7話 お着替え

 酷い夢を見た気がする…。

頭がケーキで出来た怪人が「食べてくれぇ」といいながら押し寄せてきて、わたしはひたすらそのケーキ頭を斬り飛ばし続ける…そんな夢だ。


 昨日は色んなことがあった…。

 グランマの訓練で思い切り吐いて部屋を汚してしまった。

 グランマは「大丈夫さ」と言ってくれたし、部屋もちゃんと綺麗にしたけど申し訳なさでいっぱいだった。

 なんとか挽回しようとその後の訓練は気合いを入れてお手本通りに“的”の首をたくさん飛ばした。

 でも張りきり過ぎて今度は空腹で目が回るまで魔法を使って、またごはんを食べさせてもらって…お世話になりっぱなしだった。

 仕事のお代として魔法を教えてもらってるハズなのに…「食事代分も十分働いてもらってるさ」なんて…優しすぎていたたまれないよ。


 おまけに、家に帰ってアマンダさんの家族と夕ごはんを食べてゆっくりしていたら、

クレアさんが慌てた様子で駆け込んできて、

「シズちゃん、甘いものはどうですか!?」

なんてすごい剣幕でケーキを取り出し始めて、わたしが1個食べおわる傍から「まだ!まだありますよ!」ってドンドン渡してきた。

 アマンダさん達が見かねて「アタシらにも貰えるかい」って言ってくれなかったらまた吐いちゃうところだったよ。ケーキは美味しかったけども。


 毛布からもぞもぞ抜け出すと、朝の空気が冷たくて少し身震いする。

 壁にかけておいた月の耳飾りを手に取ろうとして、グランマから今日は森に行くんだと言われていたことを思い出して止める。落としたりしたら大変だ。


 家から抜け出して顔を洗いながらアマンダさんに挨拶して、水瓶に水を入れていく。


「お腹は平気かい?昨晩は苦しそうだったけど」

「平気、でも食べ過ぎた。半分は取っておいて貰えばよかったかな?」


「半分でも食べ過ぎだよ」と苦笑しながら

アマンダさんが朝ごはんを用意してくれる。


「今日は森で狩りだって」

「えぇ!?大丈夫かい?」

「グランマ達と一緒だからね」

「それなら平気かね。でも気をつけるんだよ?森は危ないからね」

「うん、たぶん晩ごはんはいらないかも」

「はいはい」


朝ごはんをかきこんで、流行る気持ちのままに走り出す。

「いってきます」

「はいよ、いってらっしゃい」


▽ ▽ ▽


 グランマのお屋敷に着くと門の所にはブルーノさんとクレアさんがいて、それともう1人…。


「シズ様!!おはようございます!!」

「おはよう、バーノンさん。朝からなんて珍しい」


 バーノンさんはもう1人の門番さんで、ブルーノさんに負けないくらいの体格に金髪の角刈り頭の男性だ。いつもは夜からの番のハズだけど今日はどうしたのかな?


「ブルーノも森に行くので、バーノンが今日は番をするんですよ」

「なるほど」

「その通りであります!!」


 クレアさんが説明をしてくれる。

バーノンさんはひたすらに声が大きくて空気がビリビリするみたいだ。


「シズちゃん、とりあえず中で着替えをしましょう」

「着替え?これじゃダメ?」

「その格好で森に行かせるわけにはいきませんよ」


 改めて自分の格好を見る。

今着ている服は、自分で作ったやつで結構気に入ってる。拾ったカーテンみたいな暑い布を切って縫い合わせたんだ。

 ちゃんと魔法で綺麗にしてあるんだけどな…。

 たしかにサイズは合ってないけど成長を見越して作ったやつだから問題ない。


 わたしが裾に鼻をつけていると、「匂うわけではないですよ」とクレアさんは笑う。

「シズちゃん、それ一枚しか着ていないですし、肌も結構見えてしまっていますよね」

「うん…」

「森を歩く時は肌は極力隠すのが基本ですよ?毒虫や草木で切れないようにする対策です」

「魔法で切り傷くらい治せるよ」

「それでもです。さっ行きますよ!」


 有無を言わせずにクレアさんに屋敷の一室に連れていかれる。


「では服を脱いでいきましょうねー」

クレアさんが手をワキワキと動かしながら、にじり寄ってくる。

「じ…自分で脱げる」

「シズちゃん毎日服を着たまま清潔魔法で済ませてるでしょう?」

「うっ」

「図星ですね?問答無用!」

一瞬で距離を詰められた…動きが全く見えなかった…さすがグランマの筆頭メイドさん。

 結局されるがままになって服を着せられてしまった。


「ふふふ、これでいいでしょう」

 諦めて体の力を抜いていたらすぐに着替えは終わったみたいだ。体にあわせて伸び縮みする肌着みたいなのが手首まで覆っていて、下半身も同じような材質の布で覆われている。その上から半袖の厚めの布シャツと膝くらいまでの布ズボン。丈の長い革の上着を着させられて靴も頑丈そうな靴に履き替えさせられている。


「ムズムズする…」

「すぐに慣れますよ。私は少し用意をしてきますから、先に門の所で待っていてください」


 クレアさんはそう言って部屋から出ていってしまった。わたしはその場で軽く跳びはねてみる。うーん、まだ動き辛いかも‥‥。

 肩掛けカバンも服と一緒に外されていたからどうしようか悩んだけど持っていくことにしよう。


 門まで戻るとグランマが居て、すぐにわたしに気づく。いつものドレス姿じゃなくて、クレアさんと同じパンツスタイルの革スーツにローブを羽織っている。

 グランマ達のスーツは魔獣素材で出来ていて、そのまま防具にもなってるんだそうだ。

わたしが着せてもらった上着も同じ素材みたいだ。


「おはよう、シズ。なかなか似合ってるじゃないか」

「おはようございます、グランマ」

「クレアは一緒じゃなかったのかい?」

「何か用意があるって」


 そんな風に話をしているとクレアさんが何か包みみたいなのを持ってやってくる。


「なんだいそりゃ?」

「これですか?お弁当ですよ。シェフに頼んでおきました」

「ピクニックじゃないんだよ?全くあの人は…」

「マダムのことですから、どうせ狩った獲物をその場で…みたいに考えていたんでしょう?」

「あたり前じゃないか、狩りにいくんだよ?」

「獲物は血抜きだけして持って帰って来てくれ、だそうです。解体はシェフが教えたいそうですよ」

「ったくどいつもこいつもシズに甘いねえ」

「ところでカルロスはまだですか?」

「あいつなら今ちょっと仕事を頼んでる。じきに戻ってくるよ」


しばらく待っているとカルロスさんが戻ってくるのが見えた。





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