Speaking Murder

大西志乃

第1話 ×してるがなくなった世界

 あなたは言葉を大切に毎日を生きていますか?暖かい言葉を伝えたい人にちゃんと届けられていますか?冷たい言葉で闇雲やみくもに人を傷つけていませんか?ある日突然言葉が失われた時あなたはどう生きますか?


 なくなった。物が?いいや違う。人が?それも違う。無くなったのは・・・「」だ。何を言っているのだ君はと思うだろう。私もそう思う。だって失われた言葉が何なのかのだ。なのに確実かくじつに失ったことだけが何故なぜか分かる。心底しんそこ気持ちが悪い。だからと言って日常にちじょう異常いじょうはきたしていないし、今のところ困ったこともない。けれど時折ときおり泣きそうになる。言いたい言葉、言われたい言葉が存在していたはずなのに分からなくて言葉にまり胸が苦しくなる。

 

 「桔梗ききょうご飯ができたわよおりてらっしゃい」

 「はーい今日の夜ごはんは何?」

 「桔梗の好きなグラタンよ」

 「やったー!×××××」

 ?言葉が出てこない。何だっけ?別にいっか。

 「美味しい!やっぱりママが作るグラタンは格別かくべつだね!」

 「嬉しいこといってくれるじゃないまた作るわ」

 

****


 「おはよう寝ぐせついてるわよ」

 「んーおはよー直してくるー」

 朝食を終えた私はいつものように学校へ向かった。

 「やっほー桔梗今日の宿題ちゃんとしてきたかー?」

 「おはよらんちゃん××××でしょ」

 まただ。本当にどうしたのだろう。

 「えっ何だって?」

 「当然とうぜんでしょって言ったのー」

 「流石さすが今日も見せてください。お願いします」

 「はいはい。終わったら一緒いっしょ提出ていしゅつしといてね」

 「本当に感謝かんしゃ

 「そこは直に×××××でしょ」

 「何言ってるんだ桔梗?」

 「えっと何だろう」

 「あはは。勉強のし過ぎで疲れてるのかー」

 「そうかも」

 

****


 「君、ここのところ少しおかしくないかい?それともおかしくなったのは世の中のほうかな?」

 帰り際、突然とつぜん下駄箱げたばこで声をかけられた。

 「牡丹ぼたんさん。急にどうしたの?哲学てつがくの話なら私全く分からないよ」

 「いやいや哲学てつがくでも雑学ざつがくでもないよただ事実じじつ淡々たんたん段々だんだんと述べているだけさ」

 「それで私の何がおかしいの?」

 試すように聞いてみた。

 「そうだね。日常に違和感いわかんを覚えてないかい?いつもとなんら変わらないはずなのにどこか決定的けっていてき強烈きょうれつ確信かくしんしておかしいと。」

 やはりこの人も気づいているんだ。私がおかしくなったわけじゃないと分かり胸を撫でおろす。撫でおろす胸はないけれど・・・

 「・・・うん。言葉が・・・なくなった気がする。いつも何気なにげなく使っていたはずの言葉がまるで初めからなかったかのようにでてこない。どういうことなの。牡丹さんは何か知っているの?」

 「僕は何も知らないよ。なにも知らない。ただ僕はどんな言葉がなくなってしまったのかを知りたい。君だけがその違和感に気づいているから興味がわいている。それだけさ」

 なんだてっきり何かを知っているのかと。でも今は猫の手もかりたい。

 「私も知りたい。その言葉が消えてしまったせいで心にひびがはいったように痛くなるときがある。言葉を探すのに私と協力してほしい」

 「いいだろう。君一人ではすぐに限界がくるだろうしね。もっとも二人になったところでそれは変わらないが。当然ながらわからずじまいで終わる可能性のが高いから心のひびにはつばでもつけときな」


****


 国語の授業で課題が出された。

 「自分の名前についての由来を次の時間までに親御おやごさんから聞いてくること忘れるなよー」

 名前の由来かなんだかんだ考えたことが無かったな。私は自身の名前を気に入っている。単純に可愛いのが主だが特に好きな理由は花言葉が由来していたと思う。なんだっけ。

 「桔梗さんこんにちは。奇遇きぐうだね。こんなところで出会うなんて。」

 「奇遇ってここ学校だよそれに言葉について調べるのに最も手っ取り早いのはやっぱり図書館でしょ」

 

****


 「分からないこれだけ探しても分からないなんて1日目で挫折ざせつしそうだよ」

 「それ自体が手掛てがかりになっているかもしれないね。もうその言葉が無いことが普遍的ふへんてき不便的ふべんてきではないんだよ」

 「意味が分からないよ」

 「ところで桔梗さん僕らが使っている日本語って何音だっけ?」

 「46でしょ」

 ん?46音?なにかおかしくない

 わらやまはなたさか×

  り みひにちしきい

  るゆむふぬつすくう

  れ めへねてせけえ

 をろよもほのとそこお

 ん

 

 「牡丹さん私はてっきり言葉がなくなっていたと思っていたけれど無くなっていたのはだったんだね。」

 「・・・そうらしいね。」

 「確かに文字がなくなったのだとしたらその文字が入った言葉は必然ひつぜんと消える」

 思い返してみれば複数ふくすうの言葉が使用しようできなかった。その理由はこれか。

 「かなり情報が得られた気がするよ。んーお腹空いた牡丹さん今日の夜ごはんは何?」

 「さーどうだろうね。明日は今日のに加えておこのみだと思うけれど」

 「いいね。私お好み焼き好きだな。」

 「へーでは僕はもう帰るよいい時間だしね」

 「うん。またね」

 その日私はつかれがどっときたのかぐに眠りについた。なぜ私はこの日に原因を突き止め解決しなかったのかを後悔する。次の日の朝、起床してから4時間経過じかんけいかして気づく。私の使用できる言葉否、文字が43になっていたことを。



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