2.その腹を向けた沈没船へ

 どこまでも続く夕空の下、少女を抱えた少女は歩く。




 ただひたすら、夕日の沈む方角へ。




 静寂の中、東へと吹く風の音だけが響いていた。




 しばらく歩き、遠くにポツリと町が見えた。




 一希が ほっとしたように息をついたとき。




「…う……うぅん……」



 懐で気を失っていた少女が、ゆっくりと目を開けた。



 それは、純粋な黒色だった。


 何度か瞬きをし、一希と目が合ったと思えば また、眠ってしまった。


 少々身構えていた一希だが、少女の呑気な寝顔を見ると、そっと肩を下ろし、また歩き出した。







―――町は 混乱の渦に包まれていた



 剣を持った数人の男が、人を次々と襲っていたのだ。


 全員 顔を黒いマスクで覆い、常人ではない身のこなしで人々を斬りつけていた。


「またか……」



 通りすがりの男剣士・見渡修みわたししゅうは吐き捨てるように呟いた。


 反乱者―――いや、その呼び方は相応しくない。


 どちらかと言えば ”ただの”無差別殺人。



 過酷な労働、瀬戸際ばっかの戦闘任務、食糧事情が云々で気が違っちゃった奴ら。


 国への報復を目的として~とかでみんな『反乱』なんて呼び方してるけど、実際 「国家転覆」に指が掛かったことなんてない。


 だいたい全員 ある程度殺して、自分らも死ぬ。そんだけ。


 「…………」



 広場で 男らと交戦している町民が次々と斬られて行く。


 みんな町を守るために必死なのだろう。



 そんな中で自分はどうだ。


 他人事のように遠くから見ている。



 ただそれは、怖いからじゃない。


 死にたくないからじゃない。



 気づいたのだ。


 建物の影に隠れ、男らと同じ黒いマスクを付けている少女に。


 あの身長だと10歳にも満たないだろう。



 よく見れば その少女は 震える手に魔杖を構え、マスクの下で もごもごと何か 詠唱しているようにも見える。


「……待てよ…?」



 奴らの目的は、町を巻き込んだ無理心中……。



 だとしたら……。


「 「 待っ…!! 」 」



『破滅魔法・アリア』










―――少女を抱き抱えた一希は、町に辿り着くことができなかった。



 目と鼻の先にあった町は、一瞬の爆発で消え去った。



 そんな様子をポカンとした顔で見つめていた一希だったが、ようやく状況を把握すると、すぐに血相を変えて走り出した。



 




―――辺りは黒い煙に覆われ、何かを見ることも、感じ取ることもできない。


 修は その場に立ち尽くし、震える拳を握りしめていた。



 しばらくは、そんな状態が続いた。

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腐ッタリー少女羅 イズラ @izura

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