第1話

 桜が咲くにはまだ早い春先の3月。


 今日はここ、『私立聖奉高校』の新入生向けオリエンテーションの日。

 入学予定の生徒達が体育館に集められ、ガイダンスを受けている真っ最中である。


 1カ月後に入学式を控えているなら、その時にやればいいじゃん?

 って思いたいところだが、入学の手続きや制服の採寸、教科書の購入など、入学前に準備することは山ほどあるというわけだ。

 

「えーであるからして、わが校のカリキュラムといたしましては……」

 

 教頭の話長いなー。

 なんて、パイプ椅子の上でボーッと聞いている俺、七星ななほし 海斗かいとも4月からこの高校に通う生徒の一人である。


 名門私立高校というだけあって、地元の中学校とは格が違う体育館にテンションを上げたものの。

 やってることと言えば、椅子に座って話を延々と聞き続けるだけの作業。

 中学校でもよくある光景だ。

 

「先生方のお話が退屈極まりないってのは、どこの学校も変わらないものなんだな」


 あまりにも退屈だった俺は、そんな感想を無意識に口にしてしまう。


 ――おっと、暇を持て余しすぎてつい本音を呟いてしまったが、幸いにも周りの生徒には気づかれていないようだ。

 こんなところで変な印象を持たれるのは馬鹿馬鹿しいからな。

 それに、どこの学校も変わらないっとは言ったが、あくまでこういう行事に限っての話だ。

 この学校の異質な教育システムは、全国どこ探したってありはしないのだから。


「皆さんもご存じのとおりだと思いますが、わが校ではメイドロイドの育成を通じ、自身の成長とともに、他者への思いやりの心を育むことを教育の柱としており……」

 

 今まさに、話にもあったとおり。

 何と言っても、この学校の目玉と言えるのが「メイドロイド育成プログラム」だろう。

 国が掲げているプロジェクト、簡単に言えば超高性能AIを搭載した奉仕アンドロイド、通称『メイドロイド』を活用し、より良い社会の発展を目指していくという目標のことであるが、その理念に基づき導入されたのがこの育成プログラムである。

 科学の凄まじい発展により進化し続けたメイドロイドは、人間と見分けが付かないほどの外見や能力、そして”心”を獲得することに成功した。

 自分という意志を持つ彼女たちは、人に寄り添いながら、様々な分野において活躍している。

 近代の人間社会において欠かせない存在、それがメイドロイドなのだ。

 そんなメイドロイドを学生の身分で所有し、育成することが許された唯一の学校、

それがこの私立聖奉高校というわけだ。


「高校生のうちから人材育成という経験を経ることにより、社会におけるリーダーシップ性の向上や育児放棄などの社会問題の低減にも繋がると考えており……」


 プログラムの内容としては単純だ。

 生徒とメイドロイドが一対となり、3年間の学校生活をともに過ごす。

 そんな日々の中、生徒は自身の成績向上に努めると同時に、メイドロイドに様々な経験を積ませ、能力パラメータを伸ばしていくのだ。

 別に自分の成績向上にだけ励めばいいんじゃないかという当然の疑問が浮かぶが、そうもいかないらしい。

 噂に聞くところによると、どうやら生徒とメイドロイド、二人一組で受ける試験もあるそうだ。

 つまり、自分がどれだけ優秀でも、相方に足を引っ張られて撃沈する可能性があるのだ。

 片方の教育を疎かにすると地獄を見る、まさに一蓮托生の間柄ということである。

 まあ、詳しい試験内容は入学後には分かるだろうし、今は深く考えないでおこう。 


「……これで、ガイダンスを終わりにしたいと思います。ご清聴ありがとうございました」


 そうこう考えているうちに、説明会は終わりを迎えたようだ。

 次は皆が待ちに待った物品購入の時間。


 ――よし、パートナー選びといきますか!


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