Day14 月

 夜だからといって何が変わる訳でもない。元々薄暗い部屋、しかも置かれた机から窓は確認できるものの、幾重にか重なったカーテンが外の世界を遮断している。ここへの安置、ましてやこの薄暗さを望んだのはわたしだが、明かり取りか景観用の窓を確保しておくべきだった。

 眠れなくなってからの方が長いが、それでも夜となれば目を閉じるのは瞼にはまだ本能でも残っているのだろうか。自発的に行える数少ない動作で訪れた暗闇へ、今夜は訪問者があった。気配を殺そうと努めてはいるが賑やかな雰囲気はちっとも死んでいない。

「……こんな時間にどうしたんだい、黄金こがね

 目を閉じたまま口を動かすと、あれ、寝てないんだねと予想通りの声が聞こえる。君は自分が思うよりも騒がしいからね、目を開くと感じていたよりは近いところに黄金こがねは立っていた。初めて見る和装はゆったりと細い身体を包んでいる。

「今日は月が綺麗だから、共に見ようと思って家を出てきたんだ」

「まさか寝間着じゃないだろうな」

「流石に着替えては来たよ。好きな人に会うというのに、寝間着では礼を失するからね」

 深夜の訪問については問題ないらしい。カーテンが開かれれば確かに、冴えた月光が部屋をほの白く染める。陽光とは違い、白い光に温度はない。

 太陽になりそこねた神、Metztliの伝説を思い出していると右腕で器用にわたしを抱えた黄金こがねは再度窓際へ立ち、ほら、と弾んだ声を出した。

「綺麗だろう、黒鬼。うさぎもはっきり見える」

「……あぁ、とても綺麗だ」

 うさぎは月光が眩しすぎるからと神々が月へ投げつけたのだが、そのまま住み着いてしまったのだろうか。月は住みやすいと思うかい、黄金こがね。わたしの軽口に黄金こがねは迷う素振りすら見せず、

「君がいないから駄目だろう」

 断言した。おまえをそうさせたのは何だろう、月の神に問うてみても返事は白い光ばかり。わたしごときではその意を汲み取ることは出来なかった。

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