第23話 変わりゆく少女
「なるほどね~。ほほう。なるほどなるほど」
その日の夜。彼方の予想通り、千沙の質問攻めにあった彼方は、完全にノックダウンしていた。
「いやー! お熱いねえ!!!」
千沙はニヤニヤしながら、彼方の頬をツンツンした。
「本当に根掘り葉掘り聞き出しやがって……」
「ぺらぺら喋る二人が悪いんだよ~」
白河は部屋の隅で縮こまっていた。
「おーい! みこせんぱーい!! もう帰ってきていいよー!!」
その声に振り向いた、白河の顔は真っ赤だった。
「……もう。千沙ちゃんの、ばか……!!」
その表情と仕草に、千沙と彼方は小さくガッツポーズをしてしまった。
そんな二人に白河は非難の視線を向けた。
「……二人とも、きらい」
「わあああ!! ごめんなさいごめんなさい!!」
「三琴があまりに可愛かったものだからつい!! 許してください!!」
「冗談だから……それ以上、褒めないで……。本当に、恥ずかしい……」
白河は顔を覆って、完全に小さくなってしまった。
そんな時間を三人で過ごし、気が付けば日付が変わっていた。
「で、何でこんなことになってるんだ……」
「えっと、千沙ちゃんが変な気を使ったから……かな?」
そろそろ寝ようかという話になった時、千沙は二人でごゆっくりと言い残して自室に戻っていった。
二人きりにされた彼方と白河は、何となく居づらいというか照れくささからか、何も話せずにいた。
沈黙がしばらく続いたころ、先に口を開いたのは白河だった。
「ねえ、彼方くん」
「ん?」
「彼方くんの作品、他にも見ていい?」
「え……。あ、まあいいけど、面白いかどうかは保証しないよ……?」
彼方は苦笑いしながら、これまでに書いてきた作品を取り出し、白河の前に置いた。
手書きの原稿から、印刷された原稿まで、そこには一宮彼方のこれまでの作品が全てあった。
白河は適当に一つ手に取って、読み始めた。
それはお世辞にも上手いとは言えなかったが、彼方らしい面白さと、読者を引き込む力はどれも変わらずに存在した。
「どれも、彼方くんらしいね」
「何か昔の作品読み直すのって恥ずかしいな」
「だね。でも、大事だよ」
「そうだな」
彼方も過去の自分の作品を読み直していた。
読み直すと、自分の未熟さと、今の自分が忘れてしまっているものを再確認させてくれた。
「この頃よりは上手くなってるとは思うけど、まだまだだな」
彼方は苦笑いしながら、自分の作品を次々に読んでいった。
どれだけの時間が経ったのか。
彼方が一息つくと、白河が彼方の方を見ていた。
「彼方くん」
「どうかした?」
「彼方くんは、これから先、どうするの?」
「これからって言うと、将来の話?」
「うん。どうするのかなって」
白河に聞かれて、彼方はすぐに答えられなかった。
こうなりたいという一応の夢はあるが、具体的に考えたことはなかった。
「私は……作家になるよ。色んな人に私の本を届けたい」
白河は真っすぐに彼方の目を見ていった。
その迷いのない決意に、彼方も真剣に自分の夢を考えなければいけないと思った。
「三琴なら絶対なれるよ」
自分の将来は分からない。
でも、白河の夢は絶対に叶う。
そんな自信が彼方にはあった。
その言葉に、白河はいつも通り微笑んだ。
「ありがとう、彼方くん。……もう寝よっか」
白河は、もぞもぞと布団に潜っていった。
その姿を見送って、彼方も電気を消して布団に潜った。
「おやすみ、彼方くん」
「おやすみ、三琴」
暗くなった部屋には月明かりだけが差し込み、二人の寝息だけが部屋には響いた。
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