第2話

 ガイダンスが終わり、教科書などの物品販売の時間となった。

 新入生たちは慣れない校舎を慌ただしく駆け巡り、これからの学校生活に必要な物を買い揃えていく。


 俺が並んでいる教科書販売所も長蛇の列を作り、なかなか進まずにいた。

 教科書を買い終えた生徒が一人、また一人と立ち去っているので、着実に進んでいってるんだとは思う。

 けれど、体感としては亀が歩くより遅い気がする、それほど停滞した時間が続いていた。

 長蛇から解放され、満足げな表情で去っていく人たちを羨ましいと思いつつ、彼らを睨み付けたところで待ち時間が変わるわけでもないため、俺は適当にスマホをいじりながら暇を潰していく。


「では次の方~」


 ソシャゲのスタミナ消費に没頭していると、販売所のおばさんに前に進むように促される。

 やっと俺の番が回ってきたようだ。

 まだかまだかと前方をちらちらと覗く生徒をよそに、俺は窓口まで進み、購入手続きを済ませていく。

 ――いや、正確には配布手続きというべきか。

 

「入学おめでとう。お名前を教えてもらえる?」

「はい。七星 海斗と言います」

「七星 海斗君ね。えーと」


 おばさんは手元の名簿を確認し、人差し指を動かしながら該当の名前を探していく。

 数秒後、指が止まる。

 俺の名前を見つけると、おばさんは目を輝かしながら語りかけてくる。


「……あら、あなた、優良特待生の子なのね!どうりで知的な顔立ちの生徒さんだと思ったのよ」

「いえいえ、それほどでもないですよ」

 

 優良特待生という言葉に周りの生徒が反応し、前方の集団が少しざわついた。

 羨望の眼差しが少しむず痒かったが、何とか平静を装う。


 そう、何を隠そう、俺は数少ない優良特待生の一人なのである。

 優秀な成績を収めた学生のみが適用される特待生制度。

 特待生に選ばれた生徒は、学費などの免除を受けることが出来るわけだが、その中でも特に優秀な生徒は、優良特待生として、より多くの恩恵を得ることが出来る。


 幸いにも、俺は勉学に秀でていたため、優良特待生に選抜されることが叶った。

 授業料はもちろん、入学金、教材、制服、設備費等あらゆる費用を援助してもらえる、普通の学校じゃ考えられない待遇である。

 家庭の事情で貧乏な俺にとっては、これほど有難い話はなかった。


「はい、どうぞ。これからも勉強、頑張ってね!」

「ありがとうございます。あと、一つお伺いしたいのですが、メイドロイドの手続きはどちらで済ませれば良いでしょうか?」

「メイドロイドのだったら、第1多目的教室で行っているから、ここの廊下を真っすぐ進んで突き当りを右に曲がれば、すぐに見つかると思うわ」

「分かりました。ありがとうございました」


 俺は軽くお辞儀をし、言われたとおり廊下を進んでいく。


 だけど、おばさん。一つ間違ってますよ。

 購入する必要はないんです。

 何と言ったって、俺は優良特待生ですから!

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