【短編】追放された冒険者が最速でエンディングに到達する話
夏目くちびる
第1話
「ユーザ、お前は追放だ」
「なんで?」
「戦闘で使えないから。結局荷物持ちにしかなってないし、強化魔術はポーションで賄えるし」
「マジすか」
「いや、みんなで決めたことだから。聞き分けてくれ」
「からの〜?」
「それやめろ」
そんなワケで、俺は所属していた冒険者パーティを追放されてしまった。結構居心地のいい場所だったのだが、パーティの采配はリーダーに委ねられている以上言うことは聞かねばなるまい。
また一人ぼっちのダンジョン探索に逆戻りだ。
俺はモンスターひしめくだだっ広い迷宮の中をコツコツと歩き回り、それっぽいアイテムを集め襲い来る敵を倒し、最終的にはボスと呼ばれるダンジョンの主を討伐した。
「おねーさん。これ、依頼されてたクエストの素材ね」
「ユーザさん! こんなたくさんのエリク草見たこと無いですよ! どこで採ってきたんですか!?」
「クェスダンジョンの中層にオアシスあるじゃないですか、あそこに群生してましたよ。下手したらポーション業界に革命起きるからデフレ警戒で一部の偉い人にだけ明かすのがいいんじゃないですかね」
相変わらず、このおねーさんは良いリアクションを見せてくれて楽しい。多分、付き合ったら楽しいタイプだと思う。
「じゃあもう一個聞きますけど! なんでスーパーレアアイテムの不死鱗があるんですか!? これはどこそこにしか存在しないドラゴンがうんぬんかんぬん!! だからクェスダンジョンで取れるなんてありえません!」
しかしながら、いつもいつも本当に情報通な人だ。冒険者ギルドの受付って、こんなに色々知ってなきゃ務まらないのだろうか。
「なら、もう一回ダンジョン内にシンクタンクを派遣して調査したらいいんじゃないですか? 俺らの知識や常識が通用しないのがダンジョンなんですから、ある日突然内部の構造が変わっててもおかしくないっすよ。初心者が危ないっす」
「たしかに! いやぁ! ユーザさんの助言はいつも助かるなぁ!? 感謝!」
「いえいえ」
そんなワケで意味もなく町を離れ公道を歩いていると馬車が盗賊に襲われていた。かなり気品のある馬車だが、どうやら乗客に近衛兵的な手練れは乗っていないらしい。偉い人のよほど緊急の外出か、或いは。
「こらこら、やめなさいよキミたち」
「何だテメー!」
「ユーザ、王都で冒険者をやってる者だよ」
「げぇ!? お前があのユーザかよ! 俺たちついてねぇ!」
殴りかかってきたので殴り返すと、盗賊たちはみんな逃げていった。犯罪者として捕まえたほうがいいんだろうけど、今は中にいる貴族の方が心配だ。
「ありがとうございます、ユーザさん」
「あ、お姫様ではないですか。お久しぶりでございます」
彼女は、この国のお姫様だ。以前、警護クエストを任された際に何度か喋ってくれた取っ付き易い性格の人。俺とは生きる世界が違うだろうに、人格者ってやっぱスゲェ。
「あなたがいてくれて助かりました、感謝を」
「えぇ、お気になさらないでください。ところで、お付きの方の姿が見えませんね?」
「そこに死体が転がってるハズです。裏切り者だったので、私が馬車から突き落として殺しました。それから盗賊がやってきたのです」
「それは災難で。しかし、なぜこんな身軽に外出を?」
「追放されたのです、王城に私の居場所はありません」
「それはそれは、なんと言ったらいいか」
というワケで、俺は彼女の壮大な話を聞いた。
掻い摘んで説明すれば、兄弟間の権力争いに負けたとか、改革しようとしたら悪役扱いされたとか、それで嫁ぐ役目を背負い隣国の王子様と会ったらムカつくから婚約破棄したとか。
かなりボリュームのある、しかし終わった話をしてくれた。
「それは大変でしたね」
「うん」
「よく頑張りましたね」
「えへへ」
いつの間にか辺りは暗くなっている。俺は、馬車の一部を燃やして火を炊き野営することにした。
「私、ユーザがいてくれて助かったわ」
「いえいえ」
「もう姫じゃないから敬語はいらないよ」
「そういうワケにもいかないでしょう」
気まずかった。こんなお淑やかな感じで実はチャキチャキのお姫様となにを話せば良いのか分からなかったからだ。
「あら、あれは」
不意に呟いた方向を見るとどこかの冒険者パーティがオークの群れに襲われていた。顔をよく見るに、今朝まで俺がいたパーティみたいだ。
「ひえぇ!」
「なんで攻撃が通用しないんだ!?」
「おい! 新入り! なんとかしろよ!」
「無理っす!」
ヤバそうだったから、そこへすかさず。
「オラァ!」
突っ込んでいって敵のオーク連中をボッコボコにやっつけた。すると、リーダーは傷だらけの泣きそうな顔でこういった。
「戻ってきてくれ!」
「もう遅いっす、お姫様守らなきゃならないんで」
というワケで、俺はポイポイっと回復魔術を使って彼らを回復するとお姫様の元へ戻った。
「お知り合いだったんですか?」
「いいえ、ただの通りすがりでした」
夜が明けて、俺たちは途中のチヨンダンジョンである程度の素材を集めてから隣町の商会へ素材を持ち込んだ。
「これを買い取ってくれる店を教えてほしいんですけど」
「これは! チヨンダンジョンでは絶対に手に入らない素材!」
その下りはもうやったので、俺は適当に聞き流すと素材を教えてもらった店に持ち込んだ。姫様は、ローブを被って後ろについている。
「これはダメ、これもダメ。はい、この金額ね」
「やっす、これじゃ国境を超えるまでに資金が尽きちゃうよ。おじさん、もう少しイロつけてくれない?」
「バカ言うな、こっちも不景気なんだ」
「なんで?」
どうやら、近くのダンジョンからモンスターが溢れ出して貿易に関わるエトセトラを荒らし尽くしてしまったらしい。その事件を、スタンピードと呼ぶようだ。
「なら、その問題が無くなったら馬車とたっぷりの食材を奢ってよ」
「はは、お前みたいな小僧に――」
魔術ドーン!剣術ズバズバ!血飛沫ブシャーっ!
「さすがユーザさん! さすがユーザさん! かっこいい! パネェ!」
「戦う姿が美しいうんぬん、あの才能を認められなかった人たちはうんぬん」
「やめてくれ、恥ずかしいから」
そして凱旋。なんだか、信じられない規模のパレードが開催された。その予算をインフラ再建の資金に当てたらよかったんじゃないですかね。
「的な感じで、解決しましたよ」
「マジかよ、スゲェじゃん」
などという出来事を経て、俺はお姫様と一緒に国境へ向かった。長い旅の間に色んな話をしたけれど、結局俺はタメ口は使えないままだった。
「ところで、ユーザはなんで私についてきてくれたの?」
「だって、俺以外に頼れる人いなかったじゃないですか。あそこで会ったのが、きっと俺たちの運命だったんですよ」
「はい、かっこいい。すき」
「それに、俺もやること無くて暇だったんで。どうしますか、どこかの村でスローライフでもしますか」
「するする!」
そんなワケで、俺たちは隣国の更に向こう側の国の小さな村で亜人やらモンスターやらがいる村にたどり着き、スライムとドラゴンといっかくウサギとフェンリルを飼いならした。
「わんわん」
「悪いスライムうんぬん」
「ガオガオ」
「うさぎです、よろしく」
更に、この世界のどこかにいた魔王をやっつけて、あとは元いた国が戦争になったから巻き込まれて第三勢力として戦って、実は魔王が悪い奴じゃなかった説が浮上したから生き返らせてみたり。
そんな感じで、世界最強の俺は自分の役目を無事にまっとうしたのであった。
【短編】追放された冒険者が最速でエンディングに到達する話 夏目くちびる @kuchiviru
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