Day21 飾り

 今日の黄金こがねは姿を見せた時から明らかに浮かれていた。わたしの位置からは見えないが、実は足先が地面から離れていると言われても納得できそうな浮き上がり方だ。淡い照明でもわかる笑顔へ、

「今日は髄分とご機嫌だな」

 わたしにも教えておくれ。声を掛けると、待ってましたと言い出しそうな賑やかな表情で机上に身を乗り出した。吐く息が感じられる距離、耳元へ弾む声が囁く。

「わかるかい? 実はようやく完成したんだ、黒鬼。ようやくだよ」

 何が、と聞き返すよりも素早く身を離し、黄金こがねは外套のポケットから何かを取り出してわたしの頭上へと載せた。ある程度の重さと硬質な感覚がぼんやりと伝わってくるが、当然見ることは出来ない。載っているだけなので頭を動かせば落として確認も可能だろうが、それは流石にと視線を上げたところで、わざわざ持ってきたらしい大きな手鏡が目の前へ現れる。

「……とても、よく似合っているよ」

 曇りひとつない鏡面には、身体がないこと以外は記憶の中と寸分違わぬ浅黒い自分と、いつか黄金こがねが見せた金剛石を全面にあしらった冠らしい宝飾品が映っていた。地金は金ではなく、月光を抽出したような銀に輝き、蔦や自然を思わせる曲線のあちこちに置かれた金剛石が七色の炎を燃やしている。

 宝飾品で身を飾ったことなど一度もない頭上へ抱くには些か分不相応な気が、わたしの困惑をよそに、

「欧州のティアラという宝冠を参考に、私が図案を選んで作らせたんだ。この間見せた金剛石も全部、使ってある」

 黄金こがねは愉しげに解説をし、見やすいようにと頭上から宝冠を取って、わたしの前へ置いた。息を飲む美しさとはこういったものに使うのだろう。

 微笑んでこちらを見守る黄金こがねへ、わたしはとある疑問をぶつけてみた。ひと目見た瞬間から感じていたこと。

「このティアラ、どうして地金が金じゃないんだい? 黄金こがね

 あの忌々しい黄金おうごんで財なす石が峰なのに。黄金こがねはぱちり、一度大きな瞬きをして、

「黒鬼は嫌いだろう? だから無理を言ってプラチナにしたんだ。懐中時計以外で使ったことなんかないと怒られたよ」

 最終的には石が峰の名で押し切ったけれどねと澄んだ笑い声を上げた。

「……知っていたのか」

「勿論。君は自分が思う以上にわかりやすいよ、黒鬼。……まぁ、僕らはその黄金おうごんで生きているんだが」

 名前の後、消え入るような言葉はあまり聞こえなかったが、それにしてもしてやったりの顔が憎たらしい。仕返しのつもりでわたしの肖像画は、とたずねてみると、黄金こがねは一瞬で苦虫を噛み潰したような顔をし、いずれ、と一層低い声でぼそりと呟いた。いずれ。

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