最終話 あとがき
「いつものでいいでしょ?」
「ああ。悪いな」
いつも通り二葉のカフェで、コーヒーを頼む彼方。
あれから10年。
文芸部の部員たちはそれぞれの道に進んでいた。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
二葉は、考え続けた結果、実家のカフェを継ぐことにした。
大変だけど、楽しいしやりがいがあると笑顔で語っていた。
「それで、調子はどうなの?最近、大変そうだったけど」
「まあ、そこそこ。今書いてるやつがちょっとずつ人気になり始めててな。その関係でごたごたしてたんだよ」
「やっぱり作家って大変そうね。三琴ちゃんも忙しいって言ってたし」
「まあ、みこはアニメ化決まったからな。そりゃ忙しいだろ」
「負けてられないね」
「ああ」
彼方と白河は二人揃って作家になっていた。
デビューしたのも、人気になったのも白河の方が先だが、彼方も負けじと人気を集め始め、今では白河に並ぶ人気作家となっていた。
「そう言えば、九道先輩の論文発表聞いた?」
「ああ。何というか、ぶっ飛んでるよな……」
「七深先輩もよく付き合うよね……」
九道と七深は大学院に進学し、人間に不可能なことを可能にできるかという研究を行っていた。
今回発表した論文は、人は飛行できるのかと言う研究についてだった。
「この二人ならいつかとんでもないことを成し遂げそうな気もするけどな」
「あ。それちょっと分かる。あの二人が揃ったら何でもできそうだよね」
「そういえば、四崎はどうしてるんだ?」
「ん?四崎くんなら、普通に働いてるわよ。彼女と結婚するためにお金を稼ぎます!って」
四崎は高校時代に付き合った彼女とずっと交際しており、その子と結婚するために必死に働いていた。
「みんな、それぞれ頑張ってるんだな」
「私たちも大人だしね」
「まあ、皆変わらないけどな」
彼方と二葉は昔の自分たちと、今の自分たちの変わりつつも変わらない姿に笑い合った。
二人が世間話をしていると、勢いよくカフェのドアが開かれる。
「たっだいまー!! って、あれ? 彼方!? 久しぶりー!!」
カフェに帰ってきた祐介は、彼方を見るなり勢いよくダイブしてきた。
それを彼方はどうにか回避する。
「いってええ!! 何で避けるんだよ!?」
「普通避けるだろ!! 大丈夫か?」
「おう! 大丈夫大丈夫!!」
「いや、モデルとして鼻血はセーフなのかと思ってな」
「え? ……あ、本当だ!!!」
「あんたたち本当にうるさいわね……。はい、ティッシュ」
「ありがと、二葉」
「主にうるさいのは祐介だったけどな」
「そうね。帰ってきて早々騒がしいんだから」
祐介はモデルとして大活躍をしていた。
現在は、俳優業もしているとか何とか。
「あ、これお土産。いつも留守にしてごめんな」
「祐介が頑張ってるのは知ってるから気にしない。しっかり帰って来てくれるだけでうれしいよ」
祐介と二葉は、7年間の交際を経て、3年前に結婚していた。
二人のやり取りを彼方はニヤニヤしながら眺めていた。
「ど、どうした、彼方!? そんなにニヤついて!?!?」
「あ、いや。告白されたときあんなに悩んでた祐介が、立派になったなと思って」
「まあ? 俺も大人になったわけだし??」
「プロポーズするのに2年かかったくせに……」
「二葉あああああ!?!?」
「だって、事実じゃん」
二葉と祐介のやり取りを眺めていると、彼方の電話が鳴った。
「ん? 千沙だ。もしもし?」
「もしもし、かな兄!?!? 今どこにいるの!?!?」
「は? 二葉の家のカフェだけど」
「えぇ……。とーおーい―……」
「何かあったのか?」
「何かあったよ! 超一大事!!」
「……まさか、打ち切りか?」
「そんなわけないでしょ!! かな兄、自分の作品の人気知らないでしょ!?!?」
千沙は、彼方と白河の作品を読んでいるうちに、色んな作品に関わる仕事がしたいと思うようになり、現在は新人として、彼方と白河の編集を務めている。
「じゃあ、何なんだ?」
「えー……。電話で言うのもなあ……。ん? あ! みこ姉!! ちょうどよかった!!!」
どうやら白河がちょうど出版社に出向いていたようで、それを見つけた千沙が白河を捕まえて何やらこそこそ言っている。
「お願いします!! 今、みこ姉に伝えたから、みこ姉に聞いて! 詳細は家に帰ってから……って、今日帰り遅くなるからよろしく! じゃあね!!」
用件だけを慌ただしく伝えて、千沙は電話を切った。
「千沙ちゃん何だって?」
「何か超一大事があったらしいんだけど、肝心の詳細はみこに聞いてくれって」
「超一大事って何だろうな??」
「打ち切りかと思ったけど違うみたいだしな」
千沙の言う超一大事が何なのか3人で考えていると、彼方の携帯にまた電話がかかってきた。
相手は白河だった。
「もしもし、みこ?」
「あ、かなくん。お疲れ様」
「お疲れ。えっと、千沙ちゃんから色々預かったんだけど……」
「いつも悪いな。何だって?」
「それなんだけど、今から会えないかな…?私も、電話で伝えるような内容じゃないと思うから」
「よく分からないけど分かった。いつもの場所で待ってて」
「分かった。また後でね」
「うん。また」
それだけ伝えると、電話は切れた。
「しょうがない。ごめん、二人とも。今日はそろそろ帰るよ」
「マジかあ……。もうちょっと話したかったな」
「また来るよ。今度ご飯でも行こう」
「お!? 言ったな!!約束だぞ!!」
「分かったよ」
「それ私も入ってるんでしょうね??」
「当たり前だろ。ごちそうさま。じゃあな」
彼方は会計をして、二人に手を振って店を後にした。
その背中を見送った二人は、変わらない幼馴染の姿に安堵の笑みを浮かべた。
□
いつもの場所。
白河と千沙と彼方の三人しか知らない秘密の場所。
三人は何かあると、ここに来て、ストレス発散をしたり、リラックスしたり、とにかくここで色々なことをした。
彼方がいつもの場所に着くと、白河は湖の側に咲いた花を見て、くつろいでた。
「ごめん。遅くなった」
「大丈夫だよ」
彼方は白河の隣に座って、白河が見ていた花を眺めた。
「それで、千沙の伝言って何だったんだ? 何かすごい直接言いたいのにー!!って言うのは伝わってきたけど」
「私が、千沙ちゃんの立場だったら、これは自分で言いたいと思うよ」
白河はカバンの中から、紙束を取り出して彼方に渡した。
「おめでとう、かなくん。アニメ化決定だって」
「え……」
彼方は何かの冗談だと思った。
しかし、白河の瞳が、本当のことだと告げていた。
彼方が受け取った紙束に書かれていたのは、アニメ化に関する資料だった。
「ほ、本当に……。夢じゃない……!!」
「よかったね、かなくん」
「ああ!!これで……これでやっとみこに追いつけた」
彼方は白河の方が先にデビューして、人気が出て、アニメ化までしたことに焦っていた。
白河に負けない、どんなに離されても追いついて、追い越すと、そう約束したのに、差はどんどん開いていった。
そのことに、少なからず彼方は焦っていた。
でも、白河は彼方のことを信じていると言ってくれた。
ずっと止まらずに待っていると約束してくれた。
だから、彼方は折れずに走り続けることが出来た。
「かなくんなら追いついてくれるって信じてた」
「みこが信じてくれたおかげだよ。みこがいなかったら、きっともう諦めてた。だから、本当にありがとう」
その言葉に、白河は彼方を抱きしめた。
「私だって……かなくんが追いかけてくれるから、絶対に追いついてくれるって知ってるから、走り続けられるんだよ。かなくんがいなかったら、きっと私は独りで先に進むのが怖くて、どこかで折れてた。だから、私の方こそありがとう」
彼方も白河も、自分一人ではここまで来れなかったし、一人じゃないからこれからも走っていけると確信していた。
「なあ、みこ」
「……何?」
「ずっと考えてたことがあるんだ」
「うん」
彼方は、作家になった日から考えていたことを口にした。
「俺は、みことずっと一緒にいたい。でも、俺にはその資格がないんじゃないかって思ったことがあったんだ」
「……」
「だから、みこの作品のアニメ化が決まった時に思ったんだ。もし、いつか俺の作品がアニメ化したら、その時にみこに伝えようって」
「かなくん……?」
彼方は深呼吸して、白河の目を見て、ずっと伝えたかったことを口にした。
「みこ。俺と……結婚してください」
「え……」
「本当はアニメ化が決まったら、リングを用意して伝えようと思ったんだけど……。小説みたいに上手くいかないもんだな」
彼方は頭をかきながら、苦笑いした。
「……かな、くん」
「……みこ?」
白河の瞳からは涙がボロボロと零れていた。
「何で、泣いて……」
「色々、考えちゃって……。かなくんがそこまで考えてくれてたことが、嬉しくて……。でも、アニメ化しなかったら、結婚できてなかったのかなって考えると、何だか悲しくて……」
「アニメ化したらって言うのは俺なりの願掛けというか……。多分、アニメ化できなかったとしても、俺はみこに結婚してくださいって伝えてたと思う。これだけはどうしても俺から伝えたかったんだ」
「かなくん……」
彼方と白河はもう一度抱き合った。
ずっと離れないと誓うように、強く抱き合った。
「みこ。これからもずっと一緒にいてください」
「……私の方こそ。ずっと、ずっっと、一緒にいてください」
彼方と白河は新しい約束を、永遠の約束を交わし、唇と唇を重ねた。
永遠を誓った二人を祝福するかのように、頭上には夜空には星が輝き、月明かりが二人を照らした。
これは色を失った少女と色を取り戻した少年の恋物語。
その物語は、きっとまだ未完成で未題の、永遠に続く恋の物語だ。
おしまい
No Color ぱんどら @Izumi_Iroha
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