Day29 答え

 黒鬼は改めて遭を見上げ、黒と金の合間から投げかけられる視線と視線をぶつけた。奥に何があるのかを見通すことは難しく、表層には怒りと困惑、更にそれらをねじ伏せる強い意思がある。

 そこまでを確認してから視線を外し、黒鬼は最大限首を回して周囲を見渡した。ここへ来た時よりも遠ざかった天井、外界を遮断するカーテン、いつから使われなくなったのかわからない照明。遭は射るような目で沈黙を守っている。

 味気ないだろうと移された食卓、絵画もない壁、どれもが見飽きることすらなくなった、自分であるとすら言えそうなもの。そして同時に、過ぎ去った日々をまとわりつかせたもの。

 黄金こがねのことを話したのは遭が話す姿の奥底へふたり共に通じる何かを感じたからで、それ以上の意図はなかったが、語り終えた時黒鬼に去来したのは「ここまで来たのだ」という達成感にも近い感覚だった。旅の始まり、旅の果て。

 遭が去った後には目と口を閉ざし、ただの首になってしまおうかとも考えたのだが。射るようだった目は射抜くよう、鋭さを増している。似ても似つかず、それでいて重なる姿。

 黒鬼は目を閉じ、二呼吸後に開くと、

「連れて行ってくれ、遭。君とまだ語り合いたい」

 それにまだ、黄金こがねがわたしのために、どんな素晴らしい額縁を用意したのか見ていないんだ。語り終えた時よりも前向きな表情へ、遭は無言のまま右手で軽くテーブルを叩き、拍手のような音を立ててから、

「無理矢理持って行くことにならなくて良かったわ、あなた結構重たいし。えぇ、語り合いましょう、黒鬼。憎むのもそれ以外もまずはもっと知ってからにするわ」

 食べるのもね。付け加えて微笑む姿は強欲に満ち満ちた、悪魔そのものだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る