18話 気になる
「ん、んぅーー?」
朝、目覚めたらいつもと体の感じが違って妙な気分だ。
そうだった、昨日はジョゼを連れてきて一緒に寝たんだった。
……起こさないように……なにこれ…手がしびれる!
起こさないようにするつもりが手がしびれてバランスを崩してしまってジョゼの体を揺するようになってしまった。
「ごめんなさい!起きます!起きますから!」
「…ジョゼ?」
ジョゼは大きな声で謝罪を口にしながら跳ねるように起き上がる。
なんとなくわかっていたけれど…ジョゼは、ひどい虐待を受けていたんだろう……。
「ジョゼ、ジョゼ!」
「あ…シズおねえちゃん…」
「誰も怒ってないから大丈夫だよ、大丈夫」
ジョゼの頭を抱えて背中をさすってあげる。
「起こしちゃったね。まだもう少し寝ててもいいよ」
「ううん、起きる」
家から這い出て、ジョゼの分も魔法で水を出して並んで顔を洗う。
あたりはまだ薄暗い…それに今日は曇ってるみたいだ。
アマンダさんも丁度起きたところなようで、大きなあくびをしている。
「ふぁああ、ん、おはよう二人共、ずいぶん早いじゃないか?」
「おはよう、アマンダさん」
「おはようございます」
「シズ、朝食まではまだまだかかるから、ウチの男共を起こしてきておくれ。ジョゼが起きてるのに寝かせておけないよ。ジョゼはこっちにおいで、釜戸の準備を教えてあげる」
「わかった」
「は、はい!」
アマンダさんの家に入ると3人は床で雑魚寝している。
ウーゴさんは肩を揺すって起こして……
双子の方は毛布を剥ぎ取ってお尻を蹴っとばして起こす。
「あで」
「いで」
「起きろー、ほら、起きろー」
「シズ!起きるからやめろって」
「シズ!魔法使うな!マジで痛いから!」
二人がのそのそと起き出したら、いつものように水の用意をしにいく。
ジョゼはアマンダさんに料理を教わっている。真剣な眼差しでちゃんと聞いてるみたいだ。
すぐにジョゼがわたしの分の朝ごはんを用意してくれたので1人で食べる。
ジョゼは皆と食べるといいよ。
「はい、シズおねえちゃん」
「ん、ありがと」
「シズおねえちゃんはこれからお仕事…なんだよね」
「うん」
「がんばってね」
「うん」
朝ごはんを掻き込みながらジョゼと話をする。
「ごちそうさま。じゃあジョゼ、わたしは行くから。アマンダさんの言うことをちゃんと聞いて、1人でスラムから出ないようにね」
「うん…」
「アマンダさん、ジョゼをお願い」
「あいよ、シズも気をつけて行っておいで」
「うん、いってきます」
「いってらっしゃい」
「いってらっしゃい、シズおねえちゃん!」
▽ ▽ ▽
「シズ、アンタにしちゃ循環が乱れてるよ」
訓練中にグランマに注意を受けてしまった…。
どうにもジョゼのことが気になって集中が途切れてしまったみたいだ。
「ごめんなさい、グランマ」
「……昨日何かあったかい?」
グランマには何でもお見通しだな……。
ジョゼのことをグランマに伝える。
「捨て子か……どんな子だい?」
「えーと、こんな子」
幻影でジョゼの姿を創って見せる。
「小さい子だねぇ、いくつだって?」
「8歳だって、ジョゼはそう言ってたよ」
「……考え過ぎかね」
「グランマ?」
「いいや、こっちの話さ。シズ、“約束”はちゃんと守っているだろうね?」
「うん、大丈夫」
「ならいいさ。ほら訓練の続きだよ!ジョゼはアマンダが見てるんだろ?アンタはアンタのやることをちゃんとやりな!」
「うん、わかった」
▽ ▽ ▽
「お嬢、ボーイフレンドが出来たんだって?マダムに聞いたぜ」
「ボーイフレンド?」
「ん?違ったのか?ジョゼって子を気にして訓練に集中できなかったんだろ?」
「違う、ジョゼは面倒見てあげてるだけ!」
「ふーん」
色街への道すがらカルロスさんがニヤニヤとからかってくる。
「一緒に寝てあげたんだろ?ダメだぜー?
男はそういうのに弱いんだ」
「ジョゼはまだ8歳だよ」
「いやいや、男は獣さ…
「な!ちょっと!カルロスさん!」
やられた!…これはもう噂が広まっちゃうよ…許すまじ、カルロス!
「ハッハッハ、じゃあまた後でなお嬢…ぶへっ」
魔法でカルロスさんの顔に水を思い切りぶつけてから娼館に向かう……あんまり噂が広まりませんように!
▽ ▽ ▽
ダメだった…!
結局、仕事中は娼婦達に色々聞かれるし、
お屋敷についたらクレアさんまで「シズちゃんにボーイフレンドが…!」なんて言ってるし……。
午後の訓練もいまいち集中出来なくて…
グランマまで「シズもそんな年頃なんだねぇ」なんてからかってきて…今日は散々だった…。穴があったら入りたい……。
…もう!変に意識してジョゼにどんな顔で会えばいいか分からないよ!
▽ ▽ ▽
「ただいま」
「おかえりなさい!シズおねえちゃん!」
ジョゼが満面の笑みで迎えてくれる。
元気になってくれてよかったな……。
あう
恥ずかしくなって目を逸らしてしまう…
「…?」
「ア…アマンダさんは?」
「夕飯の支度してるよ」
「これ、お肉もらってきたから…」
クマのお肉の煮込みが沢山作れたから大きな鍋ごともらってきたんだ。
「わぁ!トニオさんとトンマさんが喜ぶね」
「だから、ほらアマンダさんのとこにいくよ」
「うん!」
お肉があるってことで今日の夕ごはんはそのままジョゼの誕生月のお祝いになった。
アマンダさんも追加で料理を作るみたいで、ジョゼと一緒に料理の手伝いをする。
すぐにウーゴさんと双子もお仕事から帰ってきた。
『『ジョゼ!誕生月おめでとう!!』』
「ありがとうございます!こんな風に祝ってもらえて……ボク…」
「ジョゼ!泣いてたら肉全部食べちまうぞ?」
「ジョゼ!まずは肉を食え!」
「アンタ達は……取り分けるから皿をお出し!ほらジョゼも!」
「はは、賑やかだねぇ」
「「「おかわり」」」
「わっ みんな早い」
「シズ!お前昼も食ってきたんだろ?」
「シズ!おにいちゃんに譲りなさい」
「わたしが狩ったお肉、わたしが食べる」
「アハハ、アハハハ」
ジョゼも泣きそうだったけど笑ってるね。
しんみりしたのはこの『家族』には合わないから、きっとこれがいいんだ。
▽ ▽ ▽
「おやすみ、ジョゼ」
「おやすみなさい、シズおねえちゃん」
今日は背中合わせに寝ることにする。
なんだか意識しちゃって……。
「シズおねえちゃん…」
「なに?」
「…昨日みたいに…ぎゅってして…」
…………!!!
「…いいよ」
「ありがとう、シズおねえちゃん!」
結局、ジョゼを抱きかかえて眠る。
この子は……そう!弟!弟みたいなもの!
…よし、明日はそんな感じで聞かれたら答えよう。
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