ゴジラ-1.0の感想

中埜長治

視聴前には絶対読まないこと

結論について憶測100%なのは認めます

うるせえな俺には事実なんだよ


「戦後0になった日本がマイナスになる」


映画「ゴジラ-1.0」(以下負ゴジ)のキャッチコピーですよ。

僕自身、かなり鼻白んでてSNSでも

「テメエらで始めた戦争で負けて0になったとか被害者意識マシマシで気色悪い」

「戦争起こした無責任体制の時点でマイナスだボケ」

という罵倒もたびたび観測しました。

鑑賞して満足した現在も、あのキャッチコピーにはそういう目を向けてます。


ただ、なんで負の数が「1.0」なのかは不思議だったんですね。

1949年あたりが舞台だ、初代ゴジラの5年前だとか言ってるんでじゃあ「5」なんじゃないかとか。70周年の1年前とかいうシワい話も。0の状態でゴジラに蹂躙されるのが1で済むのも奇妙なわけです。


なので、-1.0が本当はなんの数字なのかにも注意して鑑賞したんです。


初代ゴジラの全身が真っ黒なのは水爆に焼かれたケロイドだという話があって、負ゴジもこれを踏襲して水爆実験で焼かれています。


この負ゴジ、大変に脆い。

初戦は対人火器で傷ついてる描写があります。

主人公たちの工夫で機雷を咥えたところを機関銃で狙撃され、爆発で口が大きくえぐれてしまうほどです。しかし、5秒くらいで再生します。


VSメカゴジラでは破壊された第二の脳がラドンの念力で修復された芸当が逆転の決め手だったくらい、歴代ゴジラというのは頑丈さが売りな分だけ再生能力は低い傾向があり、こんな風に再生能力にポイントを振ってるのはシンゴジラとゴジラウルティマくらいです。そこら辺、令和のトレンドかもしれません。昭和のゴジラはガメラ化したが、令和のゴジラはヘドラ化するんですね。最悪です。


再生能力とトレードオフに脆い。


脆いから砲撃とか受けると結構傷つくんで、そんな手傷を負わせられたらそら怒るわという具合に、負ゴジはとにかく喧嘩っぱやくどんなに小さな攻撃でも激昂しガンガン人を追いかけ回して殺しまくります。キリンがライオンを蹴り殺すように、食うためではなく自分の安全のために、草食獣や縄張り魚の惨忍さでぶち殺しまくります。


GMKの白目ゴジラの殺意をすすめた感じです。護国聖獣いないのに。ワクワクしますね。


人類サイド、日本政府はもう戦力放棄したからと匙を投げ、GHQはソ連刺激したくないからと匙を投げます。生々しい糞ですね。もっとも、アメリカは前段階で負ゴジにデカい軍艦をバカスカ沈められてるので臆病風が吹いてるのはあるでしょう。日本政府も、負ゴジの最初の上陸で国会議事堂前に並べた旧軍戦車隊列もろとも熱線をくらって議員も閣僚も大部分が蒸発した可能性があります。内閣総辞職ビームより状況が悪いので、実のところ匙を投げることすらできてないのかもしれません。


復員兵たちで立ち上げた民間の対策会議で旧軍の武装解除された艦艇に特殊装備積んでゴジラを抹殺しようとします。折角生き残ったのに死にたくないヤダと帰っちゃう人もいます。「死ねとは言われてないだけ戦中よりマシだ」と奮起してなんとか作戦が始まります。かわいいですね。


そして色んな機転を効かせてゴジラを爆殺することに成功しちゃうんですね。


は?成功しちゃうの?あの驚異的な再生能力は?えー。東京がゼロになっただけだよ。アホくさ。なんちゃって-1.0かよ。帰ったらSNSでゴジ泣き呼ばわりの刑だ。やりすぎか。


いや当人たちは決死の思いだとしてもさあ。こんな作戦でゴジラ抹殺できるなら、芹沢大助博士の献身は全くの無駄じゃないか。可哀想に。同じ理由でGMKのラスト、ゴジラがあの程度で爆死する展開はだいぶ不愉快です。


全くの肩透かしです。まあここまでの描写が凄かったのでお腹いっぱいですから、ケーキに乗っかったサンタの飾りがマジパンではなく蝋燭だったとしても我慢しようじゃありませんか。楽しみだったのに。


そういえばタイトルコールいつやるんだ。


色々終わって感動のフィナーレです。ねえ。擬似家族が本当の家族に。彼の戦争もようやく終わりました。ジョン・ランボーも羨ましがってることでしょう。まあ、散々ひでえ目にあったんだからこれで良いんじゃないですかね。


深海に場面転換。


ゴジラの爆殺死体が急速再生するシーン。


タイトルコール、ゴジラ-1.0


ボケーっと見てたら「ああGMKの再演ね」で終わるんですが、人類側、手札全部使い切って秘蔵の兵器もぶち壊した上に戦後すぐで全然復興が進んでいません。


ゴジラ映画歴代シリーズのほとんどが高度経済成長期以降を舞台に製作されており「実はゴジラは生きてました」されてももう一度迎撃する体力のある日本ばかりです。


しかし負ゴジの日本は、ただでさえ復興が進んでないところにゴジラが現れて労働力を殺され生産手段を破壊され、GHQも日本政府も逃げ出しました。しかも負ゴジは「再生能力に全振りしてて縄張り意識が強くシリーズの中でも飛び抜けて殺人意欲の強いゴジラ」です。今度こそ、敵のやり方を心得た負ゴジに人類の側が抹殺されてしまうでしょう。ここが俺の領土だ。ここをキャンプ地とする。


しかも芹沢大助がOxD(オキシジェンデストロイヤー)を持ってこないどころか姿を見せないあたり、恐らく彼はこの歴史では戦死したのでしょう。負ゴジの脅威的な再生能力もOxDくらいしか葬りさる手段がありません。いないからわかる、芹沢大助の偉大さ。


ああ、キャッチコピーは嘘をついてなくて確かに日本が終わるんだが、マイナスワンの意味が違う。0点の破滅の前の戦いだから-1回目なんだねと。酷いねえ。神木隆之介の渾身の顔芸と絶叫で頑張ってきた主人公を、人間として再生させて感動的なラストに持ってきたのはこの後それが全部ぶち壊されましたに持っていくためなのかよ。下衆だねえ。サディストだねえ。事実上の妻もなんか首筋に変なアザがあるし。


また彼は「僕が生きても良いんだって夢なんか見たからこうなったんだ」って泣いちゃうよ。まあ熱線の光を至近距離で浴びてるんで彼もダメでしょう。


シンゴジラの、後に巨神兵による火の七日間が起きたんではないかと予感させるオブジェ以来のゾッとした話でした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ゴジラ-1.0の感想 中埜長治 @borisbadenov85

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る