ダンジョン最奥のボスママに人間(エサ)を届ける僕、今回ばかりは人選を間違えたのかもしれない
遠堂 沙弥
ダンジョン最奥のボスママに人間(エサ)を届ける僕、今回ばかりは人選を間違えたのかもしれない
僕の名前はクレヴァ。
ダンジョン最奥のボスママに
外見は人間が最も油断する姿、それは七歳前後の少年だ。
非力、かつ人間の庇護欲をそそるには十分だという理由だってママが言ってた。
そしてダンジョンにはびこっている魔物は、僕のお兄ちゃんやお姉ちゃんだ。
みんなママに従順だけど、いざ美味しそうな人間を見かけると見境なく食べちゃう行儀の悪いところが玉にキズ。
それでも子供達に優しいママは、決して怒ったりしない。
ママはどんな魔物にも負けない、強くてたくましい人間の肉が大好物なんだ。
だからむしろ
ママはもう随分とお腹を空かせている。
早くママの元へ、愚かな人間を与えてあげないと。
***
今日もダンジョンの前で「ママを助けて」って、被害者ヅラして助けを求めていたら二人組の冒険者が現れた。
一人は気弱そうな栗毛の男、もう一人はツンとした顔の赤髪チビ女。
僕が目に涙をたくさん浮かべて乞うたら、男の方はころりと騙されたよ。
だけどチビ女、お前に人の心とかないのか。
僕を一目見ただけで「うさんくさい」とか言い出した。
態度の大きさからチビ女に決定権があるのかと思いきや、男が情に訴えて丸め込んでくれた。
やったね、ママ!
ダンジョン最奥まで保つかわからないけど、とりあえずエサが二匹釣れたよ!
弱そうだけど、今すぐ送り届けるからね!
***
あれ、おかしいな。
弱そうな男女冒険者のはずなのに、前衛の剣士かと思ってた男の方はまさかの治癒術士だった。
そしてちっこい女の方がデカすぎる大剣を使う剣士?
シュヴァハと呼ばれた男は、フェルと呼ばれる女の合図で大剣を出した。
いやいや、そんなデカイのさっきまで持ってなかったじゃん。
何もない空間から光の粒子と共に、シュヴァハが大剣を出したんだ。
このシュヴァハとかいう奴、ただの治癒術士だと思っていたら収納魔法も使えたのか。
それを手にしたフェルという赤髪チビ女。
細腕なのに軽々と大剣片手に振り回して、ダンジョン第一層のボスを務めている兄・バジリスクを、いとも簡単に撃退してしまった
僕が唖然としていると、丁寧にもシュヴァハが説明する。
「そういえばまだ言ってなかったね。僕達二人はギルドでダンジョン失踪事件の依頼を受けた、Bランクの冒険者なんだ」
「Bランク……、確か王国騎士団に匹敵する強さを持つっていう……」
「Bランクってのはギルドが勝手に付けたランクだ。あたし一人の実力ならSランクなんて余裕よ」
「それって、俺がフェルの足を思い切り引っ張ってることにならない?」
二人の漫才が始まる。
それにしてもBランク冒険者……?
ママ、ラッキーだよ!
ダンジョンの一番奥で待っているから、各階層でボスをしてるお兄ちゃんやお姉ちゃんが殺られちゃうってことになるけど。
待ちに待った極上のエサになるかもしれないよ!
これで僕もご褒美がもらえるね!
ママの主従誓約から解放されて、このダンジョンを離れられるご褒美が!
そうとわかれば、この人達を早くママに会わせなくちゃ!
待っててね、ママ!
約束は絶対に守ってよね!
***
やばい、どうしよう。
お兄ちゃんやお姉ちゃんが次々と倒されていっちゃうよ。
いや、わかっててやってるんだけどさ。
でも待って?
逆にこんな強さだと、ママが倒されちゃう……なんてことしないよね?
一応二人をこのダンジョンに誘い入れたのだって、悪い魔物に僕のママがさらわれてダンジョンに入って行っちゃったからって理由だったのに。
本当のママがこいつらに倒されちゃったら、僕の立場も危うくね?
だって人間の母親なんて捕まってもいないし、全部嘘なんだもん。
それにこの無能そうなシュヴァハという男、どうやら治癒術士ではなく賢者らしい。
ずっと観察してたけど、探知能力にも優れてるっぽい。ズルくない?
そしたら本物のママが倒されて、僕だけ逃げ出そうとしても探知能力ですぐに見つかるって寸法じゃない?
あれ? これってもしかして、僕の逃げ場なしなのでは?
いやいや、まだそうと決まったわけじゃない。
こいつらがただほんの少し、今まで誘い込んだどの
シュヴァハは治癒術が使えて、収納魔法でありとあらゆる武器や水や食料を出して、探知能力が出来て、ダンジョン特有の『迷いの呪い効果』を打ち消す『迷わずの印』が使えるだけ。
フェルに至ってはありとあらゆる武器を巧みに使いこなして、どんなに重たい武器を手にしても俊敏な動きがキープ出来て、魔物の僕ですらドン引きする魔物喰いをしてるだけじゃん。
ちょっと待て、なんで魔物を食べることに抵抗がないんだこの女。
肉になればみんな一緒、じゃねぇんだわ。
さすがにマトモそうなシュヴァハは、僕と同じように若干引いてはいるけど。
僕の
もしかして僕、誘い込む人間……ミスった?
***
「ここって、このダンジョンの最奥……だよな?」
「階段降りたら目の前に大きな扉がひとつ。他に通路も何もない。間違いないわね」
「あばばばば」
ママのいる最奥の一個前に陣取ってる最強のお兄ちゃんまで、こんなあっさりと?
今まで自分達のことを強いと言い張る冒険者は数多くいたけど、最後には最強のお兄ちゃんでみんな殺られてたのに。
また一撃? ふざけんなよ?
お兄ちゃんはこの辺りで一番強い火炎竜なんだぞ?
凶暴で、獰猛で、ママの言うことだってあんまり聞かない暴れん坊だってのに。
「さっきのドラゴン、香ばしかったわね。美味美味!」
しかもこの女の胃袋に収まってしまったああああ!
つーかどうなってんの、この女の胃袋!
明らかに食べた量と胃袋の大きさが一致しないよ!
食べた肉どこに消えた!?
「ーー聞いてるか?」
「えっ!? はい、なんでしょう!?」
ダメだ、動揺し過ぎて……。
二人が不審な眼差しで僕のことを見てる……。
これ終わったわ。
「あの、ご……ごめ」
『ガアアアアア!!』
マ、ママが怒ってる……?
子供達に
いや、違う。
ママはこいつらに怒ってるんだ。
自分の大切な子供達を殺されたから……?
「よし、行くか」
「えっ?」
「どうした、この奥に君のお母さんがいるんだろう?」
まだ言ってるのか、この男ーー!
もうここまで来たら普通気付くだろ!
僕の言ってることが全部嘘ってこと位! とっくに!
「
「そう、狡猾で残忍。古竜なだけあって、知能の高さは人間以上。言葉巧みに相手を騙し、力で服従させる」
「しかも服従させられている本人は、服従させられていることに気付いてもいない、だっけ」
な、何を……?
何のことを言ってるんだ、この人達は?
「クソガキ、お前の母親と対面してやろうじゃないか」
フェルが言う。
いつものツンとした生意気な表情じゃない。
勝利を確信したような、自信に満ち溢れた笑顔だ。
「大丈夫、俺達が必ず君を助けてあげるから」
「え? 何を言って……」
聞き終わる前にフェルが、ママのいる最奥のドアを蹴り飛ばした。本当になんだこいつ……っ!
だけどそんな不遜女にツッコミなんてしてられない。
ーーママだ。
『お前達だね、私の可愛い駒達を全滅させたのは……』
くすんだ紫色の鱗、琥珀色のギョロリとした眼光、長く伸びたタテガミはまるで長髪の女性を思わせる。
ダンジョンの最奥の部屋は、まるでママの為に造られたような構造だ。
ママの巨体であっても、まだこの部屋は広く感じる。
炎のブレスを吐いてもこの部屋が燃えて崩れることはない。
ただいくつかある通気口の数では、ママの吐いた炎によってすぐに酸素が失われる。
僕は知らないが、何度か人間の猛者がここまで辿り着いたことがあるみたいだけど……。
皆、ママの鋭い爪に殺られるか。
長くて太い尻尾で潰されるか。
炎のブレスで焼かれるか。
部屋が酸欠状態になって窒息死するかの、どれかだ。
『どれくらいぶりかね、強い人間をいただけるのは』
「気が早いね。お前を喰うのはこのあたしだよ」
何を言ってるんだ、この女は!?
見ればいつの間にかフェルの手には、シュヴァハが出したであろうどデカい斧を片手に持って戦う気満々だ。
「フェル、素材として売れる物はちゃんと残してくれよな?」
「わぁってるよ、うっせーな」
何なんだ!?
こいつら、ママのことが怖くないのか!?
『……クレヴァ』
「はいっ!!」
ママが僕を見る。
冷たい眼差しで心臓が止まりそうだ。
『随分と傲慢な人間を連れてきたもんだね』
「す、すみません……。ここしばらく、この辺りに人間が近寄らなくて……」
「当たり前だろ、ギルドの方ですっかり警戒されてるかんな」
「え?」
ギルドで警戒……?
僕が人間を招き入れてエサにしていたことが、バレていたってこと?
フェルが続けた。
「失踪者が多すぎなんだよ、ここは」
そんなこと言われても!
だってここはダンジョンだぞ?
命知らずの冒険者がのこのこやって来て、勝手にくたばるような場所だろ!
「全員が冒険者だったら、ここまで騒ぎは広がらなかった。だけど山菜採りの老人や、旅芸人。ダンジョンに特に興味を示さない人間まで行方不明になったら、そりゃ怪しむだろう?」
……くっ! しくった……。
早く
力が抜けて、膝から崩れ落ちてしまう。
「だから……、ママを……。僕を始末しに来た……。そういうこと?」
『馬鹿な子だよ。ただの人間じゃ喰っても力がつかないって、あれほど言い聞かせたのにね』
「……ごめんなさい、ママ」
失敗したら死……。
ママを怒らせたら死……。
「おいおい、こいつの母親やるんならちゃんとやれや」
フェル……。
ママにそんな口利いたらダメだよ、……殺されちゃう。
「ま、即興でこさえた手駒相手にそんな感情あるわきゃねぇか」
「……は?」
『ふん、人間のクセに随分と頭が回るね』
もしかして、さっき……の……?
あの時の話のこと、言ってるの?
「古竜グラハム、お前は数多の人間や魔物に対して誓約を強制した。言葉巧みに騙し、誓約と同時に記憶のすり替え。クレヴァみたいな子供を利用したのは、これで何人目だ」
『……名が知れ渡ると、こういうことになる。だから私はここに引きこもってたのに……』
「え、ママ……?」
にやりと、タテガミの隙間から見える顔が醜く歪んだ笑いを浮かべた。
ドラゴンにも表情はあるんだ……。
とても残酷で、残忍で、冷酷な……侮蔑が含まれた笑みだった。
『自分のことを魔物だと思い込んでたろう?』
「違う……の……?」
『お前はその昔、この最奥にやって来た冒険者夫婦の子供だよ。よほど強さに自信があったんだろうね』
くつくつと笑いながら、ママが物語った……。
『一人前の冒険者にしたくて、なりたくて。ここまで連れてきたって言ってたねぇ。お前の両親は、ここまで来る程度には美味だったよ』
「じゃあ……、え……? ママは……僕のママじゃ、ない……?」
『誓約で記憶を改ざんし、美味い肉を運ぶ役割を与えた。まぁここまで辿り着く程の
そんな……、それじゃあ僕は……?
同じ種族の人間を騙して、魔物の食糧にしてしまった……?
「おえぇっ!」
不快感で胸がいっぱいになったせいか、僕は吐き気を我慢出来なくて思い切り吐いた。
そういえば、ここ数日……僕は何を食べてきた……?
自分のことを魔物だと思い込んで、そこらの葉っぱとか……。虫とか……?
そうだ、ここまでの道中にシュヴァハが食べ物をくれた。
もったいない、僕……それ全部吐き出しちゃったのか……。
僕はこの人達をエサにしようとしてたのに、この人達は僕にエサをくれた……。
「ごめんなさい……、ごめんなさい……、ごめんなさいっ!」
「チッ」
フェルの舌打ちが聞こえた。
いや、違う?
今のは……、まさかあの……大人しそうなシュヴァハが……?
「本当に胸くそ悪いな。こんな少年に罪を着せるなんて……」
「シュヴァハ」
「わかってる、フェル……。これは誓約だ」
シュヴァハが何か呪文のようなものを口ずさんで、それをフェルが受け止めてるような……。
大きな斧を持った細腕が、少し筋肉質な腕になったように見えた……。
「誓約により、眼前の敵を打ち倒すまでの間だ! 暴食の大悪魔フェレライ、お前の封印を解き放つ!」
「十分だよ、大賢者シュヴァハ。本性のままだと腹が減り続けるからなぁ!」
『大悪魔……っ!? 伝説となった大罪の大悪魔の一人が、こんな小娘だと!?』
ちっこいと思ってたフェルが、頭に大きな二本のツノを生やして……。大人の女性の身体つきになっていく……。
まるで悪魔……、いや……本物の悪魔……!?
「さぁて、お前の肉は美味いかなぁ!?」
『全身を焼き尽くしてくれるわぁ!』
ダメだ……っ!
ママがこんな密室で炎を吐いたら……っ!
「大丈夫だって言ったろ」
「シュヴァハ!?」
いつの間にかシュヴァハが僕を抱えて、何か呪文を呟く。
小声だから全然聞き取れなかったけど、うっすらと……僕達の周囲にだけ薄い膜のようなものが張られたように見える。
まさかこれが噂に聞く結界とか、そういう魔法なのか?
「長くは保たないけど、フェルがグラハムを食べてる間なら十分保つよ」
「そんな……、ママはすっごく強いんだ! フェルが強いと言っても、何時間だってかかるかも」
「かかるかよぉ!」
えっ!?
フェルの声に、僕は多分間抜けな顔になってたと思う。
見るとあちこち黒焦げになって煙がちろちろ出てるけど、フェルはほとんどダメージを負ってない状態で笑って立ってた。
そしてママは……。
見てなかったからわからないけど、多分フェルの斧でママの首が斬られて……床に転がっていた。
どの階層のボスも一撃に伏してきたけど、まさかママまで……だなんて……。
「さってっとー! 古竜の肉は熟成されてたりすんのかなー?」
「フェル、生きたままの肉が熟成されるわけないだろう」
「うっせーな! んなことより、いただきま〜す!」
「……うっ」
フェルがママの生肉にかじりついたところで、僕はたまらず目を背けた。
それを察してくれたシュヴァハも一緒になって、フェルの食事風景に背を向ける。
「ごめんな、フェルはあの通り生でも平気な体質で」
「あ、いや……それはどうでもいいですけど。あの……さっきの……、えっと……何から聞けばいいのか……」
フェルが食事をしてる間、シュヴァハが説明してくれた。
この世界には、世界を破滅させるに十分な力を持つ大悪魔がいること。
それらは七体の大悪魔と称され、人間の七つの大罪になぞらえられているらしい。
フェルはその内の、暴食の大悪魔フェレライだという。
世界の滅亡の危機を回避させる為に、創造主を信仰する教会が遣わした七人の大賢者。
彼等に大悪魔の封印をさせ、未来永劫復活しないよう大悪魔の管理も任されたという。
「その大賢者の一人がシュヴァハで……?」
「世界を滅亡させるかもしれない大悪魔の一人がフェルってわけ」
大悪魔を封印しても、またいつ封印が解かれ暴れだすかわからない。
大賢者も不死じゃないから、いつかはその綻びがやって来る。
その救済措置として、大賢者は大悪魔と誓約を交わした。
人の為にその力を使うこと。
正しい行為にのみ、一時的に封印を解く。
それを積み重ねれば、大悪魔は人間へと昇華する。
誓約は絶対的なものらしい。
難しいことは結局僕にもわからなかったけど……。
つまりフェルが人間を救う為に、悪い奴を倒すという理由で力を使い続ければ。
いつかは人間へと生まれ変わって、自由を手に入れる。
「フェレライでいる間は、ずっと空腹らしいんだ。それが嫌で人間へと昇華することを、フェルも了承している」
「要するに、人助けの旅をしてる……ってこと?」
「まぁ、そういうことだね」
「魔物とか平気で食べてるのも……」
「まぁ暴食の名残だろうね」
二人の旅の理由がわかったところで、フェルが戻ってきた。
すっかり元のちっこい姿に戻ってる。
奥にはシュヴァハとの約束通り、素材となるツノや牙、鱗なんかはそのままに……。
あとは骨だけになった、ママの成れの果て……。
「はぁ〜、結構美味かったぁ!」
人間の女の子としての淑やかさがないのは、元々が大悪魔だから……とも言い難いけど。
「ごちそぉさまでした!」
「そんじゃ、行くか」
シュヴァハの言葉に、僕は大急ぎでママの素材をかき集めていく。
あぁ、でも……くそっ!
ママの素材を入れる袋がない!
僕が途方に暮れていると、頭に布が落ちてきてそのまま被さる。
「集めてくれてありがとう、クレヴァ」
「……お願い、します」
「ん?」
「荷物持ちでも何でもしますから、僕を……っ! 僕も連れてってください!」
ママに……、いや……。
僕の本当の両親は、この魔物に食い殺された……。
階層にいた魔物達も、僕の
僕にはもう、家族がいない……っ!
どこにも行く場所がない。
違う……。
僕はこの人達に、自分の罪を断じて欲しいんだ。
何人もの罪のない人達を、魔物のエサにしてきた……大罪人である僕は……。
罪を償わせて欲しい……。
「荷物ならシュヴァハの収納魔法があるし」
「……っ!!」
「それに俺達は危険な旅をしてるしなぁ……」
僕は床に額を押し付けて土下座した。
ここで捨てられたら、僕は……っ!
「あなた達を騙してすみませんでした!」
「いや、でもそれはグラハムの誓約のせいで」
「それでも! 僕は僕の意思であなた達のことを蔑んだり、魔物のエサにしようとしたりしてました!」
「蔑んでたのかよ、こいつ」
言っちゃマズかったか!?
いや、包み隠しちゃダメだ!
それじゃ僕の誠実さが伝わらない!
「弱そうで無能そうだなんて思ってごめんなさい! 粗野で乱暴でチビのくせに態度だけデカイって思ってごめんなさい!」
心を入れ替えるんだ!
「もう悪いことを考えたりしません! 一緒に旅をして死んでも構わないから、僕をここに……置き去りにしないでくださいっ!」
今度は嘘泣きなんかじゃない。
ちゃんと心の底から反省して流した涙だ。
こうしてちゃんと向き合えば、正義の味方であるこの人達だって……!
「へぇ、俺達のことずっとそんな風に思ってたわけだ?」
「喰っても不味そうだな、こいつは」
「ひっ!」
死を意識した。
だって、正義の味方……でしょ?
困ってる人を助ける旅をしてたんじゃ、なかったの?
僕が今度は腰を抜かして震えていると、シュヴァハが大きなため息をついて頭をかく。
「ま、こんな所で置き去りにはしないけど。旅の道連れはナシだ。君のことはギルドに預ける」
「そんな! だって僕はこんなにもたくさんの人を不幸に……っ!」
「だから、それはグラハムの誓約のせいだから。ギルドで俺が説明すれば、誰も文句は言わないさ」
「シュヴァハ……さん……」
元のシュヴァハさんの笑顔だ……。
フェルはその後ろでめっちゃ睨んでくるけど……。
「感謝しろよ、クソガキ」
「……はい」
「それじゃ今度こそ、ダンジョンを出ますか」
シュヴァハがダンジョンを脱出する魔法で、すぐに出入り口まで戻ることが出来た。
この人は本当になんでもありなんだな、と実感する。
ダンジョン入口前、僕はここで……何人も……。
そう考えてるとフェルが僕の頭をくしゃりと撫で回した。
「美味い肉だったぞ、クソガキ」
「……あ、はい。どうも……」
まさか古竜グラハムに人間というエサを運んだつもりが、それ以上のとんでもない大悪魔にエサとして与えることになるなんて……。
皮肉もいいとこだよ、全く……。
ダンジョン最奥のボスママに人間(エサ)を届ける僕、今回ばかりは人選を間違えたのかもしれない 遠堂 沙弥 @zanaha
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