俺の駄メイドロイドは初めてを知り、やがて恋をする~メイドロイド育成学校に入学したが、相方がポンコツすぎて、俺しかお世話していない件について~

蒼野ソラ

プロローグ

 朝日が昇り、学生や社会人がちらほらと動き出す時刻。


 すでに何人かの学生たちが学び舎に向かい始めているいうのに、俺は未だにカーテンを締め切った薄暗い部屋の中にいた。

 別に寝坊をしているわけでも、不登校というわけでもない。


 今の状況を一言でいうと――俺は全裸の少女と向かい合っていた。

 

「……それじゃ、足を上げてもらえるか」

「かしこまりました、マスター」


 俺の指示に対して、表情一つ変えることなく素直に従っていく少女。

 透き通るような銀髪をなびかせながらベッドに腰掛けた彼女は、俺の目の前で惜しげもなく足を持ち上げる。


「っ……!」


 その煽情的な姿に、俺は思わず息をむ。

 目の前に広がる光景は、健全な男子高校生にはあまりに刺激が強すぎるものだった。


 ほんのりと桜色を帯びた柔肌、触れるのも恐れ多い華奢な手足、呼吸のたびに揺れる柔らかそうな胸。

 視界のすべてが男の本能を刺激する要因しかない状況に、俺は彼女の方を直視出来ず、思わず目を背けてしまう。


 ――いやいやいや、こんなのもはや人間だろ!?

 メイドロイドに恋をする、なんて話もニュースで聞いたことはあったけど、今ならその気持ちも分かる。

 この3年間、俺はこの子と一つ屋根の下で暮らすって、マジ?


「……? マスター、いかがなされました?」

「あーいや、何でもない。さっさと済まそうか」


 いかんいかん。こんなことで立ち止まっている暇はないぞ。


 入学式当日の朝。集合時間まであまり余裕はない。

 早いとこ終わらせなければ、きっと間に合わなくなるだろう。

 初日を制する者は学校生活を制す、なんて言葉もあるくらい、最初の立ち回りが大事なのは明白だ。

 入学式から遅刻なんてことになれば、クラスメイトや先生からの印象は間違いなく悪い方向に傾く。

 友達作りから何まで後手に回ることになり、最悪ボッチなんてことも……うぅ、考えただけで寒気がしてきた。


 それだけは何としても避けなければ――。


 最悪の未来を回避するため、意を決した俺は、再び彼女を見据える。


「よし、入れるぞ」

「お願いします」


 無表情のままジッと見つめる彼女の視線に耐えながら、余計な場所には触れないよう、細心の注意を払う。

 俺は震える自分の手を必死にぎょしながら、をゆっくりと彼女に近づけていく。

 慎重に、慎重に――。


「……あ、あれ?」


 想定外の出来事に、俺は思わず間の抜けた声を出してしまう。


 途中までは難なく進んでいたのだが、徐々に締め付けが強くなり、思わず動きを止めてしまった。

 気を取り直して、今度は少しばかり強引に押し込んでみるが、俺の思いとは裏腹に先への侵入を拒んでくる。

 俺は目を半開きにしたまま、状況の打開を試みる。


「くそっ、太ももに引っ掛かってるのか。なかなか……うまく入らないぞ……!」

「……心拍数の急激な上昇を確認。現在、マスターは極度の緊張状態にあると推定。一度、元の態勢まで立て直し、精神状態を安定させることを推奨いたします」

「ここまで来て後戻りさせるとか鬼かっ!」


 淡々と鬼畜な助言をしてくる彼女に、泣きそうな気持ちになりながら叫ぶ。

 こんなところで辞めたら、心がポッキリ折れる自信がある。

 今の俺には、前に進む以外の選択肢はなかった。


 ――ああもうっ、何なんだよこの状況は!


 はやる鼓動を無視し、俺は行為を続ける。

 羞恥心に押し潰されそうになりながらも試行錯誤すること数分――


「はあ、はあ、なんとか突破で来たぞ。あとは押し込むだけだな……!」


 時間もない中での未知の体験。

 焦らずにはいられなかったが、どうにか最終フェーズまでたどり着くことが出来たようだ。


 あとは最後の一押しだけだ……!


「それじゃあ、俺が合図を出すから、『で』のタイミングで腰を上げてくれ」

「かしこまりました」


 こんな体勢を続けているにも関わらず、彼女の声音からは羞恥というものを一切感じない。

 それに比べ、俺は手汗やら脇汗やら、ありとあらゆる体液が出ている気がするが、もうそんなのはどうでもいい。

 早くこの地獄から解放されたい――その一心だった。


「いくぞ……いっせーのーで!」


 彼女が腰を上げたと同時に、俺は流れるような体捌きでを押し込む。

 力を込めた瞬間、ずるりと滑りながら、彼女にフィットする。


 ――成功だ!

 

「よっしゃ!どうだ、うまく入ったぞ!」


 俺は興奮のあまり大きく両手を上げると同時に、渾身の一声を出してしまった。

 いまだに額から大量の汗が止まらないが、無事やり遂げたという達成感で満たされていく。

 ああ、こんな清々しい気持ちになったのはいつ以来だろう……!


「お疲れ様です、マスター」


 ねぎらいの言葉にしては、まったく感情がこもっていないわけだが……今の俺には特に気にもならなかった。

 俺はポケットからスマホを取り出し、現在の時刻を確認する。


 時刻は……よし、この時間ならなんとか入学式に間に合いそうだ。

 俺も急いで準備をしなきゃな。

 さあ行こう、待ってろハイスクールライフ――!


 なんてことを考えながら自分の身支度を始めるため、洗面所に向かおうとしたところ、彼女は両手に何か持ったまま、微動だにせずに立っていた。


「先ほどの体験により、下半身用下着『』の装着方法を記録いたしました」

「そうか、それは良かったな。それじゃあ、お前も急いで支度して……」


 俺はそう言いながらスマホの画面から目を離すと、彼女が持っているものに目が吸い寄せられた。

 ――それが何なのか分かった瞬間、全身の血の気が引くと同時に、全てを悟った。


「では次に、上半身用下着『ブラジャー』の装着方法の教示をお願いします」


 ――あ、終わったわ、俺の高校生活。


 ベランダで楽しそうに踊っている小鳥たちの鳴き声だけが、空しく響いた。



 どうして俺がこんな状況に陥っているかというと、1カ月前に遡る――

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