Day13 流行

 また別の日、黄金こがねは悪戯を企む子供のような、それでいて不安げな複雑な表情でわたしの前に現れた。家督を譲られたばかりの年若い青年へ降り注ぐ苦労に思いを馳せたところで、

「今日は贈り物……の前段階を持ってきたんだ、黒鬼」

 当の本人がそれを謎の言葉で打ち砕いてしまう。瞬きで応えると椅子から立ち上がり、眼前へ懐から取り出した何かをばらばらと広げた。それが視界に入った瞬間、真っ先に感じたのは眩しさ、次にやってきたのは驚嘆。つい先日黄金こがねの言葉で感じていなければもっと鮮烈だったであろう感情をもたらしたのは、内で炎を燃やす石だった。

 宝石は魔女と共にいた頃にいくつも見たが、青白い中に七色の炎を燃やすものは見たことがない。忌まわしい黄金の鈍重な光とは違い、石は鋭利に、誰にも頭を垂れるつもりはないといっそ攻撃的に輝いている。

「最近流行りの、ジュエリーにしようと思って金剛石をいくつか取り寄せたんだ。黒鬼はどれがいい?」

 いつの間にやら国が閉ざされ、そして少し前に激動の中で再び開かれたのは「何となく」感じていた。指輪や首飾りは向こうでは富の象徴だったがこちらでもそうなるのだろう。にしても。

「どれがいいと言われても」

 わたしには首はあっても肩はないし、ましてや指もないんだが。そう続けようとした言葉を、あぁ! 閃きが遮った。

「選ばせるのは無粋だったな、すまない。全部君のものなんだから全部使って、頭の飾りにするよ」

 あぁでも簪だと髪が足りないか、ひとりで賑やかな姿に幼子のような無邪気さと我儘が重なり、わたしは諦念と慈愛を込めて、

「簪を頭の天辺に突き刺すのだけは止めてくれ」

 突き刺された自分を想像しながら笑った。金剛石は知らん顔をしている。

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