Day8 鶺鴒
人の形をしたものの首というのは重く、出来るだけ首の断面と呼べそうな部分へは触らないようにしつつ、視界良好を保つよう持つというのは相当に難しい。しかも私には右腕しかないのよ。
それでもいつぶりかの外を見た瞬間の黒鬼を思うと、こちらから音を上げるのは絶対に嫌だった。優しさではない、意地だ。主導権を握りたいという意地、遭は自分の想いをそう分析して黒鬼を抱え込んだ腕をまた僅かに上げる。
「ありがとう、遭。もう戻してくれて構わない」
腕の動きで察したのか、平坦な声へ微かな労りが混じる。遭は眉を上げたものの、突然落とすよりはマシだろうとその提案を受け入れることにした、その時。一羽の鳥が窓の前を横切った。白黒。黒鬼は姿を捉えたのか、セキレイ、無意識にただの音を零す。
まずは食卓に首を戻し、向かい側へ座ってから遭は、
「詳しいのね、鳥。そして目がいいんだわ。私にはただのモノクロだった」
好きなのかしら、世間話をするような気軽さで口を開いた。気にしないようにしてはいたがこの屋敷を訪れてから常に張り詰めていた何か、それをあのシルエットが断ち切ったのかもしれない。
「確かに昔から目はいいかもしれない。鳥は……あぁ、あの鳥は遭のご先祖様から教えてもらったんだ。石が峰の初代はあの鳥を、国生みの祖だと尊んでいた」
わたしのところではhuitzilinが尊い鳥だったよ、黒鬼の言葉は耳慣れなさと懐かしさを孕んでいた。また聞きたいことが増えたわ、遭は密やかに笑い、右手だけで頬杖をつく。日はまだ高い。
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