Day11 坂道

 坂はこの国では死者と生者を分かつさかい であると聞く。ならば延々と続く坂の下にあるこの屋敷はわたしに相応しいかもしれない。誇り高い名を失い、黄金の悪魔、遂には黒鬼へと成り果てたわたしには。

 異国のものを鬼と呼ぶこの国へ来てから、そして身体が腐り落ちてからどのくらい経っただろう。考えても仕方のないことに思いを巡らせるのは暇だからだ。

 身体の喪失は思わぬ弊害を生み、力が衰えたことで今や、契約した石が峰の一族でも先祖返りとしか会話が出来ない。わたしの声はその他には聞こえず、そもそも存在を認識するのも困難らしい。

 魔法なぞ学ぶ機会はなかったので首だけとなっては移動も出来ず、時折現れる「真の」当主様へ黄金をもたらすだけのもの。死すらわたしを避けていく。薄暗い部屋では時間もこご り、べたべたとまとわりついては溶けていった。

 そんな退屈すら感じられない日々でも時折光が差すこともある。今日のように。

「初めまして、石が峰 黄金こがね 。わたしが、」

「……すごい!」

 自己紹介を遮られたのは初めてで、思わず舌を噛んでしまった。まだ痛覚があること、自分の失態に驚いたところへ低く、耳を集める声が続ける。

「会えて嬉しいよ、黒鬼」

 目は薄闇でも光を放ち、上がる口角は三日月の美しさ。

 新たな先祖返りである黄金こがね は声だけが年齢を重ねた、まるで少年のように未分化な青年だった。

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