ある元罪人の物語
司法省のカミソリ判事の話が聞きたい?
こんな片田舎までわざわざ来たということは、相当熱心に調べたんじゃないか?
おお、そうか。よし、わかった。少しオレの身の上話に付き合ってもらおうじゃないか。
あれはまだ、オレがロンドンに住んでた頃のことだ。
そうだな、ガキンチョ共がタダで学校に通えるようになったくらいのことだ。
当時のオレはあんま金がなくてな、ワル仲間とつるんでいろんな悪いことしてたってわけだ。
あれだぜ? 殺しとかはやってねえ。盗みくらいだ。
金持ってそうな奴が住んでる家に忍び込んで盗んだり、街中でスリをしたりって感じだ。
そんな生活をしてた頃、ワルの仲間内で妙な噂が流れたんだ。
そう、カミソリ判事の新しい刑罰についてのだ。
お前さんも覚えてると思うけど、あの頃身体刑が廃止されたじゃないか。それで、身体刑に代わる新しい刑罰をカミソリ判事が新しい刑罰を色々試しているって噂になってたんだよ。
けどよ、捕まったやつらはワルの世界に戻ってこないし、そもそもロンドンにもいやしねえって感じだったから、詳しい内容を知ってる奴はいなかったんだよ。
刑罰が変わろうが、捕まらなければどうってことはないんだから、オレの仲間たちはそんな噂なんて関係なしに今まで通りワルやってたってわけ。
だけど、捕まっちまったんだ。
ちょうどそんな時に捕まっちゃったもんだから、その新しい刑罰の実験体の一人になっちまったんだ。
あ、詳細については話せないぜ。話すと極刑だと約束させられたからな。
あとでニュースペーパーを読んで知ったんだが、どうやらオレに課せられた罰は正式には採用されなかったらしいじゃないか。
よし。オレの知ってるカミソリ判事の話は以上だ。
今日はわざわざこんなところまで来てくれてありがとな。
また、いつでも遊びに来てくれ。
以上があいつに話したことだ。そのあと? ああ、罰を受けたあとか。そのあとは、あんたのこと怖くてロンドンからここに引っ越したんだよ。おう、もう悪いことはしてないぜ。ただのしがない農家やってるよ。
ひとつあんたに言っておきたいことと言えば、あんたが別れ際にオレに言った言葉が今でも頭にこびりついているし、たまに夢にまで出て来て来やがることくらいだな。
「貴方への罰は後世の人間達へ分配しました」っていうやつだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます