8話 森への道のり

 カルロスさんが息を切らせて走ってくる。


「ハァハァ‥お待たせ‥ハァ」

「カルロス、だらしないですよ」

「ハァ‥うる‥せ‥ハァ‥あああしんどい」

「カルロス殿!!鍛え方が足りないようですな!!」

「…〖お疲れ様です〗」

 汗だくで肩で息をしているカルロスさんに手を当てて疲労回復の魔法をかけてあげる。


「お嬢、ありがとな。てか詠唱テキトーだなぁ」

「止めちゃうよ」

「悪い悪い、もうちょっと頼むわ…っし、生き返ったあ!お嬢の魔法は効きがちがうぜ」

「元気が出たならさっさと報告しな」

「とりあえず森の入り口あたりまでひとっ走りしてきたが途中に野盗やらなんやらはいなかったぜ」

「カルロス、森までいってたんですね」

「そうだぜ、ちょっとは労ってくれてもいいんじゃないか」

「必要ありません」「無いねぇ」「無い」 「必要無いですな!!」「…お疲れさま」

「優しいのはお嬢だけだぜ…」


 森までは普通に歩いて3時間ちょっとだっけ……。

グランマのことだから朝、急に指示を出したにちがいない。カルロスさんお疲れさま。

野盗なんてグランマ達にかかれば大したことはないはずだから…わたしの為だよね。



「それじゃあ行ってくるからね」

「いってらっしゃいませ!!お早いお帰りを!!」

「夕方まで帰らないよ」


 5人で連れだって、色街を抜けて北側の外壁までたどり着く。ここに秘密の抜け道があるんだって。

 昔は密輸なんかに使われていたみたいだけど今はグランマ達が管理している。

 待機していたグランマの配下の人達が壁の一部に見えるようにしてある、重そうな石で出来た障害物を数人係りで動かすと、通り道ができる。本当は悪いことだと思うけど…なんだかカッコいい。


 “森”は街の外に出てそのまま北に向かったところにある。一応名前はついていたハズ…だけど、だいたい森って呼んでいる。


「シズちゃん、これから向かう場所は魔域の中でも“浅域”と呼ばれる場所になります、魔域について覚えていますか?」


 グランマの予定が空かないときはクレアさんが冒険者として活動する為に必要な知識を教えてくれるんだけど、今日はこうして実地講義をしてくれるそうだ。


「…魔域…は、魔素が普通より多い?濃い?場所」

「その通り。魔素の濃度が高い場所を魔域と呼びます。私達の住む都市…『エルドストル』は北に『グレイフォレスト』、西に『エルドマイン』、2つの魔域と隣接しています」

「うん」

「魔域の特徴はどういったものかわかりますか?」

「魔獣がでやすいこと…あと資源が豊富?」

「そうですね。魔素により土地の力が強くなり、例えば木々はより大きく逞しく成長しますし、薬草などはその効果を高めます。同様に野生の獣はより強くなり、それを魔獣、特に人型のものを魔物と呼びます」

「…だいたい覚えてる」

「続けましょう。魔域はその魔素の濃度により“浅域”、“中域”、“深域”、“最深域”に分けられますが…」

「おいクレア!さすがにくどいぞ!道すがらにやる内容じゃないだろコレ!」

「同感だ。今やることじゃないねぇ」

 

 集中して聞いているとカルロスさんが茶々を入れグランマが同意する。……残念、もう少し聞いていたかったな。


「す、すみません!熱が入りすぎました!」

クレアさんは頭をペコペコさせて謝っている。


「少し急ぐよ。シズ、しっかりついておいで」


 そう言うやいなやグランマは走り……走ってない…浮いてる!グランマは地面から少しだけ浮いて滑るように移動し始めた。凄いスピードだ。あれも魔法だよね。どうやっているんだろう?


 慌てて脚力を強化をして追いかける。皆も一斉に走り出す。…ブルーノさんは腕を組んだまま上半身を微動だにさせずに走っていた…あれも魔法??


 全体が灰を被ったような、くすんだ緑色の背の高い木々が並ぶ森が見えてきた。枝同士が重なり合い、葉も鬱蒼として日の光が地面に届かずに遠目からでも暗い雰囲気を醸し出している。

 あれが『グレイフォレスト』…わたしの初めて入る魔域だ…。

 ジッと森を見つめていると、「緊張してるな、お嬢」とカルロスさんが頭にポンと手を置く。見上げると、ニコっと、いつもの人好きのする笑顔を向けてくれる。


「大丈夫ですよ」とクレアさんが横に並びながら励ましてくれる。


 ブルーノさんは「平常心だ」と言ってまた飴をくれた。舐めたらスゴく酸っぱかった…!ブルーノさんは珍しく口角が上がっていた…イタズラ成功って顔だ。


「さて、シズの魔域デビューだ!なにシズの腕なら何にも心配することはないよ!アタシが保証する!」

 グランマが啖呵を切り、ニヤっと笑う。


 まだ緊張はしているけれど、皆のお陰でそれ以上に気が高ぶってくる。

 

 そうして、わたしは初めて魔の領域に足を踏み入れた。










 

 











 

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