12話 ある日、森の中で
魔法を使いすぎてくたくたになってしまったので、カルロスさんにおぶられながら森からの帰路に着いている。
「魔域で動けなくなるまで魔法を使うなんて何考えてんだい!」とグランマに叱られてしまった。
しゅんとしているとブルーノさんがハチミツを固めた飴をくれたので今も口の中で転がしている。甘くて長持ちするから体力回復にいいんだって。
仕留めたホーンボアもブルーノさんが皮袋にいれて運んでくれている。わたしよりずっと大きなイノシシなのに凄いパワーだ。
「しっかしお嬢は大したもんだぜ、さっきの魔法はマジで凄かった」
「実体化する程のイメージなんてそうできることではありません。…ですがシズちゃん、あの形はどうやって思い付いたのですか……?」
「前に見た。4歳くらいの時、表街でなんかやってたから」
「それは………」
「やめだやめだ、その話はやめときな。シズ、さっきのはあんまり使うんじゃないよ。
実体化するようなイメージなんてのはね、大抵はトラウマとか恐怖から来るもんだ。あまり思い出すものじゃない」
「うん」
わたしもあんまり思い出したくはないから
使わないようにしよう。あの目は今もたまに夢に見るから……。でも忘れてはいけないような気もする……。なんでだろう…?
「ウサギの時もお嬢は凄かったよな!」と
カルロスさんが少し暗くなった雰囲気を変えるようにホーンラビットとの戦いに話を向ける。
「よく倒れてすぐに躱せたよ。俺が最初にやらされた時はそのまま頭にもう一発もらって失神しちまったんだよなぁ……」
「情けないですね、カルロス」
「おや、クレア?涙目で逃げ回ってたのは誰だったかねえ?」
「マダム!だってあれは…!」
「ダッハハハ!人のこと言えねえなあクレア?」
「くっ……ブルーノ!あなたはどうだったんですか?」
「一発だ」
「ブルーノは13の時にやらせたんだが…もう身長が180越えてたんだよ。突っ込んで来たのを片手で掴んで首をコキリだ」
「「うわぁ」」
「ま、シズは中々いい動きだったね。特に蹴りがね、腰の入ったいい蹴りだったじゃないか」
「格闘は私が教えておきました」
「そのまま続けて教えな。武器はいくつあってもいいからね」
「なぁ俺もなんか教えてもいいか?」
「はぁ…どうせカルロスのは異性を口説き落とす話術とかそんなのでしょう?シズちゃんには必要ありません」
「あっなんだよ!重要だろうが、話術!」
「筋トレ、するか?」
「…筋トレはしたい。カルロスさんのは…いいや」
「また俺だけ除け者かよ!」
▽ ▽ ▽
しばらくして体調も戻ってきたから、カルロスさんの背中から降りて自力で歩く。
「まだ乗っててもいいぜ、お嬢」なんて気を遣ってくれるけどあんまり甘えるわけにはいかない。
「屋敷に帰るまでが訓練だ、帰り道に油断するんじゃないよ」というグランマの忠告にしたがって、しっかり魔素を探りながら足を進める。
森の出口が見えてきた当たりで背後から嫌な熱を帯びた魔素を微かに感じる。かなり遠い場所みたいだけど…こっちを探しているような…そんな感じだ。
「んんー」
「シズちゃん、どうしましたか?」
「何か…追いかけて来てるような…」
「クレア、わかるかい?」
「いえ…私の探知には何も…」
「シズ、確かかい?」
「わからない…こっちを探しているような感じ。かなり遠いとこ」
「どう思うね?」
「シズちゃんの魔素との親和性は途轍もなく高い…シズちゃんが何か感じたのであれば警戒するべきです」
「ふむ…ブルーノ…荷物を置いて後ろに周りな。一旦足を止めて森からの襲撃に備えるよ」
「了解」
「シズはアタシの後ろに来な」
「うん」
配置を変えてブルーノさんを先頭に森の奥を向いて警戒する。ピリピリした雰囲気に緊張する。感じていた魔素がさらに熱を帯びて一気にこちらに近づいてくる。
「!…来た!」
「私にもわかりました!これは……グリムグリズリーです!」
「クマがこんな浅いところまでくるのかよ!」
「速い…!来ます!」
低い枝ごと繁みを突き破りながら灰色の巨大なクマ…グリムグリズリーが姿を現す。
折れた枝が飛んできて、グランマが素早く出した〖
〈グオォオオオ!!〉
咆哮をあげて立ち上がった
「オォオオオオオオオ!!」
クマの咆哮に負けないくらいの雄叫びをあげてブルーノさんが突っ込んだ!
野太いクマの前足が振り下ろされ、凶悪な爪がブルーノさんに襲いかかる。
ドズン っという鈍い音が響く。ブルーノさんは頭に血管を浮かばせて振り下ろされた両前足をギリギリと握りしめ、クマの巨体を完全に受け止めてしまった。
「カルロス、鈍っていないでしょうね!」
「ハッ!誰に言ってやがる!」
カルロスさんとクレアさんがクマの左右から挟み込むように低く体を
「ムッ…思ったより浅いですね」
「こんなもんだろ!」
クマは痛みに巨体を暴れさせようとする。
ブルーノさんはまだ腕を抑え込んでいるけど……クマは牙を剥き出しにして噛みつこうとしている。
「シズ!足の傷に〖
「…!」
急な指示に少し焦ったけど集中してイメージする。カルロスさんとクレアさんがつけた傷口に寸分違わずに刃を……当てる!
「〖魔法刃〗!」
同時に2発、放たれた魔法の刃はブルーノさんのすぐ近くを抜けて、クマの両足についた傷に吸い込まれるようにさらに深く斬り裂いた。ブルーノさんがそれに合わせてバランスを崩したクマを一気に引き倒すと、ズン と、うつ伏せに地面に叩きつけられる。
「マダム!」
ブルーノさんが横に飛び退きながら叫び、グランマが練り上げていた魔法を解き放つ!
「〖
うつ伏せになったクマの顎の下から鋭い大地の槍が回転しながら脳天に抜けていく。
頭に穴があいて、どう見ても絶命している。
凄い…!こんな大きな魔獣をあっという間に仕留めちゃった…!
▽ ▽ ▽
やっと森から抜け出して、街への道を歩いている。
グリムグリズリーはグランマが出した〖魔法壁〗に載せて運んでいる。
「しっかし、なんだってあんな浅域にクマが出たんだ?下手したら森から出てくる位置だったぜ」
「シズちゃんが言うには、私達を探して追いかけてきた様子だったみたいですが…」
「ウサギとイノシシのモツは置いてきたし、清浄もかけてたよな?」
「ええ…グリムグリズリーは本来、中域以降に生息している魔獣です。もちろん浅域に出てくることはありますが、わざわざ追いかけて来るというのは聞いたことがありません」
「……もしかして、コレかな?」
わたしは「あーん」と口を開いてまだ残っていたハチミツ飴を舌に乗せて見せる。
「……クマはハチミツが好物だと聞いたことがあります。魔獣になったものまではどうか分かりませんが」
「じゃあなんだ?お嬢が舐めてた飴の匂いに釣られて来たってことか?」
「可能性は……高いでしょうね」
「はぁ……ブルーノ、今後、森にはそのハチミツ飴持ってくるのは止めときな、他にハチミツが入ってるような甘味もだ」
「…了解」
「残念…ブルーノさん、もう一個頂戴」
「あぁ」
ハチミツ飴は美味しかったけどクマに追いかけられるのは嫌だから森で食べるのは諦めよう。
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