第9話 文芸部活動報告③
「さて、次は俺の番だな。二葉の世界に呑まれてしまっているようだが、俺の作品でお前たちを熱く滾らせてやろう」
九道は眼鏡をくいっと上げ、原稿を取り出し、全員に渡した。
「俺から話すことは特にない。全てそこに書いてある」
「いや、発表って言ってるんだから、ちゃんと説明しなさいよ」
「む? 確かにそうだな。だが、説明と言っても、ただ熱い戦いを描きたかったとしか言えん」
「あー、はいはい。もう読めばいいんでしょ。読めば」
九道の堂々とした説明に、七深は諦め、作品を読むことにした。
内容は、とにかく熱い、少年漫画のような展開だった。
かつて、空の上で拳を交わした二人の少年は、いつしか地に落ちていた。
二人は再び空の上で戦うという約束を果たすために、自分たちを地に落とした敵を倒していくというものだった。
最後は約束通り空の上で戦い、一人は敗北したことで地に落ち、もう一人は勝利したことで空に残った。
それから、二人は別々の場所で生きていく。
「相変わらず隙のない設定ね。文章は隙だらけだけど」
「仕方ない。後半は眠気と戦いながら書いていたからな。多少の誤字・脱字は許してくれ」
「まあ、それ以外にも言いたいことはたくさんあるけど、それは後にしましょう」
七深がため息をつきながら、九道の作品を読み終える。
「おお! おおお!!! すげえ!!」
「これ続きないんですか!?!?」
「落ち着け二人とも。だが、この怒涛の戦いに、息つく間もない展開の連続は二人の語彙力が無くなるのも分かるな」
「すごいのは分かるけど、やっぱりこういうのは分かんないな」
男性陣と女性陣ではバトルの盛り上がりへの感想は違ったようだ。
しかし、九道の作品に引き込まれたというのは共通の感想だった。
「ふむ。みんなどうやら私の世界に引き込まれてくれたようだな。全員を熱く滾らせるのは失敗だったが、まあ計算通りだな」
九道は全員の反応を見て、満足そうな表情をした。
「じゃあ次に行きましょうか」
「おい。もう少し私の時間があってもいいのではないか?」
「だってもうみんな読み終わってるわよ」
「む? なら仕方ないな。次に行こう」
みんなの反応を見て、少し自分の作品について語りたくなった九道だが、七深によって遮られる。
若干不満そうな九道だったが、そこは大人の対応と言わんばかりに納得し、発表は次に移った。
「あ、じゃあ次は俺の番っすね!」
四崎が元気よく立ち上がり、原稿を取り出した。
その原稿を見て、全員が少し驚いた。
四崎は文芸部の恒例行事に初参加であるにも関わらず、原稿の量が上級生と変わらなかった。
「いやー! やっぱり文章を書くって難しいっすね……。苦戦しました……」
「苦戦してこの量って、一年の時の祐介よりすごいわよ」
「二葉!?」
「確かに。祐介は2,30枚あったかどうかだったからな」
「彼方も!?」
「そう考えたら、十野君はすごく成長しましたね」
「七深さぁん……!!」
過去を掘り起こされた祐介を七深が優しくフォローした。
彼方と二葉はその様子を、顔を見合わせて微笑んだ。
「では、四崎。説明を頼む」
「はい! 今回、僕が書いたのは、織姫と彦星みたいな感じのお話です!!」
「織姫と彦星?」
「そうです!空って言われて思いついたのがそれだったんですよ」
「……って、お前これ本当に織姫と彦星じゃねえか!!」
いち早く読んでいた祐介が突っ込みの声を上げる。
「え? あ、本当だ」
四崎の作品は、現代に織姫と彦星がいたらどうなるのかと言う内容だった
幼い頃に離れ離れになってしまった織姫と彦星は、7月7日にまた会おうという約束をする。
二人は何年も何年も、来る日も来る日も約束が果たされる日を待ち望んでいた。
しかし、二人の前には数々の試練が降りかかってくる。
迫りくる試練を乗り越えて、二人が20歳になった年の7月7日、二人はついに再会し、結婚をするという話だった。
「面白いな」
「そうね。こういう作品を書く人はうちの部員にいなかったから新鮮ね」
「ああ。基本的に物語を書くときは、人物や世界観を一から創り上げる人がほとんどだ。だが、四崎のように既に作られている人物や世界観を使うのも間違いではない」
九道と七深の解説を聞きながら、彼方たちもなるほどと思いながら読み進めていた
「え? つまりどういうことですか?」
しかし、本人は分かっていなかった。
「ふむ。つまり、面白いと言うことだ」
「なるほど!? ありがとうございます!!」
「やっぱり祐介より優秀じゃない?」
「うるせえ!!」
「ほらほら。読み終わったなら次に行きますよ」
「さて、次で最後か。頼むぞ、一宮」
九道は彼方の方を見て声をかける。
その声に、彼方は頷きながら立ち上がり、原稿を取り出す。
彼方は原稿を全員に渡しながら、千沙との会話を思い出していた。
「で、今回のテーマは?」
「ん? “空”らしいけど」
彼方の回答に、千沙がため息をつく。
「あのさ、かな兄。私が聞きたいことがそういうことじゃないって分かってるよね!?」
「やっぱりそっちだよな」
「そっち以外に何があるの? ほら、早く」
「分かったよ。今回のテーマは────」
彼方は深呼吸をして、全員に説明を始めた。
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