5話 ランチタイムと幻影魔法

 パンパンになったゴミ袋を軽めに身体強化を使って色街の隅にある焼却炉まで運んでいく。うーん、大きくて前が見にくい。

 他の娼館からのゴミも沢山集まって来ている。掃除の人夫さん達が一仕事終えて休憩していて人とリアカーでいっぱいだ。ゴミを焼却炉にほうり込んで近くの人夫さんに尋ねる。


「わたしが最後?」

「あーーどうだろな?大分集まってるし、そうじゃないか?まぁシズちゃんより遅れたやつが悪いさ」

「じゃあ燃やしちゃうね」

「おう!いつもありがとな!」

 

 焼却炉の前に立って意識を集中する。高温で一気に燃やさないと匂いが出ちゃうから、わたしにできる全力で挑まないといけない。


「〖火風ホノカ〗」


 かざした手から炎と風をゴミめがけて叩きつける。10秒ほどできつくなってくるけど頑張って維持する。目標は1分くらいかな。

 魔法を止めて確認するとしっかりゴミ全体に火が回っているみたいで魔法の成果に満足する。


 全力を出したから頭がクラクラして足もフラフラする。慌てて体力を回復すると今度はお腹から大きな音が鳴る。ごはんは沢山食べてるんだけど魔法をたくさん使うとすぐにお腹が減るんだよね。体力は魔法で回復できても空腹はどうしようもない。ブルーノさんからもらったミルク味の飴をまた口にほうり込んで転がす。甘ったるくて美味しい。今度、自分用に買いにいこうかな。


 その後、鳴り続けるわたしのお腹の音に大爆笑するカルロスさんと並んでグランマの屋敷まで歩かないといけなくて凄く恥ずかしかった。

 お腹の音を抑える魔法を考えよう。…それともお腹を鳴らす魔法でカルロスさんに仕返ししようかな?


 屋敷に戻って食堂に向かうとグランマはもう席に着いて待っていた。わたしはその隣の席に着く。ここがわたしの定位置だ。カルロスさんはその向かいに座る。…お腹を指差して笑うな…今は鳴ってないからっ。


「なに笑ってるんだい、カルロス?」

「いやぁ、お嬢のお腹の音が可愛くって。帰ってくる間鳴りっぱなしだったんでね」

「…鳴ってないっ…あ」

 しゃべってお腹の力が抜けて鳴っちゃった…許すまじ、カルロス!

「アッハハハ、たしかに可愛らしい音だこと」

 グランマも笑わないでよ。


 「お待たせしました」と、ワゴンにお昼ごはんを載せてきたのはクレアさんだ。黒髪を後ろでまとめてクールな印象の美人さん。一応メイドさんらしいんだけど、パンツスタイルのスーツがよく似合う女性だ。年齢は…秘密だって。


「シズちゃん、耳飾り可愛いですね」

「エミリアにもらった」

「似合っていますよ」


 よく気がつくし気の回る素敵な人だ。

グランマもカルロスさんも気づいてくれなかった髪に隠れた耳飾りを誉めてくれる。ブルーノさんは耳の辺りをジッと見ていたので気づいてたような気はするけど、全然喋らないからね‥‥。


 今日のお昼ごはんはスライスした黒パンと

シチューだった。お肉がとろとろになるまで煮込んであるシチューに黒パンをふやけるまで浸して食べる。グランマとカルロスさんが食べ終わってお仕事の話をしている間も黙々と食べる…今日はおかわりを4回した。

 

 お昼ごはんの後は、またグランマの仕事部屋で魔法の訓練をする。午後の訓練は魔素の操作とイメージを形にする力を鍛える訓練。幻影魔法の訓練だ。

 

「それじゃあ、アタシの言う通りに幻を創りな」

 

 幻影魔法はイメージ訓練にぴったりな魔法だ。正確なイメージ力がないと幻の形が崩れたり、透けたりする。

グランマの矢継ぎ早の指示に合わせて幻を創り出していく。


 「黒猫、三毛猫、白猫、魚を咥えた黒猫、親子の黒猫…子猫を5匹追加して」

 幻の猫が部屋を駆け回る。グランマは大の猫好きだ。


 「一旦消して…うん、堪能した」

絶対いまのはグランマの趣味だ。お世話になってるから癒しの猫ちゃんくらい頼んでくれたらいつでも出すのに。


 ウォーミングアップが終わったら本格的なイメージ訓練だ。攻撃魔法の幻を創ったり、“的”に魔法が当たったときどうなるかの幻を創ったりする。

 木の板が燃えたり吹き飛んでいったり、スパっと切れたりする。全部幻だけど。


「シズ、生き物…いや“人間”に向けて攻撃魔法を使うとどうなるか。いや、人を殺せる魔法をイメージできるかい?」

しばらく練習しているとグランマがそう言った。


 ゴクリと思わず息を飲む。いつかはやるんだろうなとは思ってたけど…。やらないと…いけないよね…。

ゆっくり頷いて人間の“的”を創る。顔が知り合いに似ないように……結局顔に目隠しをつけた。まるで死刑囚だ。

 イメージするのは〖火風〗だ。大量のゴミをあっという間に燃やせる火力…あれを人間に向けたら……。

深呼吸して…手を“的”に向ける…。

幻の炎が放たれて“的”は一気に燃え上がり、すぐに黒焦げの何かにかわって崩れ落ちた。炎を止めてグランマの顔を見る。


 「炎…ね、そういえば焼却炉の火入れもやっていたんだったね。躊躇わなかったのはまずまずだ。よろしい、手本を見せてあげようかい」




















 


 





 



 



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