ある判事の物語

 私たちの国でも身体刑が廃止された。


 確かに、首吊りや内臓抉り、四つ裂きはもう時代遅れの代物ですからね。


 そこで、新しい刑罰を考えてほしいと上層部から命令された。かなり頭を悩ませるミッションだが、色々考えてみましょう。




 そんなこんなで数日考えて浮かんだ案のうち、とある案が実験的に導入されることになりました。それは、罪に対する罰を害がない程度に分散させて、無関係の人に押し付けるというものです。正直、一番選ばれないだろうと思っていたアイデアが採用されてしまい、かなり困惑しています。




 数日後、どの囚人を対象にするかの人選、刑を受けてもらう人々の人選、それを実行するための呪文の生成を任されました。


 誰に刑を受けてもらうか考えるのはとても大変です。なんせ、無関係の人間とはいえ、この国の人間に受けてもらうのは心苦しいものです。


 そこで、ルーレットを二回回し、出た数字を組み合わせてできた年の人々に受けてもらうことにしました。そして、受けてもらう人々は適当に選んだ違う国の人々にしましょう。


 勢いよく回ったルーレットは20と23を指しました。2023年ですね。遠いの未来の、異国の人間に罰を受けてもらうことになってしまいました。




「貴方には新しい刑罰を受けてもらいます。ただ、このことは誰にも言ってはいけません。もし言ったことが発覚した場合、貴方は極刑です」


 そう言いながら私は罪人に近づき、左手を彼の頭上に置きました。


 そして、先ほど完成したばかり呪文を唱えました。彼は困惑した表情で私を見つめています。そうでしょう。今ここで何が行われているかは、私にしかわからないのですから。「貴方への処罰はもう終わりました。これにて釈放です」


 罪人、いや元罪人は驚いた表情で私の顔を見つめました。


 私も彼の目を見つめ、こう言いました。


 

「貴方は無罪放免になったわけではないですからね。貴方への罰は後世の人間達へ分配されました」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

イトグルマ 六原 @rokuhaaraa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る