20話 冒険者登録

 あれから時間は流れて、季節は冬になり。そこからさらに2ヶ月。今日は2月最初の日。

 そう、わたしの誕生月だ。


 白い息を吐きながら、ジョゼと並んで顔を洗う。

 寒くなってからは冬用の厚手の服を重ねて、首にはウサギのファーを巻いている。初狩のウサギのやつだ。モコモコで暖かい。


 ジョゼは着々と魔法を覚えて、ちょっとした水や火の支度なんかはできるようになった。

 出来れば清浄魔法が使えるようになるといいんだけど、あれは魔法が使えてもなぜか使えない場合がある。グランマも使えないし。

 性格の問題なのかもしれない。

 とにかく、あとはひたすら魔素の循環をして鍛えるしかない。ジョゼ、頑張れ。


「シズ、12歳だね!おめでとう!」

「シズおねえちゃん、おめでとう!」

「ありがと」


 アマンダさんとジョゼが祝ってくれる。

 少し気恥ずかしいけれど、嬉しい。


「で、早速“ギルド”に行くのかい?」

「うん、今日はクレアさんが迎えに来てくれてそのまま冒険者登録に行く予定」


 12歳から冒険者として登録が出来るようになる。冒険者ギルドは国を跨いで存在する巨大な組織でその影響力はとても強い。一国に匹敵する…否、凌駕する権威を持っている。

 その冒険者ギルドに登録するということは、その巨大な組織の一員となり、公の身分を得るということなのだ。……という説明を昨日クレアさんに聞かされた。


 つまり“どこの誰でもないシズ”から“冒険者シズ”になれる…ということらしい。

 その分、色々とルールはあるけれど、基本的には犯罪行為さえしなければ問題無いそうだ。


 わたし自身や身の回りの人を守る為にも“身分”というのは大事なんだって。


 そんな打算的な理由で登録はするんだけれど、これから冒険者として依頼をこなしたりする訓練もさせてもらえるみたいだから、実は凄く楽しみだ。


 森用の革コートを着て、肩掛けカバンも頑丈なやつに作り直した。冒険者登録用の一張羅だ。


「シズちゃん、お待たせしました。用意は…いいみたいですね」

「うん、行こう」


 クレアさんがやってきて、いよいよ冒険者ギルドへ向かう。わたしはカバンの紐を握りしめて歩きだした。


 ◎ ◎ ◎


 領都の西側の門から続く大通りを行くと正面に見える非常に大きな建物がある。

 有事の際の拠点ともなるその建物は、もはや小さな要塞といった有り様で下手な貴族の屋敷よりよほど金がかかっているだろう。

 まさに“無骨”といったその建物には、これまた“無骨”な印象の人々が出入りしており、ある種の威容を放っていた。


 これが冒険者ギルド、“誇り高き”冒険者達、その拠点である。


 ◇ ◇ ◇


「お…大きい」


 これが冒険者ギルド…遠目には見たことはあったけれど、近くだとこんなに大きいなんて…!


「ふふ、さぁ行きますよ!」

「あっ待って」


 人波を縫って、クレアさんについていく。

 この辺りは冬でも雪があまり降らないから、街へ出入りする人もほとんど減らないみたいで、街の西側は冬でも人で溢れている。

 その半数近くが冒険者なのだそうでギルドもご覧の有り様だ。


 やっとの思いでギルド内を進み、“冒険者登録受付”と看板のついたカウンターの前にたどり着く。カーキ色の制服姿の受付さんが迎えてくれる。


「ようこそ、冒険者ギルドへ。こちらは冒険者登録受付窓口となっております。冒険者登録ですか?」

「ええ、こちらの子の登録を。それと…」


 クレアさんが首にかかった銀色のタグのようなものを取り出しながら受付さんに告げる。


「2等級冒険者のクレアです。登録に推薦制度の適用をお願いします」

「2等級冒険者、クレア様ですね。確認しますので冒険者タグをお願いします」


 受付さんがテキパキと何かの魔道具にタグを通していく。


 本来は登録後すぐは仮登録扱い。しばらくは依頼の受注制限なんかがあって、依頼の達成率や実務中、ギルド内での態度なんかを精査されて、一定水準を超えないと登録を認められない。

 推薦制度というのは2等級以上の冒険者が新規登録者の保証人となって仮登録期間を免除できるという制度だ。


「確認できました。クレア様の推薦枠の空きにも問題ありません。最後にこちらの書類にサインをお願いします。…はい、結構です。ではそちらの……」

「シズです」

「失礼。シズ様の新規登録にあたり推薦制度を適用致します。こちらの書類に必要事項をご記入ください。読み書きは出来ますか?」

「大丈夫です」

「結構です。記入が終わりましたらまたこちらの窓口にお持ちください。また推薦制度適用ということで、後程、推薦制度適用試験を実施致しますのでご留意ください」


 試験…! クレアさんには聞いてたし、勉強もしてきたけど…緊張する…!


「シズちゃん、まずは登録用紙に記入をしましょう」

「あ、うん」


 えーと…冒険者登録名は…『シズ』、性別は『女』、年齢『12歳』、生年月日……


「生年月日って何?」

「誕生日のことですよ…ああ、シズちゃんは12年前の2月1日にしておきましょう」


 あとは…職種一覧に該当する…何?


「クレアさん、これも…分からない」

「職種ですね。冒険者として何が出来るか、得意かというのを大まかに職として分けているのですよ。例えばブルーノであればこの《前衛》の一覧の『重戦士』ですね」

「クレアさんは?」

「私は《前衛》の『格闘士』、それと《補助》の『斥候』として登録していますよ」

「2つ?」

「ええ、あくまで大まかに何が得意か、ですからね。難しく考えなくても大丈夫ですよ」

「わかった…」


 とりあえず《補助》の『斥候』と《後衛》の『魔法士』にしておいた。

 クレアさんも「良いと思いますよ」と言ってくれたし。


 あとはこの個人情報保護に関する誓約書とかなんとかなんだけど文字が多すぎて意味がよく分からなかった。

 クレアさんからも「はい、にチェックしておけば良いですよ。というかチェックしないと登録出来ませんし」ってことなのでチェックだ。


 最後に『パーティー斡旋のご案内を受け取りますか』って書いてあったけれどパーティーはしばらく組まないだろうし、いいえ、だ


「できた!」

「では受付に持っていきましょうか」


 受付さんに登録用紙を渡して確認してもらう。すぐに確認は終わったみたいだ。ちゃんと書けてたかな?


「はい、結構です。ではしばらく2階の“第3控え室”でお待ちください。すぐに試験官が参ります」

「わかりました」


 クレアさんと第3控え室に向かう。

 2階にはあんまり人がいなくて静かだ。


「シズちゃん、ここからは私はついていけません。普段の訓練と勉強の成果の見せ所ですよ!シズちゃんなら合格間違い無しですから気楽にいきましょう!」

「わかった…頑張る」


 控え室の椅子に座って試験官の人を待つ。

 ううう緊張してきた……!

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