第24話 大好きを君に
季節は巡り、九道と七深が卒業し、彼方たちは三年生に進級した。
そして、一年生として、千沙が入学してきた。
この日は、文芸部に二人の部員が入部した。
「……三年の、白河三琴です」
「一年の一宮千沙です!! かな兄がいつもお世話になってます!!」
「まさか二人とも入部してくるなんて……」
片や文芸部で一番の文才の持ち主、片やその三琴の原稿を読み続け、兄の作品を評価することで文芸部一のコメント力の持ち主。
文芸部が喉から手が出るほど欲する人材が二人同時に入部してきたのは嬉しくもあり、これからの発表・講評会は今まで以上に地獄絵図になるだろうなと言う不安があった。
「よかったな、彼方 !妹と彼女に挟まれる気分はどうだ!?」
「……肩身が狭いよ」
早速彼方をいじる祐介に、彼方は心からの声を漏らした。
文芸部部長としても、一宮彼方個人としても非常にやりづらい環境になってしまったなと思った。
でも、きっと今まで以上に楽しくなる。
そんな予感が彼方にはあった。
そして、彼方の予感通り、彼方は千沙と白河に挟まれて大変な目に遭うことになった。
それと同時に、文芸部は今まで以上に盛り上がった。
さらに、季節は巡り、ついに彼方たちは卒業の日を迎えた。
「卒業おめでとうございます!!」
「おめ!」
「千沙―、適当すぎだぞー」
部室には、卒業式を終えた彼方たちが揃っていた。
その中には、九道や七深の姿もあった。
「お前たちももう卒業か。感慨深いな」
「一番長く一緒にいた後輩なんだから、当然でしょ」
「はいはーい! と言うわけで花束でーす!!」
「祐介先輩、二葉先輩、どうぞ!!」
「かな兄とみこ先輩もどぞどぞ!!」
四崎と千沙は用意していた花束を卒業生に手渡した。
それを受け取った祐介と二葉は涙していた。
彼方と白河も嬉しそうに花束を見つめていた。
「さて。しんみりするのはこれぐらいでいいだろう。今日はパーティーだ!騒ぐぞ!!!」
「「「おー!!!!!!」」」
九道の声に祐介と四崎、千沙は大きな声で返事をし、一瞬で準備に取り掛かった。
七深と二葉もため息をつきながら準備を手伝った。
彼方も手伝おうと、千沙に話しかけようとしたところで、白河が部室にいないことに気が付いた。
「あれ……? 三琴は?」
「んー? あれ、本当だ。いないね?」
「トイレでも行ったんじゃない?」
「彼方―! こっち手伝ってくれよ!!!」
「あ、ああ。分かった」
彼方は少しだけ心配な気持ちを抑えて、準備の手伝いを始めた。
しかし、準備が終わるころになっても、白河は戻って来なかった。
「みこ先輩、遅いね……」
「さすがに心配かも」
「俺、ちょっと探してくる。見つけたら連絡する。先に始めててくれ!」
彼方は部室から飛び出していった。
「はあ……。みんな揃わなきゃ始める意味ないでしょ……」
「まあずっと探しに行きたいの丸分かりだったしな」
「とりあえず、お茶でも飲んでゆっくりしますか」
そんなことを言いながら、千沙が全員分の飲み物を入れ始めた。
「そうだな。そういえば、十野と藍染はその後どうなんだ?」
「「ぶっ!!」」
彼方のいなくなった部室では、九道によって新たな火種が投下され、大盛り上がりになった。
彼方は白河がどこに行ったのか、何となく予想がついていた。
彼方は白河と初めて出会った教室にやってきた。
教室のドアを開けて中に入ると、そこにはあの時と同じように、夕日に照らされた白河がそこにはいた。
「やっぱりここにいた」
「……彼方くん? どうしたの?」
「どうしたのじゃないよ。何も言わずにどこかへ行っちゃうんだから心配したよ」
「ごめんなさい……。でも、彼方くんなら見つけてくれるかなって」
「っ!? ……ばか」
彼方は千沙に白河を見つけたと連絡をして、彼女の方に近づいていった。
「外、見て」
白河の隣に立った時、ふと彼女がそう言った。
彼方はその言葉に従って外を見る。
そこには何にも遮られない綺麗な夕焼け空があった。
「……綺麗だな」
彼方はここから、ゆっくりと外の景色を見たことがあまりなかったなと思い返した。
隣に並んだ彼方と白河の距離は、少し手を伸ばせば触れられる距離だった。
どちらが先に動いたのか。
彼方と白河の少し離れた距離はすぐになくなり、肩と肩が触れ合った。
「大学、離れ離れにならなくて、よかった」
「うん。三琴も祐介も、二葉も一緒だからな」
「十野くんは大変そうだったけど」
彼方たち四人は、奇跡的に全員同じ大学に合格した。
これからも騒がしい毎日が続くことが嬉しかったが、ここでの毎日が終わってしまうことは少し悲しかった。
「ねえ、彼方くん」
白河は夕日を見つめながら、あの日彼方が答えられなかった質問をしてくる。
「彼方くんは、これからどうするの?」
彼方は、あの日、自分の将来についてしっかり答えられなかった。
本当はどうなりたいか、何がしたいか。
その答えはあったのに、ただ自信だけがなかった。
でも、今なら自信をもって答えられる。
「俺は……俺は、三琴に負けない作家になりたい。三琴とずっと一緒にいたい」
それが、この一年と少しで彼方が出した答えだった。
ずっと、作家になりたいと思っていた。
対照的に、心のどこかでなれないかもしれないという不安があった。
そんな心の不安は、白河の迷いない答えを聞いた時から消え始めた。
それと同時に、別の不安が心に浮かんだ。
自分の先にいる三琴に置いて行かれることが不安だった。
でも、それを怖がっていては先に進めない。
だから、三琴の隣にいられることも含めて将来の夢になっていった。
「……彼方くんは、ずるいよ。いつもいつも……」
「三琴?」
白河は彼方にそっと抱き着いた。
「私だって、ずっと一緒にいたい……! もう離れたくない……! でも、それと同じだけ、私も彼方くんに負けたくない。私は、今いる場所で止まったりなんてしない。全速力で駆け抜ける。だって、彼方くんなら追いついて、追い越してくれるって信じてるから。だから、彼方くんが、もし、私より先に行っちゃっても止まらないで。絶対に追いつくから。だから……私と、ずっと、一緒にいてください……」
白河は目を閉じて少しだけ背伸びをした。
あと少し。ほんの少し勇気を出せば、唇と唇が触れてしまう距離だった。
彼方はその白河の唇に……。
「もう遅いよ!!! 何やってんの!!! ……って、何やってんの?」
「い、いや! 三琴の眼にゴミが入っちゃってな。今取ってたところだったんだ」
「ふーん。まあ、何でもいいから早くしてよね!!」
唐突に表れた千沙はそれだけ言って、部室に戻っていった。
「……」
「……」
千沙によって、冷静になった二人は、自分たちがあと少しで…と考えて恥ずかしくなり、お互いに目を見れなくなっていた。
「えっと……。もう、戻ろっか」
白河は恥ずかしさから逃げるように、部室に戻ろうとした。
「……みこ!!」
そんな白河の背中を彼方は呼び止めた。
「え?」
そして振り返った白河の唇を奪い去った。
「……」
「あ、えっと、その……今、出来なかったら一生できない気がして……」
「っっっっっっ!!!」
顔を真っ赤にした白河が、彼方の胸をポカポカと叩いてくる。
「ご、ごめんって……!」
「……」
「みこ……?」
「……あんな、強引になんて、ずるい。……もう一回、ちゃんとして」
白河はそう言って、もう一度、目を閉じて、背伸びをした。
そんなずるい抗議に、彼方は抗えるはずもなく、彼方と白河は唇を重ねた。
「大好きだよ、みこ」
「私も……大好きだよ、かなくん」
少しだけ夕日が差し込む教室で、二人は唇を重ねた。
その後、赤くなった顔が戻らず、部室に戻った二人は、質問攻めの嵐に遭うことになった。
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