Day17 額縁

 下書きもろくにせず始まったわたしの肖像画制作はやはり難航し、一枚目にはなるほど鬼とはこういうものかという説得力に満ち満ちた、おどろおどろしい緑の光をふたつ並べた顔らしいものが収まっていた。

 わたしとしては黒鬼の名に相応しいと満更でもなかったのだが黄金こがねは気に入らなかったらしく、次のキャンバスを運び込み、今度は木炭で下書きから。それは多少迫力をなくし人らしい形になったものの、まだ十全な実力は発揮されていなかったらしい。

 次、その次ともう何枚のキャンバスがこの部屋にやってきたのかわからなくなってきた。一度心折れかけたのか画家を伴ってきたものの、石が峰の血すら持っていない男は部屋をぐるり見回して、さすが石が峰の御屋敷ですね、ここで御当主の肖像を? と微笑み、笑顔を引きつらせた黄金こがねと出ていってそれきりだった。

 眉根を寄せながら、獲物を射る目をしてキャンバスから顔を覗かせ、また戻る。木炭を忙しなく動かしてはまたわたしを見、右手を動かす。段々とそんな仕草が板についてきた黄金こがねへ、

「いい加減諦めたらどうだい、当主様はそんなに暇じゃないだろう」

 最近は日が落ちる頃のご訪問じゃないか。揺れる灯りが見えない訳ではないだろうと聞けば、

「僕は黄金の調達係だから、そう忙しくもないのさ。実務はほとんどやってない。それより、今度こそは君に見えそうだよ、黒鬼。額縁も手配したんだ」

 満足気に微笑んでキャンバスをわたしの方へ向ける。黒く柔らかな線で描かれている顔は確かに今までで一番顔らしく、記憶の彼方にある自分にも似ている気はしたが如何せん、まだ下書きでしかなかった。ここから油絵の具を使い、万一上手くいったとしても乾くまでにまた時間が必要なはず。

「……気の早いことだ」

「君の絵を入れる額縁は特別でないと。今から頼んでも間に合うか怪しいくらいだよ」

 息を吐く姿は画家よりも画商のようで、今度も駄目かもしれないな、そんな予感にわたしは見つからないよう笑みをこぼした。季節は出会った時から少なくとも一周し、また次へと歩を進めようとしている。

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