異世界妄想日記

ムキムキ無菌室

一日目 「追放・クラス」前編

 午前10時頃、2時間目の授業が終わった休み時間。

普通の生徒は次の授業の準備や友達と会話を楽しむ時間。


 そんな時間に俺は机に突っ伏し寝ている振りをしていた。

他の生徒に話しかけられない完全防御の姿勢だ。

 

 なぜそんな事してるかって?説明しよう!。

俺、宇鉄悠真うてつゆうまには、何よりも優先したい趣味がある。

それは異世界転生モノの妄想をする事だ。

「トラックに轢かれて転生」「急に転移魔法が現れて転生」などそんな話を考え、

自分が主人公だったどうするか、その世界観はどんなものなのか妄想する時間が大好きなのだ。


 中学の頃は、小説本を手に取り読んでいる振りをして妄想に浸っていたが、高校に入学してから何故だかそれでも話しかけてくる同級生がいたためこの姿勢に落ち着いた。

 

 さて眠たくなるような授業は終わったし早速妄想にふけるとする。

今朝考えてた物は、「クラスで異世界転移したけど俺だけチートスキルがない」だ。


 物語は、普段と変わらない学校生活を送っていた主人公とそのクラスメートだったが急に世界が輝き出し、気が付いたら知らない場所にいた所から始まる。


「ようこそ来られた勇者様達!どうかお願いだこの世界を救って欲しい!」


 荘厳な神殿に気品が感じられる声が響く。

急に移動させられ戸惑っていた俺たちだが皆揃って声がした方へ注目する。

そこにはキラキラと装飾が付いた服を着て王冠を被っている明らかに王様ぽい男が立っていた。

 その男の周りには、先ほどの男よりも装飾は劣るがそれでもきらびやかな服装の男たちのが控えていた。


「ここは、どこですか? 僕たちをどうするつもりです?。」


 このクラスのまとめ役で学級委員長も務めるイケメンが質問する。


「ここはナントカ王国、私は、この王国の王だ。」


 王様は、そう答えると間髪入れずにいかにこの国が危機的状況にあるか、その状況を打開するため勇者を召喚した正当性などをアメリカの大統領演説の様に説明する。


「でも私達は、一般人だし、戦えないし。」


 王様の演説を遮ったのは、クラス1のギャルだ。

しかしそんな意見も想定していた様に王様の演説は続く。


「安心していい。君たちはこちらに来る際、神から強力なスキルを授かっている。

このスキルを使えれば、君たちは一騎当千の戦士となろう。さぁステータスオープンと唱え、スキルを確認するのだ。」


 王様の言葉には、何か力があるのか同級生たちが従い始め周りから「ステータスオープン」の言葉が聞こえてくる。

 

 僕も促されるように唱える。すると目の前にパソコンのウィンドウのような半透明の板が現れる。しかし何も書いてない。

 周りを見ると王様の周りにいた臣下の1人が他の同級生のウィンドウを見て「聖剣」や「絶対防御」などスキル名を王に報告しているようだった。

王様は、その報告を聞いてうんうんと頷き喜んでいる。


 こっちの世界の人じゃないと見れないのかな?とも思ったがその考えは、同級生達の「おいスキルなんだった?」「俺のはコレ!」とテストが帰ってきてお互いの結果を見せ合っているような会話に否定される。


 ヤバいとは感じたがもうその時には遅く、臣下が目の前にきていた。

臣下は俺に有無も言わせずウィンドウを見てくる。

俺のウィンドウを見る臣下の顔がみるみるうちに険しい顔になっていく。


「どうした? 何かあったのか?」


 王様が異変に気付く、臣下は言っていいものかと更に顔色が悪くなる。


「おい! どうしたのだ早く言え。」


王様に急かされるようにして従者はおずおずと答える。


「ス..スキルが無いのです....彼のウィンドウには何も書いてません。」


 悪い予感が当たった。どうやらというかやはり俺はスキルがもらえて無いらしい。

となるとこの後の展開は大体読めてくる。

王様の様子を伺うと、王様は長いため息を吐き臣下と目配せし合う。


「あ..あのう....僕は、何でもするのでお城で....」


「スキルが無い者に戦わせる事は出来ん。かといって元の世界に今すぐに返すことはできない。こちらで呼び寄せたというのに申し訳ない。生活できるだけの資金は渡す。それで手打ちとしよう。」


 働かせてくれませんかという俺の言葉を遮り王様が早口でまくしたてる。

さっきの完璧な演説はどうしたんだとかそんなに俺を世話するのが嫌なのかとツッコミたくなるが王様はそんな暇も与えてくれない。


 王様が右手を挙げると王様がいるのとは反対側にあった大きな扉から衛兵が入ってくる。


「ちょっと待ってください!あの!あぁ....。」


 抵抗虚しく6人がかりで城から追い出されてしまった。

握らされていたのは中身がこの国の硬貨と思われる巾着袋だけ。城の入口は、さっき俺を連れてった衛兵たちががっちり守っている。なんなら増えている。


「仕方ない。諦めて一般市民として暮らすしかないか。」


 こうして俺の異世界生活が始まったのである。


 うんなかなかにいい導入じゃないか!伏線も張れたし今日いっぱいはこの続きを妄想しよう。


「宇鉄くん あの....起きてる?」


 更に続きを考えようとしていたら横から話しかけられる。

顔を上げると声の主はホッとした顔になる。

 

 声をかけたのは、銀杏田琴葉いちょうだことは

綺麗な黒髪を一本に結いインパクトはないが各パーツのバランスがよく整った顔立ちをしている女の子だ。

 

「どうしたの?」


 俺は呼びかけに答える。まぁ真面目な彼女のことだ時間的にも次の授業が始まりそうになり隣の席である俺のことを心配したのだろう。


「ううん....もうすぐ授業が始まるから起こそうと思ったんだけど心配いらなかったね。」


「心配させてごめん。ありがとう」


想定していた通りだった。こんな冷たい対応の俺にも親切なんて銀杏田さんは優しいんだなと思いながら次の授業の準備をした。

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