第6話 6日目 帰国そして・・・
トラベル小説
朝7時に朝食会場へ向かった。昨日オムレツを食べたレストランの2階である。
結構広い会場で、すでに20人ぐらいの人たちがいた。さすが人気のあるホテルだ。
小さいオムレツが出るのは愛嬌だった。これにはケチャップ味か塩味がつく。コーヒーもおいしかった。
長谷川さんは無口だったが、うるんだ目をしていた。私同様寝不足だったみたいだ。
8時に教会に行き一回りしてからチェックアウトをし、駐車場を出たのは10時になってしまった。駐車場の精算機はクレジットカードしか使えず、日本のカードが使えるか不安だったが、しばしの時間がかかった後、ゲートが開いた。以前、ガソリンスタンドで日本のクレジットカードが使えないことがあった。ヨーロッパで発行されたカードしか使えないところがあるということだった。
長谷川さんのタブレットは今日も不調だ。バッテリーではないようだ。彼女はがっかりしている。でも、シャルル・ド・ゴール空港までは、30年前にも走った道だ。そんなに難しい道ではない。ただ、SAが少ないので、トイレは早めに行かなければならない。
「木村さん、このまま空港に行ったら8時間ぐらい時間あまりますよね」
「そうですね」
「だったら、ルーアンに寄れませんか?」
「途中ですから寄れると思いますよ」
ということで200kmほど走ったところでROUENという案内板を見つけ、高速道路を下りた。目的地はジャンヌダルクが火刑にあった広場に建つジャンヌ・ダルク教会である。教会に行く前にレストランに入った。海に近いのでシーフードを注文した。タラのムニエルだ。魚とは思えないおいしさだった。ソースもおいしかった。
教会の中はステンドグラスがまぶしかった。おごそかな雰囲気は群を抜いている。皆ジャンヌの冥福を祈っている。余計な話ができない雰囲気だった。
4時にルーアンを出発。6時に空港に無事到着。本日の走行距離300km。早々にチェックインし、ラウンジへ。ここにはシャワールームもある。ビジネスクラスは至れり尽くせりだ。
9時に離陸。昨日寝不足だったので、機内食を終えるとすぐに寝入ってしまった。
夕方4時成田空港着。
長谷川さんと握手をして最後の言葉をかわした。
「結婚式はあげません。いつの日か馬に乗りにきてくださいね」
「わかりました。いつか行きます」
「きっとですよ」
と言って別れた。
1年後の夏に、千葉の牧場に立ち寄ることができた。
「乗馬体験をしたい」
ということで申し込むと、ご主人らしい人が対応してくれて、柵の中で馬をひいてくれた。口数は少ないが、やさしい顔で対応してくれている。
(この人なら大丈夫だな)と思った。体験が終わろうとする時、子どもを連れた彼女が現れた。
「木村さんじゃないですか!」
という大きな声。ご主人はびっくりしている。彼女は髪を後ろで束ね、化粧気のない顔でいる。着ている服もつなぎの作業服だ。だれも1年前までCAをしていた人とは思わない。
「ほら、私の城めぐりの友だち。いっしょにフランスにも行った、いわば元カレね」
と彼女が言うので、私は手をふって否定した。ご主人は苦笑いをしていた。
2人のお子さんは本当にかわいかった。さすが、彼女の血筋だと思う。
帰り際、駐車場で車に乗ろうとする時、彼女が走ってきた。
「木村さん、来ていただきありがとうございました。これ、特産の馬肉です。うちの馬じゃないですけどね」
「ありがとうございます。幸せそうで何よりです」
「はい、幸せです。子どもたちはいい子ですし、主人もやさしいです。初めての日は感激してくれました。木村さんの自分を大事にしなさい。というアドバイスのおかげです」
「そんな~」
自分の顔が赤くなるのがわかった。女性は母になると強い。亡くなった妻もそうだった。久しぶりに妻を思い出した自分だった。
あとがき
この小説は、2019年10月にロワール川流域の城めぐりをした時のことを思い出して書いたものです。小説には出ていませんが、シャンポール城やシュノンソー城は見応えのある城でした。ヴィランドリー城はもう一度行ってみたい城です。小説のとおり閉館時間がせまっていて、ゆっくり見られなかったからです。訪れるなら陽が長くてバカンス前の6月が一番いいと思います。
旅シリーズはしばらくお休みです。次回作は平行して書いている「世界平和維持部隊」です。ジャンルがまるで違いますが、興味があったら読んでみてください。
飛鳥 竜二
フランス城めぐり 飛鳥 竜二 @taryuji
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