三十三.二度目の激突
黒い真胴は灼戦斧を構えなおし、ナナイロも光弩を下げて大太刀を手にする。
「鵜珠来はともかく、貴様まで蒼司を見限ったのか地井直騎!」
「そうではない。あの戦いを仕組んだ貴様らを倒すまでは戻らぬと決めたまでよ!」
「是非を問うのならば鵜珠来の責任追及が先ではなくて?」
「そこの娘がいなければ、俺が勝っていたさ」
指摘に直騎は聞く気を持たずに冷たく突き放した。あからさまな責任逃れの弁を聞いた泰輝は失望を隠せない。
「地井直騎、俺は貴様を買い被りしていたようだ。そのような詭弁を弄するとは」
「なんとでも言うが良い。貴様らを倒し首級を上げれば全ては解決するのだからな」
「直騎の言ったとおりだ。不二にとっての異物は我々ではなく貴様らだよ、宇野泰輝」
直騎の言葉を鵜珠来が引き継ぐ。それを聞いたレディは声を荒げて反論を試みた。
「よく言いますね。空間歪曲場なんて機構を組み込んだ上に時間破壊波とぶつけ合わせようとしたくせに!」
「貴様が言えた立場か、レディとやら。天海の術を駆使して存在を改変した上に、それをもって不二を再度屈服させようともくろんでいる外道め」
「……っ! 私は加減しているつもりです。外法を乱用もしていない」
「技術に貴賤を問う行為がどれほど愚かなことか分からぬか? もし喜央斎がいたら憤慨していたであろうよ」
鵜珠来はあざ笑う。天海におぜん立てしてもらわねば何も出来ない操り人形に過ぎないと言い切る姿勢に少女が再び反論を試みようとしたところで、泰輝がそれを抑えるように先んじて口を開いた。
「これ以上は無意味だな。お前たちも邪魔な俺たちを倒したいのだろう?」
「そうかな? 大人しく紅城に戻るのならば命まで奪おうとは思わぬがな」
「今は、でしょう? わたくし達が白華へ赴くのが目障りなだけでここまで追いかけてくるとも思えないですものね」
「……黙っていろ女よ。俺の目的は宇野泰輝とレディだけだ」
直騎はそう吐き捨てると操縦桿と踏圧板を押し込み黒魁を突撃させる。灼戦斧を振り回してナナイロの機体を叩き切らんとするが、泰輝は受けることを避けて左横にナナイロをずらして攻撃をかわし太刀を構えなおし、背後を取ろうとしたが黒魁は地を滑るように走って追撃を振り切った。
「
「斬りあいが嫌か宇野泰輝……ならば、これを受けてみよ!」
黒魁は旋回しながら灼戦斧を振り上げ、腰回りに備えられた二門の砲から雨あられのごとき速さで弾を連射してくるが、ナナイロはそれを見るより先に地面を蹴り上げて跳躍し空中から前へと出ていく。
「兜割りなどお見通しだ!」
「間に合うものか!」
泰輝と直騎は声を重ねた。ナナイロの斬撃に対し黒魁は灼戦斧を風車のように振り回して頭上を守ろうとする。振り回している頭上の空間は先程喜央斎の攻撃を防いだ時のように揺らめき歪んでいた。
「レディ、あれが空間を操作しているということか!?」
「はい、
「虚空、と言うべきかしら? 存在を拒む空間を作り上げる」
「……太刀を強化しても無駄か」
状況不利と見た泰輝は斬撃を諦め、噴進型加速器を全開稼働させて強引に相手を飛び越える。ちょうど背中を合わせるような形になったところで両者ともに動きを止めた。
「怖気づいたか」
「恐れを感じぬほど鈍感ではない」
「改めて警告をしておこうかレディとやら。白華に向かうのはやめておけ」
「それは譲れませんね。貴方こそ白華と私が共倒れになることを望んでいるんじゃないですか」
あなた方にとって私は予定外の存在なのでしょうというレディの言葉に、鵜珠来は「確かにな」と否定しなかったものの「だからこそ不確定要素を排除しなければならん」といって譲らない。
「不二の現状を変えたいという意味では分かりあえる要素もなくはないと思いますけどね」
「だが、我ら黒荘は貴様を認めない」
「そうだ、貴様さえいなければ俺も蒼司にいたまま、宇野泰輝を討ち取れていたものを!」
「負け惜しみとは程度の低い言いざまだな地井直騎よ。お前こそ黒荘の言いなりに成り下がっただけではないか!」
お互いに相手を認めず交渉の余地がないことを確認したところで同時に距離をとるべく動き出し、得物を構える。
「レディ、ナナイロはあの空間操作を上回れるのかしら?」
「やってみないと何とも言えませんね。単純に力を高めれば何とかなる話でもありませんから」
「ならば試してみれば良いだけだ。最大出力で太刀を強化してくれ」
泰輝は戦いの中では迷わない。やる前から出来ないことを想定するつもりもなかった。レディも陽向も何ひとつ意見を述べずに判断を委ねる。そしてそれは鵜珠来と直騎も同じだった。
「さっきの行動は良い布石だったな。灼戦斧に空の要素をうまく連動させることができている」
「ならばあとは俺が奴らを両断するだけだな……任せてもらおう」
直騎はそういうと自分から斬り込んでいき、泰輝は太刀を構えて迎え撃つ。空間を歪ませる黒い斬撃と全てを包み込むナナイロの斬撃がぶつかり合い、音すら響かせず決着した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます