三十一.総決算装備
いくらかも進まぬうちに相手が待ち受けているのを見た泰輝は自分から確認を入れる。
「喜央斎、今回は何号だ?」
「今回は六十七号じゃ……名乗る前に聞くな愚か者めが! 格好がつかぬではないか!」
「お師匠様、それは無理なんじゃないかと思いますよ」
相変わらずの漫才じみた会話を繰り広げる二人であったが、今回は最初からこれまでに装備していた機構の全てを展開しており、真胴並みの胴体部に六本脚に四つの腕を備えて太刀、火炎放射器、飛翔拳に二門の火砲とこれまでの総決算とでもいうべき重装型の機体を見たレディは感心したように声をかけた。
「その装備を機体均衡を崩さずに搭載させているのは流石ですね」
「ふん、今更おだてても無駄なことよ。そちらも手札を見せたらどうじゃ?」
「言われるまでもない。レディ、ナナイロを」
「はーい、ナナイロ、展開しまーす!」
瞬く間に機体は大きくなり、ナナイロに染まっていく。本来の赤色に肩の黄色、腕の緑、脚部の青、胴体には紫と藍の二本縞が備わって、頭部には橙色の満月飾りを戴く派手ながらも勇ましい真胴が現れて大太刀を構えた。
「今度こそ本気で来よるか!」
「ああ、貴様の顔も見飽きてきたところだ。ここで雌雄を決してくれる!」
「望むところよ! 今一、火砲を放て!」
「了解です」
六十七号の火砲が火を噴き、戦いは始まった。泰輝は巧みな操縦で砲撃を回避しつつゆっくりと間合いを詰めようとするが、今度はそこに飛翔拳が飛んでくる。不発時のためか地味に鎖が追加されており、芸が細かい。
「だが、それで重心を保てるのか!?」
「わしを誰だと思うておる!」
挑発を一蹴した喜央斎はその勢いを利用して突進し、大太刀で切り払われた飛翔拳を回収しつつ火炎放射を浴びせるがやはりナナイロをまとった装甲には通じず、好機と見た泰輝も炎の中に機体を躍り込ませた。
「泰輝様」
「案ずるな陽向。しっかり掴まっていろ!」
若干ながら隔壁越しに伝わってくる熱気を感じた陽向が声を上げるが、泰輝は弱気を見せずに励ますと大太刀で火炎放射器本体を切り落とそうとするが、六十七号は太刀を持った腕でそれを防いで至近距離からもう一つの飛翔拳を放って頭部を狙う。
「……もらいましたよ!」
「その手はお見通しです!」
珍しく真剣な口調で話す今一に対してレディが切り返しの言葉と同時に鍵盤を叩き、満月の飾りから光弾を放ち飛翔拳を撃ち落とした。
「レディ、助かったぞ!」
「泰輝さま、お褒めの言葉はありがたいですけど……!」
「ふん、まだまだ終わらんぞい!」
攻撃の失敗にも焦らず、六十七号は一旦火炎放射を止めて火砲を放つと同時に反動を利用してナナイロを押し返して間合いを取り、態勢を整え直す。泰輝も深追いを避けて距離を置いた。そして傍らの二人に意見を求める。
「奴らはまだ手を隠していると思うか?」
「聞こえてくる声には余裕があります。あと一手ほど切り札を伏せている可能性は高いかと」
「さっきの
レディの言葉が終わるより前に光の弾が放たれてきて、泰輝の反応は間に合わなかったがナナイロは既に偏光防壁を展開し終えており、直前で弾いた。
「光弩か!?」
「……違いますね。どうやらさっきまでの火砲は見せ札だったみたいですよ」
硬い声で少女が答える。言う通り、光は火砲を放っていた箇所から飛んできていたのを陽向もその視界に捉えていた。
「これはもう穏便には済まないわね」
「そうですね。あのまま追いかけてこられると無駄に迷惑が広がるだけじゃないかと……」
「……分かっている。レディ、光の槍を使うぞ」
「了解しました」
泰輝は即座に決断を下し、構えさせていた大太刀をそばの地面に突き立て右の掌を正面にかざすと七色に輝く光を収束させていく。六十七号の操縦席からそれを見た喜央斎は今一に言った。
「あの光をよく見ておけ。わしの予測通りならば……」
「……お師匠様の仮説でしたね。不二の地は七つの色の元素で
「そうじゃ。
あれは創世の光よ、と老技術者は目を細める。
「そんなのを受けたら流石に死にませんですかね?」
「無論、ここでは死ねん。あれを使う」
「え? でもまだ制御が不完全で……」
「今使わんでいつ使うんじゃ阿呆!」
「……承知しました」
師匠に急かされて今一はため息をついて手元の操作盤を動かそうとするが、それより前に目の前の空間が急に揺らめき始めたため慌てて手を止めた。泰輝たちも驚きに目を見開く。
「何だっ!」
「この反応は……! 泰輝さま、準備不完全ですけれど撃ってください!」
「くっ……!」
嫌な予感に襲われ言葉を待つことなく光の槍を伸ばしたものの、揺らぎの中から姿を表した漆黒の真胴はそれを苦も無く打ち消した。それを見た喜央斎は苛立たし気に唸り声を上げる。
「何者じゃ、わしらの邪魔をしおるのは?」
「遊びは済んだか、佐倉喜央斎?」
「その声は……」
「……
紅城の境での決闘以後、姿を消していた黒荘の男の声に泰輝たちは声を揃えて驚いた。
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