2話 シズとグランマの屋敷
スラムの家からグランマの屋敷までは結構遠い。早起きして朝ごはんも急いで食べて、それでも普通に走ったんじゃ間に合わない。グランマはとっても時間に厳しい。
「〖駆け足〗」
だから魔法を使う。
「〖もっと〗」
わたしは一気に強化した脚力で加速して
そのままスラムを駆け抜ける。
スラムを抜けると掘っ建て小屋じゃないちゃんとした家が並んでくる。
「〖猫足〗」
足音を消す魔法を使って、てきとうな壁を蹴って屋根の上に上がる。
ちょっと足を止めて休憩。周囲に満ちる魔素を感じとり深呼吸しながら魔素を体の中に導いていく。
ここからは全力疾走だ。スピードが落ちると屋根から落ちてしまうから。
「〖駆け足〗」「〖猫足〗」
「〖追い風〗」
目一杯、走るための魔法を使って屋根の上を走り出す。ぐんぐんと加速して景色が流れていくのが楽しい。
屋根から屋根へ、飛び移りながらどんどん走る。
だんだん建物の形が変わってきたら、グランマの居る“色街”だ。辺りを見渡してグランマの屋敷を探す。
グランマの屋敷は色街で一番大きくて、なんだか頑丈そうな見た目をしてる。
この街の北側、裏街を仕切ってるボス、それがグランマだ。
「〖
着地の魔法を使ってお尻からぼふっと音を立てて着地する。…着地はもうちょっとかっこよくしたい。
「シズか」
着地の音に気づいたみたいでグランマの屋敷の門番さんが声をかけてくる。
黒革のスーツにゴツゴツした傷だらけのスキンヘッド、肩幅が広くて身長もわたしの倍くらいある、威圧感の凄いこの人はブルーノさんだ。
わたしはパンパンとお尻をはたきながら門に近づいていく。
「…おはよう、ブルーノさん、グランマは起きてる?」
「ああ」
「…お邪魔します」
いつものように横を通り抜けようとすると珍しく腕を前に出されて止められた。
ブルーノさんはそのまま無言でポケットをごそごそとやると、ぬっと腕を突き出してくる。
ゴツゴツした手に似合わない、可愛らしい包みの飴が2粒握られていた。
「イチゴ味だ」
「あ…ありがとうございます」
わたしも口数は多くない方だと思うんだけど、ブルーノさんにはもっとしゃべってほしい。威圧感が凄すぎるんだ。
飴玉を受け取るとブルーノさんは姿勢を正して家の外を睨み付けはじめた。
その厳つい横顔をチラチラ見ながら門を通り抜けて歩いていけば重そうな扉がこちらに開くのが見え、中から1人の女性が出迎えてくれる。
「おはようございます、グランマ」
「おはよう、シズ。今日はいつもより早いんじゃないかい?」
燃えるような紅い髪をゆるく束ねて横に流し、パープルのドレスを着こなした、どう見たって30代にしか見えない自称78歳の女性。
“魔女”だなんて呼ばれてるのも納得できる妖しい魅力に満ちたこの女性がわたしの雇い主にして師匠。“マダム”ロクサーヌだ。
ちなみにグランマって呼んでるのはわたしだけらしい。
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