16話 迷い子

 ペニーさんに腸詰めの串焼きをごちそうしてもらった。かじりつくとパキッと音がして肉汁がジュワっと口一杯に広がる。うーん、美味しい。


「こっちのソース付きのもどうかね」


 ペニーさんが真っ赤なソースが波打つようにたっぷりとかかっている串焼きを手渡してくる。


「辛いやつ?」

「いいや、これは辛くない」

「本当?」


 ブルーノさんのしたり顔がちらつく。辛いのは嫌いだ。

 チロっと舌先でソースを舐めてみる……甘酸っぱい味だ。豪快にかじりつくとソースが飛び散りそうなので少し慎重に頬張る。

 甘酸っぱいソースと肉汁が絡んで…うーん、これも美味しい!


「どうかね?」

「おいいよ」


 ペニーさんが満足そうな顔を浮かべている。……なんだかブルーノさんと同じ顔な気がする…全然似てないのに…笑顔の種類が一緒だ。訝しむように目を向けると、サッと目を逸らされる。一体なんなの?


▽ ▽ ▽


 お店に戻って完成したリーフポーチをペニーさんに見てもらう。


「ペニーさん、コレ」

「ほう、革のポーチかね?拝見しよう…ふむ、かなりしっかりしてるね…採取用かね?」

「うん」

「よろしい、これなら銀貨2枚と…銅貨6枚で買い取ろう」

「それで大丈夫」


 硬貨を受け取って財布に入れる。

 ペニーさんは普段は冒険者向けの道具屋をやっていてかなり繁盛しているそうだ。

 王冠マークの『クラウン・マート』ってお店で、別の街にも分店があるくらいの大店なんだって。

 こうして、わたしは手作りの小物を買い取ってもらってる。ちゃんとお店に並べて冒険者さんが買っていくんだって。

 グランマ達にも何か作ってあげたら喜んでくれるかな?



 ペニーさんが言うにはこの変な店は完全に趣味の店だから儲からなくてもいいんだって。実際、ほとんどお客さんは来てないからね。

 隔週の安息日だけしか開けてないのに今日もお客はわたしだけ。わたしも何か買うわけじゃないから売上はゼロだ。

 場所が悪いと思うんだよね。

 たまたま路地を散歩して迷ってなければ見つけられなかった。そのくらい分かりにくい場所にある。

 こうして知り合えたのはとても良い出会いだったと思う。


「そろそろ店仕舞いとしようかな」


 今日はもう店仕舞いにするみたい。いつもより早い……セミのダメージが大きかったんだろう。


「またね、ペニーさん」

「ああ、シズお嬢さん。またのご来店をお待ちしております」


 挨拶だけ妙にきっちりしているペニーさんに見送られて店を後にする。

 まだ夕ごはんまでは時間があるから、広場をブラブラしていこうかな。


▽ ▽ ▽


 お店を冷やかしながら時間を潰していたら

チラホラと店仕舞いする人や値下げして売り切ろうとする人が目立ち始めた。

 少し安くなったワッフルをアマンダさん達の分までいっぱい買って紙袋に詰めてもらう。1つ取り出してかじりながら帰ろうとしていると、広場の隅に小さな男の子が独りでいるのが目についた。


 見た目は5,6歳くらいのくすんだ金髪の子だ。

 座りこんで膝をかかえたままジッと動かないから顔はよく見えない。たまに顔を少しだけ上げて周囲を見回すようにしている。


 しばらく眺めていても男の子はその場から動かないでいる。困ったな……迷子かな……それとも……。

 暗くなってしまえば広場だって治安は良くない。あんな子ども独りなんて、さらってくださいって言ってるようなものだ。

………ほっとけないよね。


「ねえ」と男の子の傍までいって声をかける。

 少しだけ顔を上げてこちらを見た。

鳶色の瞳が不安そうに揺れている。

目の下には、濃い隈がある。


「独り?」

「……うん」

「誰か待ってるの?」

「……」

「ワッフル、食べる?」


 ワッフルを1つ差し出すと、男の子は目を大きく開いてワッフルを見つめているけれど受け取ってくれない。


 隣に腰掛けてもう1つワッフルを取り出して自分でかじる。


「ほら、美味しいよ」

「……ありがとう…ございます」


 ようやく受け取ってくれた。消え入りそうなお礼はすごく丁寧だった。


 男の子がチマチマとワッフルをかじり終わるのを待ってまた話かける。


「わたしはシズ。あなたは?」

「ジョ……」

「ジョ?」

「……ジョゼ」

「ジョゼね」


 辺りを見回すとあれほど賑わっていた広場はもう人がまばらになっている。

 日もだいぶん傾いてきていて広場にも大きな影が落ちていた。


「ジョゼ。ここは暗くなると危ないから、わたしと人がいるところにいこう」

「……」

「ほら」


うーん、手を引いても動こうとしない…。

魔法を使えば強引に連れていけるだろうけど…手荒なことはしたくないし。

あっ そうだ…こうしよう。


「知ってる?この辺りは暗くなるとこわーい怪物が出るんだよ?」

「……え」

「手が大きなハサミになっててね、ジョゼみたいな独りの子どもを見つけると……」


 カバンからお気に入りのハサミ…黒光りする大振りな裁ち鋏を取り出してジャキジャキと鳴らして……


「首を……チョン切っちゃうんだ!」

「うわぁああ」


 よしよし、ビックリして立ち上がってプルプル震えてる。


「だから行くよ、ほら」

「あっ」


 ジョゼの手を引いて薄暗くなり始めた道を少し早足で進む。

なんとか歩いてくれてよかった。

はぁ、アマンダさんになんて説明しよう?


◎ ◎ ◎


 シズとジョゼが広場から歩み去る姿を

建物の影からジッと目で追う男がいた。

 男はシズ達が見えなくなると踵を返しその場を離れる。やがて男は街の南、『貴族街』へと姿を消した。



____________________


挿し絵風AI絵 広場の迷い子“ジョゼ”

https://kakuyomu.jp/users/Yutuki4324/news/16817330669428549868

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