19話 一週間後
ジョゼと出会ってから7日…週が一回りして今日は安息日だ。
あれから、ジョゼはアマンダさんに色々教わりながらスラムで同年代くらいの子ども達と遊んだりしてるそうだ。
目の隈も薄くなって、見違えるほどに快活になった。
……ただ時折、何か思い出すのか、暗い表情をすることがある。
ジョゼがもっと心から笑ってくれるように、わたし達で支えてあげなきゃ。
わたしの方も取り立てて変わったことはなかった。
お仕事も訓練も順調だ。
クレアさんと森にいって薬草の採取をしたり、ブルーノさんに筋トレ用の重りの入ったベストを貰ったりと覚えること、やることが沢山あって、とても充実している。
あぁ……カルロスさんのせいで広まった噂の訂正は上手くいってない。
わたしが「弟みたいなもの!」と言ってもみんな取り合ってくれない。
いっそジョゼを色街につれていって訂正して貰おうかと思って、アマンダさんに相談したら教育に悪いからダメだって。
「飢えた獣の前に肉を放り込むようなもの」だそうだ。ジョゼが食べられちゃうの?
▽ ▽ ▽
朝ごはんを食べ終わって、今日は何をしようかと考える。
ペニーさんのお店は今日は休みだし、広場でお店を冷やかすにしても朝からはさすがに時間が余り過ぎるし…。
ブルーノさんに教わった筋トレでもしていようかな。
家からベストを取り出す。
これ、本当に重くて身体強化しないと着れないんだよね。強化無しで着れるようになれってブルーノさんには言われたけど……。
「いっち、に いっち……にっ!」
「シズおねえちゃん、忙しい…?」
筋トレをしていたらジョゼが話かけてきた。
あ…足がプルプルする。丁度いいから休憩しよう。ベストを脱いで地面に置く。
「ふぅ…大丈夫…何か用、ジョゼ」
「あ…邪魔しちゃったかな?」
「ううん、丁度休憩しようと思ってたとこ」
「よかった…それでね…ええと……ボクに魔法を教えて欲しいんだ」
「魔法を?」
「うん、ボク、もっと役に立ちたいんだ…それでね……誉めてもらいたいんだ……」
「ジョゼは十分役に立ってるよ?アマンダさんもモノ覚えがいいし働き者だって誉めてたよ?」
「……で、でも…ボクは…もっと…」
ジョゼは何て言うか凄く焦ってる……。
何かに追い詰められてるような……。
「…………わかった」
「本当?!」
「言っておくけど…凄く地味な訓練をずーっとやらないとダメなんだよ?凄く疲れるし、お腹もペコペコになるよ?」
「だ、大丈夫!」
「じゃあほら、両手を出して」
「こ、こう?」
ジョゼの手にわたしの手を絡ませてしっかりと握る。
たしかグランマに教わったときは………
「目を閉じて」
「うん」
「今からジョゼを通して魔素の循環をやるから、体に流れ込んでくる魔素を感じて」
「魔素?」
「それが出来ないと魔法を使うのは無理」
「!……魔素を感じる……」
「始めるよ」
「……うん」
魔素の循環を始める。わたしの中の魔素をジョゼの右手へ…体の中を巡らせて…左手からまたわたしの中へ……ゆっくりと
「どう?」
「……」
ジョゼは集中しているみたいで、わたしの声が聞こえてないみたいだ。
「あっ」
「ジョゼ?」
「感じた…!」
間隔をあけながら何度目かの循環。
ジョゼがついに魔素を感じたみたいだ。
循環を止めて手を離す。
「まだ体の中に感じる?」
「うん…なんだか暖かいような…」
「人によって感じ方は違うらしいけどジョゼはわたしと同じみたいだね」
「シズおねえちゃんと同じ…!」
「あとはその感覚をずっと感じ続けて。体の中の魔素と意思を通わせるの…とりあえず次の安息日まで」
「次の安息日まで!?」
「それが出来たら続きを教える。とにかく魔素がそこにいるってことを認めてあげて」
魔法を使う最初にして最難関。
魔素との意志疎通…魔素を認め、魔素に認められること。
これさえ出来ればちょっと水を出すくらいならすぐに出来る。
ムムム、と難しい顔をしているジョゼの隣で、わたしも魔素の循環の訓練をする。
……こっそり周囲の魔素にジョゼを助けてもらえるようにイメージを伝えておいた。
頑張れ、ジョゼ。
▽ ▽ ▽
お昼ごはんを食べているときもジョゼは難しい顔をしていて、何事かと心配されていた。
わたしが魔法の訓練だと伝えると、皆「ああ!」と納得してくれた。なんでも、わたしがグランマに教わり始めてすぐの頃に同じような顔をしていたらしい。……記憶にないなぁ。
本当は午後からはジョゼを誘って広場に行こうと思ってたんだけど、この調子じゃ邪魔になっちゃいそうだからわたしだけで行ってこよう。
なにか買ってきてあげようかな?
先週買ったワッフルはまた欲しいね。
そういえばジョゼの好物って何だろう?
聞いておけばよかったな。
まぁ……お肉でいいか……。
▽ ▽ ▽
「ねぇ、ジョゼ」
「ムムム」
「…普通に寝てもいいからね」
「えぇ!?」
「一週間寝ないつもりだったの?」
「だって…ずっとって…」
「ごめん、嘘。起きてるときだけでいいよ」
寝床についても唸っていたジョゼはやっぱり寝ないつもりだったみたいだ。
わたしもグランマにやられたっけなぁ。
一晩寝ないでやって…次の日に大笑いされたんだ。
「ほら、寝るよ」
「もう!……おやすみなさい、シズおねえちゃん」
「おやすみ、ジョゼ」
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