第4話 葛藤
「おい、白川はどこだ!」
川崎は目の前のセーフティボックスと、白川の不在に混乱しながら郡司に詰め寄った。
「察していると思うが、この中だ。解放して欲しければ言うことを聞け」
郡司がそう言った途端、川崎は殴りかかった。それを長岡と立花が抑える。
「おい、落ち着け。開けるには俺の音声が必要なんだ。主導権がどっちにあるか考えろ」
「力づくでも言わせてやる」
「野蛮人が、話を聞け」
「ダメだ、今すぐ解放しろ」
「好きな女の前でイキるなよ」
「お前ッ!」
川崎はぐっと拳を握りしめるが、3対1では分が悪すぎた。川崎はそれでも力づくで押し切ろうとするが、2人の拘束を振り払うことはできない。
しかし、川崎にとっての不幸はこれで終わりではなかった。
時を同じくして、満開の桜の木の下。そこには眠りから覚めた蛇のような宇宙生命体の姿があった。その生命体は普段するはずのない人間の匂いを嗅ぎつけ、興奮状態に陥った。
そして一気に崖を這い上がると、川崎達のいる場所に飛び出してきた。その姿はまるで龍のようで、体躯は人間の50倍以上はある。それは、今は全個体駆逐済みとされているはずのリュウと呼ばれる宇宙生命体だったが、郡司達にとってそれは教科書上の怪物であった。
「うわああッ!」
「なんだこいつはッ!」
突如現れたリュウに4人は驚きの声をあげた。興奮状態のリュウは4人を見ると大きな口を開けて襲いかかる。各々が呆気に取られ、動けない中、咄嗟に郡司は持っていた手榴弾を投げつけ、リュウの顔面付近で爆発させた。
「いまだ!! 逃げろ!!」
その声で我に帰った立花と長岡はリュウから一目散に逃げていく。
「でも白川が!」
「馬鹿野郎! 置いていくぞ!」
「でも!」
「セーフティボックスの中だ! 後でまた来ればいい!」
「クソッ!!」
そう言うと川崎も走って離脱する。後ろを振り返ると、煙の中、リュウがセーフティボックスを掴み崖下へ戻っていくのが見えた。
「どうなってるんだ郡司ッ! 全て説明しろ! あれもお前の企みか!」
離れた場所まで来たところで、川崎は郡司に詰め寄る。
「違う、俺の計画は白川を拘束するまでだ。確かに危険区域だと知ってはいたが、あんな化け物がいるとは思わなかった。危険区域の中で本当に危険な場所は一握りだという噂もある。だが、あんな奴がいるなんて、知らなかった」
「知らなかった? ふざけるなよ。何のためにそんなことをしたんだ」
「お前を新人戦に出させるためだ」
「そんなことのために白川を拘束したのか! 手榴弾まで用意して。とにかく俺は白川を助けにいく。セーフティボックスが作動している限り死ぬことはないだろうけど、4時間後、どうやってもセーフティボックスは開く。そこがタイムリミットだ」
そう言うと川崎は郡司を睨みつけ、長岡に問う。
「ここら辺に戦闘機がある場所はあるか?」
「旧式なら今は使われていない基地に置いてあるはずだ」
「案内してくれ」
「わかった」
長岡はそう言うと走り出す。
「どちらにせよ今回のことが公になればお前の新人戦出場は取り消される。お前も来い」
そう郡司に告げると川崎も走り出した。
残されたのは立花と郡司だ。立花は今すぐにでも川崎を追いかけようとしたが、動かない郡司に驚きを見せる。
「行かないのか? 郡司」
「……」
「おい、行かないのかよ」
「戦闘機に乗れば戦闘ログから規律違反が確実にバレる。そうなれば新人戦には出場出来ない。俺の操縦士としての生命も絶たれる」
郡司はイライラしながら言った。それを聞き、立花は思わず叫ぶ。
「そんなこと言ってる場合かよ!」
「分かっている!!」
「川崎は転科してから長い。きっと俺たち無しじゃ勝てない。俺は行くぞ」
そう言う立花に対し、郡司は絞り出すように言う。
「川崎なら……1人でもあの怪物を倒す」
「見損なったぜ郡司。俺はお前の強さに憧れてたけどよ、お前の強さは人を助けるためにあるんじゃなかったのかよ」
立花は吐き捨てるように言うと川崎を追いかけた。
残された郡司は拳を振り上げて地面を殴った。全て、郡司は分かっているのだ。
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