに光の強さがまちまちであること。それに、同じような魔素量の持ち主でも放出の得意な方がより強く光らせることができたこと。一定の魔素量までしか測定できないこと。そもそも光の強さ自体が指標として曖昧であったことなどです」
「問題だらけ……」
「はい、ですが異邦人の発明家スズナシの考案した理論により、画期的な測定方法が開発されたのです」
「スズナシ…聞いたことがあります」
「シズ様は勤勉ですね。続けます、それが現在まで使用されているスズナシ式魔素測定器なのです」
「おーー」
「原理としては測定用に調整した魔素を放つことで、魔素が体を通り抜ける際の抵抗…魔素の通り難さを数値化するというものです。一般に体内の魔素量が多いほどに抵抗は増えるという性質を利用したものですね」
「なるほど」
「なのでシズ様にはしっかり休憩をして頂きました。体内の魔素量は回復できましたか?筆記試験では随分と頭を使われていたようですから…疲労回復に魔素を消費したのではありませんか?」
「あ、えーと待ち時間っていうのは…」
「方便ですね」
「すいません!」
「いえいえ、推薦を受ける程の方はギルドとしても有望株として丁重に扱う方針なのですよ」
「ゆ、有望株…」
なんだか凄く気を遣われていたみたいだ…!
期待に応えないと…!
▽ ▽ ▽
「最後に冒険者等級について説明しましょう。冒険者等級は6等級から始まり数字の順に5等級、4等級、3、2、そして1等級となります」
「ふむふむ」
「6等級の冒険者の魔素量の上限が100、5等級は上限が300といった具合に等級をあげる為に必要な魔素量は指数関数的に増加します」
「しす?」
「失礼、少し難しかったですね…えー、あー、つまり等級が一つ上の冒険者は下の冒険者より3倍強いということです」
「3倍!?」
「あ、いえ、本当にそのまま3倍強いという訳ではないのですが…概ね、魔素量の多さは強さに直結します」
「なるほど」
「等級にはさらに上、特級そして壊級というものがあります」
「なんだか凄そう…です」
「特級冒険者は1等級冒険者であることに加え、ギルドに多大な貢献を成したものに与えられる特別な等級ですね。それに等級をあげるにはいくつか条件があります。魔素量はその条件の一つに過ぎません。3等級冒険者でありながら魔素量は2等級以上という場合もありますよ」
「なんだか難しい…です」
「シズ様が試験を受けるように、等級を上げる試験があるということです。ですが、その例外が壊級冒険者です。」
「例外?」
「壊級認定を受ける方法は単純です。圧倒的な魔素量、それだけです。見ていてください」
アイザックさんはまた魔星石を取り出すと
魔素を流し込み始めたようでギラギラと強烈に光はじめ…そして
《パキィィイイイン》
目が眩む程の光と甲高い音を立てて魔星石は砕け散って見えないほどの小さな粒になり、それもすぐに消えた……凄く綺麗だった……。
「魔星石は一定以上の魔素が流れ込むとこのように砕け散ります。星を壊す程の魔素…即ち壊級というわけですね。もっとも私の魔素量は2等級の平均程度。放出が得意な者であれば3等級相当の魔素量でも同じことはできます」
「凄く綺麗でした……」
「そうですね。一説には魔星石は休眠中の魔素なのだと言われています。一度に大量の魔素を浴びて再び元の魔素へと還る。それがこのような光景を生み出すのだと……続けましょう。このように測定できない程の魔素量を持つ者を壊級認定するというわけなのですが、現在のスズナシ式測定器は1等級の上限のさらに20倍程まで測定が可能ですから、測定できないということはまずないのです」
「壊級はいない?」
「いえ、測定値にして魔素量100000以上で壊級認定を受けることができます…が現在、存在している壊級相当の実力者はわずか2名、いずれも冒険者ギルド所属ではありません」
「凄い…」
「とはいえ、壊級はあくまで莫大な魔素量を持つ証として制定されたもの…冒険者たるもの特級を目指すべきです。…さて、そろそろシズ様の魔素量を測定しましょうか」
「ハッ そうだった…!」
「では、早速測定室に参りましょう」
「はい!」
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